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愛おしい宝物たちへ〜Sideレイモンド〜

番外編ですっ( ´ ▽ ` )


 その日、朝から俺は、ソワソワと落ち着かないでいた。


 今日は俺たちが結婚して一年の記念日。

 数ヶ月前に父が退位し、俺が国王に、ロザリアが王妃になって、俺たちはしばらく忙しい毎日を過ごしていたのだが、今日は時間を無理矢理作ってロザリアと……で、デートだ……!!


 あまり長い時間、即位したばかりの王と王妃が城を空けるわけにもいかないから遠出はできないが、久しぶりの仕事ではない二人きりの外出。

 ドキドキしないわけがない。


「よし……」

 俺は懐にあるものを入れると、鏡に映った自分の緩み切った頬をペチンと叩いて気合を入れ、一人部屋を出た。


 ◆◆◆


「ロザリア」

 俺はホールでゼルと和やかに談笑する最愛の妻へと声をかける。

「レイモンド」

 俺の名を口にしながら振り返り、にっこりと微笑むロザリア。天使か。


「すまない、待たせたな」

「いいえ、大丈夫よ。私も今来たところだし」

 ゆったりとした膝下のワンピース、サラサラとうねる長い髪は上の方で一つにまとめられ、リボンで括られている。

 かわいいがすぎる……!!

 俺の妻が可愛すぎて辛い……!!


「陛下、鼻血ティッシュ、いるっす?」

「いらんわ!!」

 ロザリアだけを視線に映していたところにいきなり入ってくるなランガル!!


「相変わらず仲がいいわね、あなたたち」

 くすくすと笑うロザリアに、ランガルが「えー勘弁っす」と心底嫌そうに横目で俺を見る。

「こっちのセリフだ!! 今すぐゼルと変えてやろうか!!」

「私は王妃様の護衛を(まっと)うしたいので却下です」

「やーいフラれたー」

 即答するゼルに、それを茶化すランガル。

 あいつ俺を主人だと思ってないだろ絶対。


「くっ……まぁいい。ロザリア、手を」

 そう言って俺がロザリアに手を差し出すと、ロザリアは「ありがとう」と言って俺の手に自分のそれを重ねた。

 最近ではこの動作も照れることなくできるようになってきたが、彼女の白い手が俺の手に乗った瞬間だけはどうしてもまだ心臓が飛び跳ねてしまう。

 きっとこれからもそうなんだろうと、諦めてはいるが……。


 二人で馬車に乗り込み準備が整うと、ゆっくりと滑車は回り、景色が目まぐるしく変わり始めた。


 城から城下へと下り、一直線に進みながら王都の門に着くまでの間、馬車の外からは俺たちに向けてたくさんの声が届けられた。

「ご結婚1周年おめでとうございます!!」

「国王陛下、王妃様、万歳!!」

 一つの祝福の声が波紋のように広がり、次第に大きな声となる。

 守るべきもの達からの祝福の声。

 ありがたいものだな。


 門を出てすぐのところで、馬車は停車した。

 目の前には大きな大きな古びた塔。

 そう。新婚旅行の帰り道に立ち寄った、あの塔だ。


 どこに行きたいかと尋ねたところ、ロザリアは迷わずここを指定したのだ。

「着いたぞ」

 そう言って彼女の手を取り、馬車から降りるのをエスコートする。

 すると太陽の下に降りたった彼女はどこか青い顔をしていて、若干気持ち悪そうにしていることに気づいた。

 馬車に酔ったか?

「だ、大丈夫か? 少し休むか?」

 俺が慌てて彼女の肩に手を回し支えると、ロザリアは手で制してから「大丈夫よ」と笑顔を向けて「行きましょ、高い場所の空気を吸ったら落ち着くわ」と言った。

「わかった。でもあまり無理はするなよ」

 ロザリアを支えながら、俺たちはゆっくりと螺旋階段を登っていった。



 ◆◆◆



 ゆっくりとゆっくりと登っていって、頂上の扉を開けて展望台へと出ると、少しだけ近くなった太陽の光に、二人揃って目を細めた。


「ロザリア、大丈夫か?」

「えぇ、ゆっくりだったし、ずっと支えていてくれたから平気」

 そう言ってロザリアは大きく深呼吸を繰り返す。

 心なしか顔色も落ち着いてきたように見えて、俺は安堵の息をついた。


「……ロザリア」

「? なに?」

 俺は破裂しそうなほどに高鳴る胸を右手で押さえ、一度息を整えてから改めて彼女に向き直った。


「結婚一年、おめでとう。その……色々あったけど、ずっと支えてくれて、俺のそばにいてくれて、本当にありがとう」

 そう言って俺は懐から取り出したものをロザリアの首裏に手を回し、素早く取り付けた。

「ん。すごく似合うよ」

 鎖骨の真ん中に光る、ロザリアの花をモチーフにした銀細工のネックレス。

 思った通り彼女によく似合う。


「これ……」

「俺が作った」

「レイモンドが!?」

「あぁ。仕事の合間を縫ってな」


 ロザリアに気づかれないようにするのは大変だった。

 なにしろ、あの事件以来執務室を同じ部屋にした俺たちは、執務中は基本同じ部屋で過ごしているからな。

 個別で公務に出ているときや、ロザリアが茶会でいない時、そして時には母上に協力を仰ぎ、ロザリアを連れ出してもらっている間に、ちまちまと城下の工房に出向き、職人に教えてもらいながら作ったのだ。


「どうしても、お前にネックレスをプレゼントしたかった。その……初めてお前にあげたネックレスの話、【聖女系遺恨日誌】に書いてあったやつ。ネックレスをつけたお前が可愛すぎて、素直に褒めることすらできなくて、酷いこと言っただろう? あらためてあれを読んで、絶対にもう一度お前にネックレスをプレゼントしたいって思ってたんだ。そしてできれば、それは自分で作りたかった。今までの気持ち、全部込めて……」


「レイモンド……」


 あの時もあの時で、言った後でものすごい後悔に押しつぶされたものだが、俺は後悔をそのままにしてここまできてしまった。

 そしてお仕置きとして【聖女系遺恨日誌】を読んで、あらためて後悔の念が襲ってきた。

 後悔を後悔のままにしてはいけない。

 それじゃ前と全く変わらないから。


 だから一年というこの節目に、彼女へのプレゼントにしようと考えたのだ。



「レイモンド、ありがとう……。すごく……すごく嬉しい……!!」

 瞳にキラキラと光る涙を溜めながら、俺に向けられたロザリアの笑顔。

 くっ……眩しい……!!

 うちの妻が可愛すぎて尊死する……!!


「気に入ってもらえたなら、頑張った甲斐があったよ」

 俺は心の中で暴走しつつある自分を押し殺してから、平静を装い余裕の笑みで返す。

 たまにはかっこいい俺を見せておきたい。


「素敵なプレゼント、ありがとう。……あのね? 私も、レイモンドにプレゼント、というか、なんていうか……サプライズがあるの」

 サプライズ?

 なんだ?

 ま、まさかまた離縁しましょうとか言わないよな!?

 今いい雰囲気だったよな!?


「あのね?」

「ま、待って──」

「ここに、いるの。3ヶ月ですって」

「……は?」


 俺の手を取り、自分の腹にピッタリとくっつけるロザリア。


 ここに……いる?

 3……ヶ月?


 その意味を理解するのに、しばらく俺の中で情報処理が行われながら時を止め、そして──。


「あなたと、私の子よ」

 と、頬を染めて微笑むロザリアに、俺の装っていた平静はぶち壊された。


「!? ろ……ろざ……ろ……ほ、本当に?」

 俺の言葉に笑顔で頷くロザリア。

 あぁもうかっこよく決めたままにしたかったのに……。

 無理だろ、こんなん。

 俺は震える手で、腹の中で命を芽吹かせた子どもごと、最愛の妻を抱き寄せた。


「ありがとう……!! ずっと、大切にする……!! お前と、お腹の子を……!! ずっと守ってみせるから……!!」

「えぇ、お願いね。──お父様?」


 父……。

 俺が……。

 何だかくすぐったいような、それでいて暖かくて、心地いい響きだ。


「そうとわかったら──」

「ふぁっ!?」

 可愛らしい声をあげて俺に横抱きに抱き上げられるロザリア。


「降りるぞ」

「えぇっ!? ちょ、私歩けるわよ!?」

「だめだ。俺が抱えて降りる」


 妊娠初期には気持ち悪くなりやすいと聞いたことがある。

 青い顔をしていたのはそのせいだったんだな。

 やっぱりさっきも抱きかかえていけばよかった。


「れ、レイモンド? 私本当に──んっ……!?」

 言い終わる前に、俺の顔のすぐそばでまだ拒否する愛らしい唇を自分のそれで塞いだ。

 いくらロザリアの言葉でも、今は譲れない。


「だめだ。……今ぐらい、言うこと聞いてくれよ? 可愛い奥さん?」

 愛しい気持ちを全面に押し出せば、たちまちロザリアの顔は真っ赤に色づき、大人しく俺の胸に顔を(うず)めたのを確認してから、俺は彼女を抱き抱えたまま塔を降りていった。


 まだまだ俺は未熟者だと思う。

 これからもっと経験を積んで、その積み重ねが俺を作っていく。

 時には後悔をしながら、そこから学び、強くならねばならない。


 だけど、これだけは絶対に後悔はしない。後悔をさせない。


 大切な宝物たちを、俺はしっかりとこの手で守っていこう。


 この先も、ずっと──……。


 温もりと二つ分の命の重みを両腕に感じながら、俺はゆっくりと塔を降りていくのだった──。



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