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第一幕:戦いの始まり7

 フランコは眼前の光を見て我に返った。アツシの放った核バーストレーザー砲によって轟沈したカシージャスの閃光である。

 味方が敵の近くにいる状況で長距離砲を利用したアツシを責めるでも、ほんの数秒機体の動きを止めた自らを責めるでもなく、フランコはカシージャスから放たれていた邪悪なオーラが気になっていた。

 ――あれは一体何だったのか――

 考えたところで答えが出る物でもない。ましてや共和国艦は1隻落とせばまた1隻と次から次へと小惑星の隙間から、たった一か所しかない艦船が通れる航路から湧いて出てきていた。

 再びフランコのアーバイスクラブは無反動砲を手に取り行動を開始する。

「残弾残り40パーセントか……」

 残りの弾数も少なくなってきた。他機も同じような状態だろう。

 この作戦の目的は敵艦隊を殲滅することではない。足止めし敵に出血を強い、あわよくば撤退させることにある。

 弾薬が無くなった状態では戦うこともできず、いたずらに消耗する意味もなかった。そうなれば生きて帰るために撤退するタイミングを考えていたフランコだったがその隙がどこにも見当たらなかった。

 小惑星帯の暗礁宙域反転すれば不慮の事故と後方から空間騎兵団に攻撃されることは敵も理解している。だからこそ前進してくるのだが――

「――ここまで強情に突っ込んでくるとは想定外だったなぁ!!」

 自分自身の余裕のなさの表れか、無反動砲の引き金を引きながらフランコはつい叫んでいた。突破された敵艦は広大な空間で誰かの指揮を受けることもなく対空戦闘を仕掛けてくる。対空砲火の合間を縫って航路を抜けてくる巡洋艦のエンジンを狙った攻撃を何度か実施しているが、動けない艦を押し出すように敵は次から次へと出てきていた。

 エンジンが動かずとも兵装が生きている敵が増えるほど空間騎兵団は戦いづらくなっていた。

 ――じり貧であることは誰の目にも明らかだった。――

 打つ手の残っていないフランコは各機に通信を入れた

「作戦中の各機に告ぐ。次に出てくる敵戦艦のエンジンを狙う。敵の足を止めて航路を塞ぐんだ!!」

 湧いてくる巡洋艦を撃ちつつ戦艦を待つ。要塞攻略が可能な大火力の無数のレーザー砲もアーバイスクラブ相手には役には立たない。

『残弾30パーセント……』果たしていけるのか――

 待っている間にも戦闘は続き残弾はみるみる減少している。

 空間騎兵団の誰もが戦艦が出てくるのを今か今かと祈るように戦闘する中。遂に1隻の勇気ある戦艦が暗礁宙域を抜けようとしていた。目の前で味方がやられていく姿を見ていられなくなったのであろう。艦体各所に岩石を受けつつ半ば強硬突破を図ってきた。艦首の防御フィールドは既に機能せず、甲板に並ぶ4連装ビーム砲塔もひしゃげ、その巨体を肉壁とせんとばかりに猛然と直進していた。

 フランコ達はその行動に驚嘆しながらも、対空砲火を躱しながら敵の戦艦を目掛け、空間騎兵団各機は機関を目標に無反動砲を発射したのであった。

 無数の砲弾は戦艦の機関目掛けて直進した。装甲に弾かれながらも砲弾は僅かにダメージを与え、遂には1発が右舷の機関部へと飛び込んだ。直撃した箇所から宇宙空間に火柱が吹き上がった。敵の機関は停止し爆発の影響で90度左方向に旋回、慣性に従って横倒しの状態で無数の岩石へと甲板上部からぶつかっていった。

 戦艦の内部はまさに地獄絵図であった。機関の停止による艦内重力の消失。これにより機関部以外の乗組員は皆立てなくなるか着地ができなくなった。そこに爆発による艦体の旋回運動が襲い掛かる。皆一様に床や壁にその身を押し付けられ、一切の身動きが禁じられた。そして大小さまざまな無数の岩石が甲板を突き抜け艦全体を襲った。最上甲板直下の上甲板では散弾のように岩石が飛び交い乗組員を例外なく肉塊へと変貌させ、ダメージに耐え切れなくなった上甲板の床は抜け落ち、無数の肉片と岩々が動けなくなった乗組員の元へと降り注いだ。

 そんな地獄でもコンピュータは正常に機能し艦内空気の漏れを防ぐために各所に設けられた隔壁を強制的に閉じていくのであった。まだ息がある者も見捨てられ、自分が助かるのか助からないのか、今いる区画の空気が無くなるのか理解ができないまま全員平等に隔壁内へと取り残された。慣性を喪失し停止した艦で生死がどうなるか完全に運で決まるように思われた。しかし彼らの運命は既に決まっていた。全員等しく『死』であった。


 横倒しになった戦艦は艦首部分と艦尾部分がそれぞれ別々の小惑星に衝突し白煙を上げながら減速し僅かに動く程度となった。後ろから回避しきれなかった巡洋艦が幾隻か衝突し、はじき出された小惑星は回転しながら周囲の岩石を押し出していった。暗礁宙域から抜ける航路は完全に遮断され共和国軍の足は完全に暗礁宙域の中で止まってしまった。この様子を見たフランコは弾薬の残りを確認したのち全員に命令を出した。

「作戦目標は達成した。全機撤退だ。」

 そう言い反転し、フランコは暗礁宙域の縁帯に沿って移動を開始したフランコの目に映ったのは巨大なビームで蒸発する僚機の姿だった。


 今まで戦闘していた暗礁宙域出口、その180度反対側の何もない広大な空間から幾つものビームが飛来していた。

 事前に暗礁宙域を抜けた第3艦集団が暗礁宙域へと戻ってきたのである。

 経験から戦艦の主砲であることに気が付いたフランコは各機に散開と暗礁宙域への後退を命じた。岩石の間に身を隠しつつ移動するとっさに思いついた作戦である。

 しかし暗礁宙域の岩石に身を隠すには時間にして1分程必要である、ましてやロックオンされていることを検知し警告を発する対空砲火とは異なり戦艦や巡洋艦の主砲や副砲は警告を発しない、加えてこの距離はアーバイスクラブの姿を視認することもできず、僅かにレーダーに映るのみ。フランコには完全に手あたり次第に砲撃しているように思えた。

 戦艦の主砲は見てから避けれるものではない。発射時の閃光を視認した数秒後には極太のレーザーが通り抜ける、防ぎようがなく触れれば蒸発するその一撃は遠距離からの攻撃ではまさに脅威であった。どれだけ訓練しようがフェイントを入れようが関係がない、相手の圧倒的な物量とアウトレンジからの主砲攻撃の前に成す術なくアーバイスクラブはその数を減らしていった。

 今までの戦闘では共和国艦は味方への誤射を気にして主砲を撃つことができなかった。しかし今の第3艦集団はそのようなことを気にしてはいなかった。

「撃て!!撃て!!撃たねば帰り道はないぞ!!」第3艦集団アブレイユはそう言い味方への誤射を怯える兵士を叱咤した。アブレイユの言葉は決して間違いではない。現に共和国が誇る戦艦が1隻横たわり第3艦集団の帰路を妨害していた。

「全艦前方の座礁した戦艦照準。撃てッ!!」短く号した射撃はもはや足並みもそろわず各艦が闇雲に射撃し第3艦集団の帰路に障害となっていた戦艦を爆発させ消し去った。

 既に第3艦集団にとって第5艦集団を襲った敵の事はどうでもよかった。広大な空間を探索し襲撃を恐れる兵士は狂戦士となり既に遠征どころではなくなっていた、各艦はアブレイユの尖兵として働きなんとしてでも祖国へ帰ろうとしていた。そのためには目の前で立ちふさがる味方はまさに邪魔者であった。ストレスに敗れた第3艦集団はいくつもの直掩艦を失い、味方の来援と喜ぶ第5艦集団に対して

「全艦ためらうな!!撃て!!撃て!!撃てぇ!!」

容赦なく発砲と戦闘を命じ、第5艦集団への突撃を敢行した。


 フランコが事前に設営した前線拠点に辿り着いたとき合流できたのは僅かに5機であった。各機腕や足を失い、五体満足なのは離れたところにいたアツシだけであった。

 戦果は想像していたよりも大きく敵の想定外の同士討ちがあったにせよ共和国軍の艦艇を100隻を沈めることができた。共和国を撤退に追い込んだ戦略的勝利と言っても良い。しかしその代償は大きく30以上の僚機をフランコは失っていた。アツシは暗いフランコにどのように声をかけて良いか分からなかった。目的は達成されたが多くの友人を失ったフランコの心情を察すると何も言い出せなかった。技術者であったアツシには仲間を失う辛さを理解することはできなかった。だが明日死ぬのは自分かもしれない、その覚悟が必要なことをアツシはその身と心に刻んでいた。

 フランコが唐突に口を開いた。

「お疲れさん。よく俺たちのために戦ってくれたなアツシ、作戦は大成功だ。」

 傍から見ていても分かるくらい無理して話していることが分かる。

「お疲れ様でした、犠牲が多くて残念でなりません。」

「お前さんが気にすることじゃないさ、これは俺たちの仕事だ。元々は全員死ぬ運命だったんだ。その運命をお前さんは変えてくれた。アツシは俺たちのために共和国と戦えるだけの準備をしてくれて、共和国と戦えることを証明してくれたんだ。感謝している。」

 その言葉はフランコの本心だろう、だが全員で死ぬ覚悟であったのに残ってしまった者はどうするのか。この問いをアツシはすることはできなかった。

「ここでの仕事は終わったんだろ??」

 フランコがアツシに問いかける。

「はい。共和国を撤退させたことで鈴木商店としてもここでの仕事はいったん終わりです。」

「そうか。短い間だったがありがとな」

 おもむろに差し出された手をアツシは握り返した。整備員に案内され廊下を歩く。仕事は終われど帰るための準備は一切行っていなかったし数日はここに滞在する予定だった。まるでその場を追い出されたような感覚受け取りつつアツシは自室へと歩みを進めた。

 

 その日格納庫からフランコが出てくることはなかった。

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