子どもは鳥が運んでくるわけじゃありません!
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子爵家に話を取り付け、孤児院でクレンス様が先生をし始めて2週間。
私とレイモンドは二人揃って孤児院の視察に訪れた。
今日は授業風景が見たいから皆には内緒で、と言うことで、出迎えは院長一人。
目尻に皺を寄せて笑顔で出迎えてくれた院長に付いて、早速私たちは教室へと向かった。
「クレンス先生は穏やかで博識で、偉ぶることなく子ども達に接してくれて……。あの子達もよく懐いているんですよ」
広い廊下を歩きながら、嬉しそうに報告してくれる院長に、私もレイモンドがエスコートしてくれる腕をつかみながら、にっこりと微笑む。
「それはよかったわ」
「ふむ。俺の【妻】の目に狂いはなかったな。さすが俺の【妻】」
だから何で妻を強調するのよ、この男は。
「ここです」
教室の前で立ち止まり、私たちは後ろの席の窓からこっそりと様子を伺う。
ボードの前で図を使いながら、10歳からの子どもたち数名の前で熱心に説明をするクレンス様の姿と、目を輝かせて活き活きと発言する子ども達の姿がそこにあった。
皆とっても楽しそう。
やっぱりクレンス様にお願いして正解だった。
「ほぉ? 様になってるじゃないか」
「当然よ、私が選んだ先生ですもの」
「ふっ……そうだな。さすが俺の【妻】だ」
だから妻をなぜ強調するのよ。
仲良しアピールが過ぎて逆に胡散臭い。
それにお飾りの妻にそんな仲良しアピールするのはやめてほしい。
いつか離縁を言い渡された時、離れ難くなるから。
「あ、終わったみたいですね」
院長が言うと、ぞろぞろと教室から子ども達が出てきた。
それに紛れて穏やかな眼鏡の男性がひょっこりと姿を現す。
彼はすぐに私の姿を認めると「王太子妃殿下!!」と笑顔で駆け寄る。
「王太子殿下、王太子妃殿下、お久しぶりでございます」
「ラウル、よくやってくれているようだな」
レイモンドが言葉をかけると、「皆、熱心な良い子達ばかりで、私も教えがいがあります」と周りの子ども達を見やった。
「これも王太子妃殿下のおかげです。本当にありがとうございました!!」
「私こそありがとう。クレンス──いえ、ラウル先生。これからも子ども達のこと、よろしくお願いするわね」
私が言うと、クレンス様──ラウル様は頬を染めてから「はい、私が持てる力を全てを使って」と力強く答えてくれた。
本当に素敵な先生に出会えてよかった。
人柄もとても良い方だし、レイモンドに離縁されてここにお世話になった際には、私も子どもたちと一緒に先生に学ばせてもらおうかしら?
そんなことを考えていると、突然私の肩をレイモンドが抱いて「では無事視察も終わったし、俺たちはこれで失礼する」と言い出した。
え!?
これから子ども達と遊ぼうと思っていたのに!?
「はい、またゆっくりと遊びにいらしてくださいね」
「え、えぇ……。慌ただしくてごめんなさいね、では、また──」
私はにっこりと笑って取り繕うと、レイモンドにエスコートされるがままに孤児院を後にし、馬車へと乗り込んだ。
馬車の中で私がぷくっと頬を膨らませて窓の外を見ていると、レイモンドがためらいがちに声をかけてきた。
「な、何か怒っているのか?」
何か、じゃないわ!!
あなたのせいよ!!
「今日は他に公務もなかったのに、あんなすぐに帰るなんて……!!」
「お前、まだあそこにいたかったのか?」
私が苦言を呈すると、むすっとした表情で言葉を返してくるレイモンド。
何その不服そうな顔。
不服なのは私の方よ。
「せっかく今日はたっぷり子ども達と遊べると思ったのに……」
憤慨しながら私が呟くと不機嫌だったレイモンドは今度は驚いたように「へ?」と間抜けな声を発した。
「次は子ども達と触れ合いに行くので、邪魔しないでちょうだい」
ツンっとそっぽをむいて言ってやる。
可愛げがないと自分でも思うけれど、長年のレイモンドへの拗らせた想いがそうさせてしまう。
「わ、わかった」
たじろぎながらレイモンドが返して、しばらく無言のまま二人馬車に揺られ続ける。
しばらくお互いに無言で窓の外を見つめて、突然にレイモンドがためらいがちに口を開いて静寂を破った。
「な、なぁ……もしもお前が子どもを産むとしたら、何人ぐらい欲しいんだ?」
────はい?
いや、初夜をしない宣言しておいて何それ。
子どもは空から鳥さんが運んでくるとでも思っているのかしら?
呆れながらも私は「もしも産むとしたならば、二人は欲しいわ」と答えた。
何かあった時に相談できて頼れる人物がいると言うのは、心強いと思うから。
私には兄が2人いるけれど、兄たちの存在にはいつも助けられていた。
王妃教育で大変な時には甘いお菓子を買ってきてくれたり、レイモンドのことで悩んだり泣いていた時には話を聞いてくれたり。
お兄様たちがいてくれて本当に助かったもの。
「でも──……」
私は再び視線を窓の外へと移す。
あぁ、もうすぐ城だ。
「来るはずのない未来を考えることほど、虚しいものはないわ──……」
私の呟きは聞こえていたのか、それとも聞こえていなかったのか。
それから城に着くまでの間、馬車の滑車の音だけが無機質に響いていた。