序幕:プロローグ
地球の人口が100億人を突破した2100年。増えすぎた人類を母なる大地である地球は養うことができず、人類存続のため世界は協力し地球から12.5光年離れた惑星へ人々の移住が決定された。惑星の名前は第二の地球であること、人類発祥の惑星である地球とよく似た環境を有する地球型惑星であることから、移民した人々が故郷を偲んで『ガイア』と名付けられた。
人類が宇宙への移民を開始して500年が経過した2600年、ガイア以外にも多くの地球型惑星が発見されたことから、500年の間で数多くの恒星間移民船が地球から人類を他の地球型惑星へと輸送を行い、人類は新たな惑星で文明社会を営み、他の人類居住惑星と交易を行ったことで各惑星間での人々の移動、不足した資源の交易が行われた。
このような背景から各惑星間での経済的な強まり、人々の交流が深まったことで、銀河で初の統一政府、『銀河共和国』が誕生した。銀河共和国の人口は約800億人と見積もられているが各惑星を跨いだ統一政府の前例がなく、正確な人口統計や産業統計のようなデータは得られていない。分かっていることは現代における必須資源であるセミコンが不足していること、500年の間に各惑星が把握できないほど、人々が銀河共和国外に探検、移民に出ていたことである。
――首都惑星:地球――
「ふわぁぁぁ〜」
地下鉄から降りた男は早々にあくびをしていた。
時刻は午前8時30分。始業時刻まで残り15分となっていた。残りの15分間で会社のオフィスに入り席につくまでには十分な時間がある。後頭部にある寝癖を直さず半袖に半ズボン、目がほぼ開いていない眠そうな冴えない男――ナイトウ・アツシ――は始業までの時間に自分が何をするか考えていた。
「普段はテレワークだからいつまでも寝ていられるのに……なんで出社しなきゃならないのか……」と通勤の時間によって睡眠時間が大きく削られてしまったアツシは悪態を付きながらエスカレーターに身を任せ地上を目指していた。「まずは自動販売機でエナジードリンクでも買うか、いや今日の業務内容はハードではないからエナジードリンクは不要だな。むしろ朝食を買いにコンビニに寄るか。」などと思案を重ねるも地上に近づくにつれ風で寒さを感じるようになる。15分の使い方についてアツシの出した結論はトイレに行くであった。
銀河共和国を股にかける大企業、ギャラクシーインダストリーグループ。グループ傘下の企業数は2000を数え、取引や関係のある企業は数十万とも数百万とも言われている。ギャラクシーインダストリーグループの中には大小様々な規模の会社があるが、中でも巨大な規模として挙げられるのがギャラクシーモータース。民生向けの自動車製造、販売部門だ。ギャラクシーモータースの日本法人、ギャラクシーモータース・ジャパンに7年前に入社したのがアツシである。
手のひら静脈式のセキュリティゲート式の玄関を抜け、廊下の矢印によって指示された方向に従い、指示されたエレベーターに乗り目標の31階を目指す。
「おはようございまーす。」
子供の頃から挨拶は大事だと親から口うるさく言われていたためアツシは出社時には挨拶を行うように癖がついているが、オフィス内には知り合いが一人もいない日が多い。この日も知り合いや友人は出社しない日であった。
始業時間のギリギリにオフィスに入りPC以外に何もない席に座る。ゼネラルマネージャー(GM)の席には役員以上の役職者に配られている光学式立体投影装置――ホログラムによってウンタヴァサ・ウーボーファートGMの姿が映し出されていた。
今日はGMによる査定の日である。今年の社員の頑張りや業績について各個人に伝達され、来年の給料や来年の目標について一人一人GMと面談を行うのである。
オフィスは各個人に割り振られた決まった席は無く、平社員は全て自由席である。これは固定の席を設けないことで様々な人と会話しインスピレーションを高めて欲しいという2000年代にIT企業を中心に流行った方式である。しかし人間とは不思議なもので、ある程度規則に則って生きていたい生き物のようで、毎日電車の座席の端に座りたい人もいれば真ん中に座りたい人もいるように、オフィスの席を自由にしても各々がある程度決まった座席に座っていったのであった。
そうなると自由な席というのは意味をなさなくなるのだが、会社としては誰がどの席に座るのかを決めるのは「無駄なコスト」となるため誰もやらなくなる。その結果当初の様々な人と交流するという目的はなくなり、コストの効率化のため自由席とするようになったのである。
そのような暗黙の指定自由席であるアツシの席は植木に区切られた部屋の隅、開放的なオフィスの中で最も閉鎖的とも言える席である。
今日のスケジュールで最大のイベントはGMとの面談である。面談は決まった時間に行われず、前の人の進捗次第で時間は前後する。
「面談まで図面でも作成するか……」
アツシはモニターの前で小さく呟き、他の人と関わらず時間的な融通の利く仕事に専念することにした。
午後を迎える直前にPCにチャットアプリのポップアップが表示される。
『おはよう!! といってももう昼前だね。前の人の面談が終わったけど今から34階の会議室、34-Rに来れるかな?』
送り主はGM。アツシにいよいよ面談の時が訪れたのだ。
「『はい、大丈夫です。5分後に伺います』……っと」
GMに簡単に返信を送り、急ぎ会議室に向かう。
34-R室前の扉に辿り着き一旦深呼吸をする。
重厚な木製の扉をノックし中をうかがう。
「来たか……入りたまえ……」
こちらが名乗る前に入室許可が出てしまった。セキュリティの設定がないためそのまま扉を開け中に入る。
「失礼します。」
扉を開けたのちそう伝え椅子の横まで移動する。
「やぁアツシ君、よく来たね。最近出社していなかったようだが……家庭の方が忙しかったかね?」
口周りに白い髭を蓄え、黒色のスーツと円状のつばが付いた帽子を愛用する。さしずめ20世紀のイタリアンマフィアやアル・カポネのような姿をした男――ウーボーファートGMが話しかけてくる。
「家庭の方に問題はないですね。」
始業時間のギリギリまで寝ていられるから在宅勤務の方が楽なのは内緒だ。
「仕事の調子はどうかね……」
「自動車の電装系の設計なので、正直なところやりがいはあまり感じておりません。」
「なるほどね……なにかやりたい業務はあるかね?」
「そうですね……強いて言えば構造設計でしょうか」
そんな他愛もない話を20分程GMと続ける。中身はほとんど世間話に近いような内容だ。
会話自体も深く掘り下げられることなくコロコロと話題が変わっていく。去年の面談の時にはどんな会話をしていたか覚えてもいない。『記憶にございません』ってやつだ。
そろそろ面談も終わらないかなと退屈に感じ始めたとき、唐突にGMが本題に入る。
「さて……今回の上期ナイトウ・アツシ君の評価だが……」
「ちなみになんだと思う?」
不敵な笑みを浮かべGMが問いかける。このような意地の悪い(?)質問をするときは『すごく良い』もしくは『すごく悪い』だ。
「そうですね……希望は『A』クラスですが『C+』か『B-』ですかね。」
社内の評価基準は『S,A~E』までの6段階あり、『S』が一番良い評価で『E』が最低評価だ。その評価も様々な項目へと行われ、例を挙げると業務への取り組みや個人の成績などが評価対象だ。もっとも『S』評価は『A~E』以外に特出した成績を残した社員に送られるもので、ギャラクシーインダストリーグループ全社で数名しか選出されない、エリート中のエリートに与えられる評価のため実質『A~E』の5段階評価だ。また総合評価では『S』評価がない代わりに『A~E』に加えて『+,や-』『F』評価もある。これは各小項目評価が『今半期の結果』に対して与えられた評価であるのに対して総合評価は『来半期の評価』すなわち給与の評価となるからだ。
「フッ……ハハハ。希望は『A』とはこれまた大きく出たな。」
自分の希望が高望みなのは自分が一番理解しているが、それを高笑いされていい気分でいられるほど無感情な人間ではない。
僅かばかりの怒りを抑え冷静を装いつつ、自分自身がどのような評価を会社でされるか聞いてやろうという半ば投げやりな上から目線な態度で、アツシは自分自身の評価の告知を待ち構えていた。
「君の評価は……『F』だ。」
アツシに言い渡されたのは社内評価基準における最低ランク。つまり『解雇』だった。
はじめまして。
阿波安房淡輪と申します。
小説の執筆に挑戦しようと思い隙間時間で進めてまいります。
週1話~2話を目標に掲載いたしますので応援の程よろしくお願いいたします。
プロローグ完結後にあらすじ掲載予定です!!
プロローグ長くなるかも。。。