幻の槍
広大な領土持つ騎士の父と、伝説とまで言われた傭兵の母を持つ私は裕福で恵まれた生活をおくっていた。そんな暮らしがずっと続くと思っていた。あの日が来るまでは...
私の名前はセイラ、賞金稼ぎである。あらゆる武器の扱いを騎士だった父と、傭兵だった母から教わって育った。主に好きな武器は鞭である。
「セイラ、今日はオーウェンの所に行かないのかい?」
声をかけてきた黒髪の男はカイラス、仲間の一人である。どこかの国の王子だとか噂されているが、昔の事は聞きづらい、私も聞かれたらイヤだから。
カイラスは槍の名手で、一流の戦士だと私は思う。
「だな、そろそろ狩りに行くべ。」
もう一人、声かけてきた男がいる。長髪のこの男の名はレイン、自称天才魔術師だ。
今私はこの二人と賞金稼ぎをしながら旅をしている。カイラスが言ったオーウェンという人物は旅するクエスト屋だ。クエスト屋というのは賞金首の手配書や、街の人からの依頼など、様々な情報を売る商人である。クエスト屋は嘘やデタラメが多い中、オーウェンの店は良心的なほうだった。
「そうね。朝ご飯も食べたことだし、行ってみよう。」
朝食を食べ終えて宿を後にした私達は、街の中心部でオーウェンの姿を見つけた。
「おはようオーウェン、何かいい情報ある?」
私は気軽に声をかける。オーウェンは黒く焼けた肌とは正反対に、白い歯で笑顔を見せた。
「おはようセイラ、お前さん方の為にいい情報をとっといたよ。」
そう言って一枚の羊皮紙を見せる。私はその羊皮紙を受け取ると内容を確認する。依頼主は神官の様で、朽ち果てた僧院で今だに稼働しているゴーレム数体の討伐といった内容だった。
「いいわ、買うわ。」
私は即決で答えた。
「で、幾らなんだよこのクエスト。報酬は?」
ちゃっかりした性格のレインが羊皮紙を覗きこむ。オーウェンが片方の手の平を見せた。
「500ガルドか、お得だな。」
カイラスが呑気にそう言うと、オーウェンが黙って首を振った。
「五千だ。」
「五千!」
オーウェンの言葉にカイラスは驚く。
「で、報酬は?」
一方、レインは冷静に尋ねる。オーウェンはニヤリと笑った。
「三万だ。」
「三万!」
再びカイラスが驚きの声を上げる。
「それだけ手強い相手ってことね、面白い。」
私は報酬の額にも、手強い相手にも納得して五千ガルド支払った。
そうして私達は朽ち果てた僧院を目指すことにした。何度か夜営をして、ついに僧院にたどり着いた。小高い丘に立つ僧院は荒れ果てており、壁や柱等が崩れ落ち、かつての賑わいを全く感じさせない建物になっていた。
「まさに、朽ち果てたって感じだな。」
僧院の前にたどり着いた時、レインが軽口をたたく。
僧院の中にはジャイアントバットや、巨大なサソリ等が生息していたが、レインの魔法を使うまでもなく私の鞭と、カイラスの槍で十分討ち取ることができた。
しかし、全ての部屋を探してもゴーレムの姿を見つける事が出来なかった。
「どういう事?」
「おそらく、隠し扉だな。」
私の疑問にレインがすかさず答える。その時カイラスの呑気な声が聞こえた。
「ぽちっとな。」
すると私達のすぐ側で地下に通じる床が開いた。
「ちょっとカイラス、危ないでしょ!」
「バカ野郎!気軽にスイッチ押すな!」
私とレインの非難の声にカイラスが縮こまる。
「すまん。」
しかし、隠された通路見つけたのはナイスだった。レインが魔法で光の玉をいくつか作り出す。すると辺りが明るく照らしだされた。
「気を付けろ。何かいるぞ!」
カイラスが注意を呼びかける。錆びた金属のこすれる音が聞こえてきた。
「アイアンゴーレムか、手強いはずだぜ。」
レインが不敵な笑みを浮かべる。薄明かりから姿を現したのはやはりアイアンゴーレムだった。
私の鞭で動きを止め、カイラスが的確な攻撃を繰り出す。さらにレインがカイラスの槍にサンダーの魔法を付与し、攻撃力を上げる。私達の得意なパターンだった。しかし予想外だったのがその数だ。次から次へとアイアンゴーレムが起動して来る。
「チッ、キリがねぇな、仕方ない。」
レインがカイラスに合図を送る。
「セイラ、ほれ。」
レインが魔法で巨大なハンマーを作り出し、私に手渡した。
「ちょっと!まさか。」
私はハンマーを受け取ると、嫌な予感がした。
「この貧乏人!」
レインがニヤけた顔で私にそう言った。
「び、び、貧乏はイヤアアアアッ!」
その瞬間、私の中で何かがはじけた。私であって私でない何者かが身体を突き動かす。
「アアアアァァァッ」
奇声を上げながら巨大なハンマーで、アイアンゴーレムを次から次へと叩き潰していく。視線の端に逃げ出している二人の姿を捉える。
そうして全てのアイアンゴーレムが動かなくなった頃、私は身体の自由を取り戻した。
「よっ、ゴクローさん」
レインが軽口をたたく。何かいい返したかったが疲労感が凄かった。
「セイラ、大丈夫かい?」
へたり込んでいた私に、カイラスが優しく手を貸してくれる。レインの方は何事もなかったかの様に、通路を進んでいた。
「お、アレ槍じゃねぇ。」
レインが厳重に布にくるまれ、鎖で空中に繋がれた槍を見つけた。
「本当だ。」
「迂闊に近づくんじゃねぇ!」
手を伸ばしかけたカイラスに、レインが真剣な口調で注意する。
「こいつは厳重に封印されてやがる。」
いつになく真剣なレインは、封印を解くため集中していた。私達は黙って封印が解けるのを待った。やがて火花を散らして、鎖が砕け散った。
「どうするこの槍?」
カイラスが私達に聞いてくる。
「もらっちまっていいんじゃねぇ。依頼書にも持って来いなんて書いてねぇしさ。」
いつもの軽い調子に戻ったレインが槍をカイラスに手渡す。
「ダメよ!封印されてたんだし、呪われてるかも知れないでしょ。」
私がそう言うと、カイラスの顔が青ざめた。私達が言い合いをしていると、青ざめたカイラスが提案した。
「とにかくさ。依頼は果たしたんだから、依頼主の所へ持って行こう。」
その言葉で私達は言い争いを止め、僧院を後にした。
街に戻りオーウェンから依頼主の居場所を聞いて向かうことになった。また新しい僧院を建てた神官は快く三万ガルドを手渡してくれた。
「あの、地下にあった槍なんですけど」
私がそう言うと、カイラスの手にある布に包まれた槍を見て驚いていた。
「なんと!あの封印を解ける者がいるとは。」
神官の言葉にレインが自慢気な顔をする。そして神官は槍の由来を教えてくれた。
代々封印されて来た槍の名はオームの槍。何でも食らう伝説のモンスター、オームの牙で出来てるらしくモンスターを食らう度に強くなるという。余りにも強力な為に封印される事になったとの事だった。
「封印を解いたというあなた方なら、その槍を扱う資格があるでしょう。どうぞ正しき事に役立てて下さい。」
こうして私達は三万ガルドとオームの槍を手に入れ街に戻った。宿の部屋で布を丁寧にほどくと、美しい槍が姿を現した。
「もの凄い力を感じる。」
カイラスが槍を手にすると、槍はますます輝きを放った様に見えた。
「とにかく今日は祝杯だな。」
レインの言葉に依存はなく。三人で夜中まで盛り上がった。
良ければ、いいね、ブックマーク、評価
頂きますとますますやる気が出ます。
どうぞ宜しくお願い致します。