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俺達は魔王再討伐をやる気はない。  作者: 紅梅 鮭卓郎
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ボクサーパンツを履く系美少女

 暑くて寒い、そんな異様な体の怠さに目を覚ました。

 ……そうだ。私リビングのカーペットで寝てたんだっけ、そんですんごい夢を見た。雪山に遭難して狼に殺される悪夢。きっとそんな夢を見る程疲れてたんだろうな。

 ふわふわとした意識の中、体をゆっくり起こす。そうすると体に掛けられていた毛布が落ちた。……毛布?


「……あれ、カーペットじゃない?」

「カーペットじゃないよ」

「バビョッガビャ⁉︎ あだっ!」

「ばびょ…………?」


 ボソッと呟いた独り言に耳に優しいアルトの返事が返ってきたという驚きのせいで壁に頭をぶつけた……痛い。

 痛みで意識がハッキリすると私は暖かい部屋でベッドに寝かされていたという事を把握した。

 ……全く知らない場所だ。家じゃない。

 本当に、本当に小麦粉を飲んだだけで異世界転移したというのか? それならあの雪山や狼はどうなった? 私はなんで生きてるんだ? この人が間一髪のところを助けてくれたのだろうかと頭にハテナを飛ばしまくりながらアルトの声の持ち主を見やる。

 綺麗な白髪を下に二つに結って分厚い本を手にしている美少女がその綺麗なアクアマリンの瞳で怪訝そうに此方を見ていた。

 身長は私よりちょっと高いぐらいだろうか……不機嫌な顔をしてるけどそれも凄く可愛い。その顔のまま罵られたい。二千年に一人の美女とか比べ物にならないぐらいの美貌の持ち主だ。


「えーと……大丈夫?」

 

 暫くの間彼女の美貌に見惚れていたものの、声を掛けられて正気に戻った。

 おっとぉ……変態みたいにじろじろ見すぎてしまったか。大丈夫かな、セクハラとかで訴えられない? だけど美少女好き(年下まな板派)なら誰だってこんな美少女を目の前にして上から下まで隅々までじっくりと舐め回さないなんて選択肢は無いのだから仕方がないだろう?

 しかし聞いてて思ったがこの顔にしては少し声が低い気がする。目を閉じれば男性の声に聞こえなくもない。まあ声帯は人それぞれか。


「は、はい……一応」

「そう? それなら良かった……で、済むとでも思ってるの? アンタあんな薄着でこんな真夜中の雪山彷徨ってるとか死にたいわけ? それに……」


 彼女がホッと一息付いたのも束の間、すぐに私に向かってすごい形相で説教をし始めた。美人の怖い顔ってマジで怖いけど私にとってはご褒美でしかないんですよね……。

 しかしその件に関しては不可抗力なんです。実は小麦粉飲んで寝転んだら知らぬ間に雪山に遭難してて……なんて初対面の人に言えるか! どう考えてもイカレ野郎かふざけ野郎としか思ってくれない! 薄着で雪山に遭難した奴とかいう現状でもマイナススタートだっていうのに。

 それにしても雪の中でこんな美女に助けてもらうとは思わなかった……。

 が、こんな上手い話あるわけない。もしかしたら雪女か山姥の類いの可能性だってある……え、怖。狼の次は妖怪?

 いやいやでも雪女がこんなに親身になって叱ってくれるのか? まあそんなに雪女のこと知らないけども。


「ねえ聞いてる?」

「き、聞いてますすいません……」

「はぁ……後で話聞くから取り敢えず風呂入ってきて。着替えも用意してるからそっちに着替えてね」

「えっ風呂……?」

「布団に入るだけじゃ身体暖かくならないでしょ。今も冷たいってのに……ほら早く来て」

「えっちょ、まっ……」


 腕を引っ張られ勝手に風呂場に案内されたかと思えば「着替えは用意してあるから」と言ってドアをピシャリと閉められた。

 あまりの急展開すぎて追い付けないが、事を進める為には取り敢えず入るしかないかと思い、衣服を脱いで風呂場に入る。

 ご丁寧にも浴槽に湯まで入れてくれたらしく暖かそうだ。

 寝室でも思ったがこの家は木材が主に使われているんだな、きっと雪山のコテージなのだろう。木風呂なんて初めてだ。

 浴槽に浸かる前に身体を洗う為、シャワーを浴びた後、ボディソープを手を付けたそのときに違和感を覚えた。


「あれ、これ日本語じゃない……」


 そう。ボディソープの容器に書かれていたのはアラビア語のような英語のような何かで読めるはずがないのにスラスラと自然にこれがボディソープだと私は読んでいた。

 これが本当に異世界に転移してしまったということを実感した瞬間だった。


「うわ……まじか……」


 あの嘘くさいキャッチフレーズと手頃な方法でこんなことに巻き込まれるだなんて思いにもよらなかった。

 もう、戻れないのだろうか。確かに受験勉強や親の圧に疲弊していたのは本当だが、決して元の世界に未練がないわけじゃない。友人やゲームだったり、好きな動画投稿者の最新動画を見ることだってあの世界じゃないと出来ないことだ。

 どうしてもいち早く戻りたいとは思わないものの、どうしようと一抹の不安が頭によぎってモヤモヤしてしまったが、人の家の風呂であまり長居するのも失礼に感じたので全身を洗い流して浴槽に数分浸かったら上がることにした。



 

 ……ボクサーパンツ。

 いや、誰がどんなパンツを履こうがその人の勝手だがまさかあんな美少女が色気のない灰色のボクサーパンツを履いているとは思いにもよらず絶句した。

 さっきの不安が全部飛んでしまった。結構深刻な感じだったのに。もう今度からあの雪女さんのことを見たらああ、こんな顔して下はボクサーパンツ履いてるんだなあとしか思わなくなってしまう……。いやどんなパンツ履こうが自由なんですけどね?

 思わず全裸で茫然としてしまったが湯冷えを覚えてさっさと着替えてしまおうと気持ちを切り替えた。人の下着を履くということに関してはそこまで抵抗感がないのでさっさと着替えを済ませて雪女さんのいるところへ向かうことにする。

 ……彼女の華奢な見た目に反し、意外と私とサイズが合わなくてブカブカしてる。確かに私より身長は高かったけれども……。人の服だから少し抵抗感があったがズボンがずってきたので少し折り畳む事にした。

 脱いだ服は洗濯してくれているらしい。隣の洗濯機らしきものがガタガタと動いている。……異世界にも洗濯機あるんだ。

 洗面所から出て物音がする方に向かうといい香りが漂ってきて思わず空腹感を覚える。

 良かった……包丁を研ぐ音じゃなくて。美少女山姥説も忘れたわけじゃない。助けてはくれたのは大変有り難いが警戒心は一応持っておこう。

 雪女さんの姿が見えるとこちらの気配を察したのか彼女はこちらを向いた。


「早かったね。もう少し浸かってた方が良かった気がするけど……」

「お風呂ありがとうございます。けど人のお風呂で長居するのも失礼かと思って……」

「僕のテリトリーで遭難されただけで迷惑掛けられてるからもう気にしないってのに……」

「う、すいません……テリトリー?」


 テリトリーって、あの雪山がか?

 やっぱりこの人雪女じゃないのか本当に。凍らされる?


「テリトリーじゃなかったらあんな時間に外になんか出ないよ。今日は吹雪が酷いんだから。警戒アラームが鳴ったから外に出ると、ミツオオカミが吠えている先に死にそうなアンタがいたって訳」


 ミツオオカミ、恐らく二メートル級の冷気を吐き散らかしたあの狼のことだろう。アレに対抗できたっていうのか。この人凄い。

 

「大変ご迷惑をお掛けしました……」

「結構結構。あーあ、もしアンタが使節の人間だったら凍死してくれても構わなかったけどどう見ても違ったからね。ミツオオカミに指示して僕がここまで運んだんだよ」


 やっぱり私の事を助けてくれたのは雪女さんだったということか。

 運んでくれたっていっても五十キロ前後はするはずなんだが、華奢な見た目なのに意外と怪力だったりするこの人?

 それにミツオオカミって奴に指示する能力を持ってるなんて……彼女を知れば知るほどわからなくなる。一体何者だ?

 

「えっと、指示……したんですか?」

「うん。僕のテリトリーにいる獣は皆、僕の家族だからね。指示すれば聞いてくれる。いや、むしろ獣達のテリトリー、家族の一員に僕も入れてくれたようなものだけれど……」

「そうだったんですか。雪女さんは獣使い的な人なんですか?」

「雪女……? ナニソレ? 獣使いでもないし、あと僕男なんだけど……」

「オトコなんだけど……?」


 ……今、男って言った? 確かにその声で男って言われても納得いくけどその美少女顔で男って言われても信じられないんだが? 貴方は二次元でよくいらっしゃる男の娘ですか?

 納得いってない私の様子に気付いたのだろうか、この人は私の下半身を一瞬チラッと見てとどめの一言を刺してきた。

 

「……今アンタが履いてるの男物でしょうが」

「あっ……ああー!」

 

 ど、どどど通りでボクサーパンツ! なるほどね! ついてるわけか! ついてるわけかぁ……。

 納得はしたものの美少女好き(年下まな板派)としては若干のショックに耐え切れず、命の恩人に向かって失礼を承知に最後の野望を抱き、はち切れそうな胸に手を当てて声を振り絞った。


「……歳、いくつですか」

「何急に……二十歳」


 年下かもしれないという希望を打ち消された私は膝から崩れ落ちた。もうなんの悔いもない……。

 その様子を見て彼女……いや彼は大きな溜息を吐いた。

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