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第一幕:戦いの始まり6

 第3艦集団小惑星と岩石にまみれた暗礁宙域をゆっくりと進んでいた。どこから仕掛けてくるかわからない敵といつ我が身に降り注ぐかわからない隕石に怯えるように兵は対空砲を構え、対空レーダーを凝視し、時々刻々と動くものがないか確認していた。休まることのない兵の疲労はピークに達していた。しかし休んでいる間に敵が攻撃してくる可能性を考えると休息している暇もない。そのことは各兵と第3艦集団司令官:アブレイユにもわかっていた。そのため無理を承知で兵たちは休むことなく対空監視を続けていた。

 兵たちは何のために闘っているのか、『国家』『民主共和制の主義思想』そのようなものは兵たちにはどうでもよかった。

 『故郷にいる家族』『同じ艦にいる名前も知らない仲間』『自分自身が死にたくない』そのような想いで兵たちは皆闘っていた。自分が手を抜くことで自分が死に、仲間が死ぬ。そのような責任感と連帯感が艦内の団結を産み、各艦の職務遂行への責任感が艦隊の連携を産み、巡り巡って高級士官である第3艦集団司令官:アブレイユの出世を推し進めるのであった。

 アブレイユの出世欲と野心はその下にいる部下たちや名前も知らない青年によって支えられていいる。アブレイユが無謀ともいえる進軍を行うほど、彼の艦集団はその責任感による団結力から成功を収め、アブレイユにさらなる出世の道を歩ませるのであった。

 何人もの兵が疲労で倒れようとも別の誰かがフォローする。集中力を欠いた艦は自ら岩石に激突し航行不能となり、ぶつけた岩石が押し出され、味方の艦に衝突しようと救援することもままならなかった。他人への迷惑を気にする責任感を持ち合わせていても、第3艦集団では他人を気にするほどの余裕を持ち合わせていないのである。全ては巡り巡って『自らが無事ならそれで良い』という思考に帰結していた。第3艦集団という他者への配慮に欠けた集団社会は無理に無理を重ね、幾人もの脱落者を出しながらも暗礁宙域の突破という目標に達しようとしていた。

 暗礁宙域を抜けた先は、恒星はおろか小惑星一つない広大な宇宙空間が広がっていた。何もない空間と対をなすように広がっていた暗礁宙域の矛盾に、大量の小惑星や岩石がどのようにして生まれたのか誰にも想像もつかなかった。正確性を期すのであれば第3艦集団の兵たちは気を抜けば死ぬかもしれないという恐怖の海から抜け出せたことに安堵し、宇宙の成り立ちなど考えている余裕はなかったのである。

 ただ一人アブレイユだけは暗礁宙域について注意深く考察していた。銀河共和国から進軍し、進行方向には丸2日かかるほどの広大な小惑星や岩石の空間。左右方向にも終わりは見えず、高さ方向に半日移動すると岩石の海から抜け出せる兆候はあったが、強大な電磁波が観測され艦の機関に悪影響を及ぼす、航行不能空間と推測された。

 まだ誰も記載していない銀河の星図地図を今後記載すると『共和国の西側には広大な暗礁宙域が広がり、突破に数日と多大な犠牲を伴う可能性のある魔の宙域である』となることを推測していた。


 暗礁宙域を突破した第3艦集団であったが休んでいる暇はなかった。暗礁宙域を抜けた先は広大な空間であり、巨大な惑星や恒星はなかったのである。必然的に彼らは遮蔽物のない空間にその身を晒すことになっていた。遮蔽物がなければ敵から一方的に攻撃を受け、機動性に優れた敵であれば空母を護衛し、航宙機による機動戦を行い艦隊防御を行う以外に手がなかった。

 まともに戦闘できるのは空母と直掩艦だが、この時点で戦艦と重巡洋艦は過剰戦力となっていた。後から来るであろう第4、5艦集団と合流をすべく第3艦集団が取れる手段はいくつかある。

 ・全艦その場で待機すること

 ・空母と直掩艦のみ残し、残る艦は索敵や暗礁宙域で身を隠すこと

 ・全艦その場を移動すること

 アブレイユの性格を考えれは猪突の化身と影口をたたかれるくらいには好戦的である。そのため待機して敵襲に備え、あわよくば返り討ちにすることを企図するであろう。と第3艦集団の幕僚や戦略眼に多少の自信が有るものは考えていた。しかしアブレイユが選んだ行動は全ての艦の移動と探索であった。敵に対して猛進するのではなく、地図なき未踏地域に向けて猛進したのである。アブレイユが猪突の化身であることは誰も目にも明らかであった。だがその進路を予測できた者は誰もいなかったのである。

 アブレイユは広大な宇宙空間を指さし、さらなる進軍を第3艦集団に指示したのであった。


 第5艦集団が暗礁宙域を抜けたのはその4時間後である。

 

 第5艦集団はアーバイスクラブの攻勢に晒されていた。第4艦集団に降り注いだのが隕石の雨なら、第5艦集団に降り注いだのは砲弾の雨であった。鉄鉱弾による機関や艦橋へのピンポイント攻撃、艦の行動を不能にする攻撃をスワジ教団空間騎兵団は徹底的に行い第4艦集団の継戦能力を適切に奪っていった。

 第5艦集団司令官:ドミグンは対空砲火の無力さを悟っていた。敵の攻撃を警戒し、防御に優れる戦艦や偵察用に巡洋艦を全面に出していたことが仇となった。空母は未だ暗礁宙域から抜けておらず、航宙機も発艦させることはできない。アーバイスクラブに対抗しうる戦力である航宙機による機動戦は封じられていた。

 軽巡洋艦や重巡洋艦の対空兵装では太刀打ちできなかった。撤退、後退指示を出そうにも後ろは暗礁宙域であり、暗礁宙域を抜けようとする艦っと衝突する可能性が高かった。

 彼らにできることは我慢であった。空母が暗礁宙域を抜けるまで、どれだけ攻撃されようとも、ただひたすらに前進し道を開けることが仕事であった。

 どれだけの被害を被ろうとも構わない、今は友軍の邪魔をしないことが最優先とされていた。

 前面の巡洋艦は無数の砲撃を受け、艦長以下士官が全滅しようと、命令が受けることができなくなろうと、機関が生きている限り前進を続けた。自らの進路も気にせず、あらゆる方向に進むその光景はまさに『敗走』であった。第5艦集団の兵たちには希望などなかった。正体不明の敵襲と進むことも困難な道と抜けた先で受けた待ち伏せ、撤退することも叶わず状況を好転させるためにはひたすらに進むしかなかった。艦橋が破壊されるだけならまだまし。正体不明の攻撃によって機関から爆発し轟沈する艦もいくつかあった。

 ドミグンはいらだっていた。自分が待ち伏せにあったこと、正体不明の誰かの掌で踊らされたこと、そして合流するはずの第3艦集団がその場にいなかったことである。

 この場に第3艦集団がいないということは敵の攻撃で全滅したか、何処かに移動したことが考えられるが、共和国軍艦らしい残骸は全くなかった。つまりどこかへ移動したことが最有力であったが、ドミグンにとっては移動した行動が命令違反であり、許しがたい行いであった。加えて自艦集団の損害を減らすためにどこかに身を隠しているなら一切救援しないこの状況も、同じ立場にあり同じ志を持った仲間として許すことができなかった。

 幸いにも敵の数は少なく戦闘不能になる艦より暗礁宙域を突破することができた艦の方が多かった。このまま強行突破すれば全滅前に空母から航宙機の発艦もできるようになる。理想を言えば第3艦集団と合流し共同で敵と交戦すれば有利な戦況となる。

 ドミグンは第5艦集団の命運を共和国で忌避される神どころか、命令違反の第3艦集団の行動に託さなければならないことを嘆きつつ、一隻でも多く生きて共和国に帰還できることを祈るのであった。

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