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序幕:プロローグ4

「こちらになります。」

 宇治京さんについていくまま案内された場所は、真っ暗な場所であった。

「今灯りを付けますのでその場でお待ちくださいね。」

 そう言って闇の中に消えて行った宇治京さんの声はわずかに厚みのある、くぐもった音となりアツシの耳に届いていた。

 相当広い空間が広がっているらしいとアツシは感覚的に理解した。左手でつかんでいる手すりの下は奈落の闇が広がり、わずかに足を動かすたびに足元の鉄板が甲高い悲鳴を上げる。

 しばらくしてプラスチック同士がぶつかる大きな音を聞いたのと同時に頭上が明かるくなる。そして左手でつかんでいた手すりの先には深緑色で塗られた地面と黄色と黒のストライプの線が見えた。ここから床面まで10m程度といったところだろうか。

「そこから左側に階段があるのでこちらまで降りてきてください。」

 下で宇治京さんが右手を左右に大きく振りながら呼んでいる。建屋内部の構造が分からないため、とりあえず指示通り左方向に進むと1枚の扉が現れた。

「扉を抜けると会談がありますのでそちらを降りてきてください。」

 扉についている透明なのぞき窓を見ると先には下まで続く階段が伸びていた。

 扉を抜けた先にある階段は白塗りの樹脂でできた床材で作られており、階段を降りる足の動きに合わせ、擦れた音を鳴らし続ける。

 俺にとって不快な音を鳴らさないような階段の降り方のコツを習得したであろうとき最後の1段となり地獄への階段が終わりを迎える。先ほど上から見ていた広大な空間が、目の前にある1枚の扉を挟んで繋がっていることを感じる。暗黒の底は今や光に照らされている。

 アツシは眼前のドアを引き広大な空間にいる宇治京・愛奈の元へと歩みを進めた。


 扉から宇治京さんのところまでは思ったより遠かった。待たせるのも忍びないと思い速足で向かったが思いのほか遠くわずかに息が上がってしまった。

「走らなくても大丈夫ですよ。」と宇治京さんはにこやかに微笑みながらこちらを見ている。まるで近所のお姉さんに面倒を見られる小学生だな。そのように考えられるほど俺自身も今の状況には慣れてきている。だがここは一体何なのだろう。

「もう少し移動しますよ~。黄色と黒の線の内側に入っていてくださいね~。」

 宇治京さんはそういうと目の前にある機械を操作し始めた。辺りを見ると黄色と黒のストライプの線は俺たちが立っている場所を一周囲っていた。

「業務用エレベータ……ですか。」

「さすが技術者さんですね。私たちが立っているのは業務用のエレベーターです。これで今から下に向かいます。と言ってもすぐ着きますけどね。」

 業務用のエレベータらしいがあまりにもサイズが大きい、搬出目的だろうが一体この先に何があるのだろうか。宇治京さんが右目でウィンクをしていたような気もするが、ここから先に何があるのだろう。と好奇心から上を見るも大型の門型クレーンしか姿はなく、そのクレーンも徐々に小さくなっていくのであった。

 床面の振動とともに宇治京さんが到着を告げる。

「はい、着きましたよ。ここから奥に行きます。」

 先ほどのエレベータの話を途中から聞いていなかったことが気づかれているのであろうか、宇治京さんは確かに笑顔であったが僅かばかり対応が冷たくなった気がする。

 これが女性の作り笑いという奴だろうか、宇治京さんを怒らせるとどうなるのだろうか。と背筋が凍るような想像をしながら宇治京さんについていくと目的の物へとたどり着いた。

「宇治京さんが見せたかったのって……これですか……」

「はい……」

 アツシはここに来るまでに鈴木商店が何を作っているのか、考えてはいたが具体的な物は何もイメージできていなかった。

 地下の立派な設備、広大な空間の建屋、巨大なエレベータ――これらから推測されたのは何かしらの大型機械だが、その推測ではある矛盾に辿り着いてしまう。

「鈴木商店なんて会社聞いたことがない。」

 右の物陰から男の声が聞こえてきた。アツシの思考を読んだかのような男はゆっくりと話しかけながら歩いてきた。

「いや失礼、ここに来るとき皆そう言うのでな。」

 現れたのは白髪交じりの無精ひげを生やした50代くらいの身長180cmはあろう作業着を着た男だった。

 男は姿を見せるとアツシの右横で相対し言葉を続けた。

「はじめまして、ナイトウ・アツシ君。私はベスタ―・リヒター。ここ鈴木商店の社長。分かりやすく言えば一番偉い人だ。」

「リヒターさん。『社長』の肩書でどういうポジションなのかわかります。偉い人なんて言わなくても大丈夫です。」

 宇治京さんが頬を膨らませながらリヒター社長にクレームを入れている。まさか社長が目の前に現れ、作業着を着て出てくるとは露程も思わなかった。

 そんなことよりも気になるのは目の前にある機械だ。

「これって……」

「気づいたかい。GI系企業にいたナイトウ君ならわかるだろう。GIで販売されている人型作業ロボット【GI-004:アーバイスクラブ】だ。」

 リヒター社長の言う通り、これはGIで販売している人型作業ロボットだ。宇宙空間や非居住惑星での作業のために開発された有人作業ロボットである。全長は約15m、人が乗り込む場所は気密空間を形成し、2本の腕は各種鉱山用ツールや土木系ツールに対応、地形に合わせて脚部をキャタピラや車輪に換装でき、それでいて安価、従来の宇宙空間での作業の安全性を大幅に向上させ、その過酷さを大幅に軽減させた傑作中の傑作機だ。ちなみにこれは核融合で動く無限駆動のF型だ。とリヒター社長から一言いただいた。

「このGI-004:アーバイスクラブはGI社製として販売されているが。こいつは我々『鈴木商店で開発した』作業用ロボットだ。」

 リヒター社長の言葉にアツシは耳を疑った。

「それってGIは販売だけして開発は全て鈴木商店が行っているってことですか。」

「そうだ。ただそれだけならOEMとしてよくある話だ。」

 OEM――相手先の名前を入れて販売する手法――確かに営業が弱い会社であったり、1種の物を複数社で別ブランド名を付けて販売するのはよくある手法だ。

「でも私の友人はGI社で作業用ロボットの開発をしていると……」

「そのお友達の方が言っていることも間違いではないかもしれません……」

 悲しそうに、俯きながら宇治京さんが話を続ける。

「最近、GI社から私たちとの契約を終了するとの話がありました……」

 悪い予感がアツシの脳内を駆け巡る。

「おそらくGI社は我らの技術を盗みGI-004の生産を続ける、もしくはその後継機の開発、販売をするのではないか。と考えている。」

 そう考えるのが自然であった。GI社なら法律や倫理に反することを行ったとしても、誰も文句も言わないし言わせない。そういう企業だというのは昔から言われていること。

 だが実際にそこまでの事が行われているとアツシは思っていなかった。

 そうなるとアツシが鈴木商店にスカウトされている理由も自ずと選択肢が限られてくる。

「リヒター社長は、『私が持っているGI社の情報が欲しい。もしくは鈴木商店でGI-004に代わる後継機の対抗機種の開発をしてくれ。』以上のような理由から私に声をかけたのですね。」

「その通りだよアツシ君。ただGI社の情報より、鈴木商店で『GI-004に代わる後継機の対抗機種』の開発が中心になるかな。」

 ここまできてアツシは自らの今後について内心答えを出していたが、最後に大きな質問をぶつけてみた。

「私には作業用ロボットの開発経験はありませんがそれでもよろしいのでしょうか。」

「それで結構だよ。アーバイスクラブの在庫はたくさんあるし、図面の開示も可能だ。」

 対抗機種の開発……失敗した場合については聞くことはできなかった。聞いたところで誰も幸せにならないしその結末もわかっている。

「アツシ君にはマキナ開発部第一戦術技術開発課の主任として働いてもらおうと思っている。いかがかね。」

 いきなり『主任』、思っていたよりも責任重大であったがアツシの心の内は変わらなかった。

「わかりました。私にやらせてください。お願いします。」

 アツシは深くリヒター社長に頭を下げた。

 

 前職を解雇されわずか1日、ナイトウ・アツシは名前も聞いたことのない会社に責任者として採用されることとなった。

 地球では1人の若者が職を失わずに済んだ。だが広い宇宙で見ると職に就けない者は、わずかにだが確かに増加傾向であった。

 

 ――大いなる破綻まで、残り15年――

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