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レイモンド、嫉妬する



「レイモンド?」


 なんでそんな顔してるの?

 とっても不機嫌そうだけれど、何か嫌なことでもあったのかしら?

 私が彼の名を呼ぶと、「さっきのは?」と不機嫌そうにレイモンドが口を開いた。

「さっきの? あぁ、クレンス様のこと? クレンス子爵の三男ラウル・クレンス様よ。さっき図書室で偶然出会ったのよ」

「……俺に内緒で男と二人で……密会でもしていたのか?」


 みっ……かい……?

 はぁぁぁ!?

 何がどうしてそうなるのよこの男!!


 顔を歪めて、元から私のことなんて信用していないかのような発言をするレイモンドにカチンと来た私は、彼を思い切り睨みあげる。

「ゼルも一緒だったわ。それに、私はそんな不義理をするような人間じゃない。子爵の面接をしていたのよ」

「面接?」

 眉を顰めてレイモンドが尋ねる。

 この人、私のやってることもう忘れたのかしら。


「そうよ。今そのことをあなたに報告に行こうとしていたの。クレンス様、ロサン伯爵のところで令嬢の家庭教師をしていたのに、「つまらない」って辞めさせられたらしいのよ」

「ロサン伯爵の? あぁ……令嬢はかなり気が強くわがままだというからな……。今まで何度も家庭教師が変わっていると聞いたことがある」


 まさかの常習犯……。

 せっかく学ぶ機会に恵まれていても学ぶ気がないなんて、贅沢だわ。

 学びたくてもそれが難しい人たちだっているのに……。


「孤児院で教える先生としてどうかと思って、ここで面接を兼ねてお話ししていたの。レイモンド、彼、適任だと思うわ。学問に対する思いも、子ども達の未来を思う気持ちも人柄も、もちろん学も申し分ない。私、あの人に決めたわ」

 興奮気味に言いながらレイモンドに至近距離まで詰め寄ると、レイモンドはなぜか顔を赤くして、慌てたように声を上げた。


「ちょ!! 待て!! とりあえず落ち着け!! とりあえず近い!!」

 言いながら私の両肩を掴んで押し戻すレイモンド。

 むっ。私がそばにいることすら嫌だっていうのかしら。

 まぁそうよね。

 レイモンドが大好きな聖女様とは、私はかけ離れすぎているし。

 だからって離すことないのに。

 毎日同じベッドで寝ておいて今更な気がするわ。


「コホンッ。あー、ロザリア? じゃぁ、お前とクレンス子爵家の三男がここにいたのは、密会などではない……と?」

「当たり前でしょ? 最初から違うって言ってるじゃないの。わざわざ自分やあなたの立場を悪くするような考えなしではないわ。だから2人きりではなく、ゼルに室内に同行してもらったっていうのに」


 しつこいわねこの男。

 つなぎの王太子妃だとしても、その時がくるまでは私がレイモンドの妻なんだから、精一杯妻役を努めるに決まってるじゃない。

 そんなに私が信用ないのかしら?

 いけないいけない。

 ここで喧嘩になって脱線させては、話が進まないわ。


 憤る気持ちを抑えながら私はレイモンドに「で、どう思う?」と意見を伺う。


「あ、あぁ。……そうか……そうだな……、うん。ゼルもその場にいたんだよな? お前はどう思う?」

 話を振られて、私の後ろに控えていたゼルが無表情のまま口をひらく。

「私から見ても、このお話には申し分ない方かと。何より、王太子妃殿下の目に狂いはない、そう思っております」


 ゼル……!!

 最初から私を疑ってかかった男と違って私のことを信頼してくれている様子のゼルに感動を覚えながら、私はもう一度レイモンドを見る。

「レイモンド、お願い」

 私がしっかりと彼を見上げて懇願すると、レイモンドは「うぐっ」と小さく声を詰まらせてから、ため息を一つこぼす。

「……わかったよ。許可する。孤児院と子爵家には俺から使いを送ろう。その後クレンスの三男と院長、を呼んで顔合わせをし、孤児院への初出勤日や勤務内容、諸々の詳細を決める」

 レイモンドの言葉に私は心の中で飛び上がりながら「ありがとうレイモンド!!」と彼に笑顔を向けた。

 はっと息を呑む音がレイモンドから聞こえる。


「べ、別に!! 仕事だし、孤児院の子ども達のためだからな!! お前に言われなくとも……」

 ふいっと顔を背けて言うレイモンドに、「それでもお礼ぐらい言わせて」と微笑む。


「むぐっ……」


 変な声がまた聞こえてきたけれど、気のせいね。

 これで子ども達の未来も安泰。

 私の離縁後の家(予定)も安泰だわ!!


 少しずつ整えていかなくちゃ。


 私の離縁後の環境を──!!



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