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花嫁のブーケ


 翌日すぐに、陛下とレイモンドは貴族達を集めてことのあらましを説明した。


 禁術を使い強制召喚の陣を発動させた者がいると疑い調査をしていたこと。

 王太子妃の同意と協力の上での調査であること。

 そしてその犯人であるラングレス宰相のことも。


 彼は身寄りのない子どもやお年寄りを、善人のような顔をして集め、彼らの命を元にして陣を完成させていたそうだ。

 陛下と王妃様の暗殺未遂の犯人でもあり、余罪などの調査が終わり次第、処刑される。


 そしてその説明の最後に、レイモンドは皆の前で私の手をぎゅっと握りしめ大声でこう言った。


「俺は昔から、ロザリアしか見てはいない!! これから先もそうだ!! 彼女以外はいらん!! よって、余計な気遣いなどはせぬように、心に留めておけ!!」


 硬く結ばれた手に、もう一度力がこめられ、レイモンドの優しい笑顔が私に向けられた。


 【聖女系遺恨日誌】朗読1日目翌日のせいで、その目の下に少しだけ隈ができていたのは、きっと私しか気づけなかっただろう。



 そして説明会後、クレンヒルド公爵家の面々だけが部屋に残され、陛下と、そしてレイモンドからの謝罪が行われた。

 国王と王太子が家臣に頭を下げる、なんて前代未聞の行いに、最初は驚いたお父様達だったけれど、ただ静かにお二人を見つめて、

「二度目はありません。私たちの大事なロザリアを、必ず、大切にしてやってください」と言葉を紡いだ。


 ライン兄様は「もう少しでロザリアが帰ってきてくれたのに、残念だったなぁ」なんて言っていたけれど、その表情はとっても柔らかくて、優しいものだった。




 5日後──。

 毎晩毎晩お仕置きである【聖女系遺恨日誌】を朗読させられたレイモンドは、自分のしたことにダメージを受け続けた。

 もちろん思い返した私だって無事ではなかったけれど、朗読し終わった後真っ白に燃え尽きて無言で倒れ意識を失ったように眠るレイモンドに比べたらまだ軽いダメージだと思う。


 ようやく今夜からぐっすり眠れるようになるわね。

 だけどその前に……。

 私の長兄ミハイル兄様と、ベル義姉様の結婚式だ。

 私とレイモンドももちろん参列している。


 荘厳な音楽が流れるなか、中央のレッドカーペットを、ベル義姉様と彼女の父であるラング伯爵がゆっくりと進む。

 ベル義姉様、とっても素敵……!!

 そしてミハイル兄様のところまで到達すると、二人は幸せそうに微笑み合い、永遠の愛を誓った。


 これよ。

 これが幸せな結婚式、っていうやつよ。

 あぁやだ。

 涙腺が緩んでくる。

 ベル義姉様のお父様であるラング伯爵の大号泣からのもらい泣きなのか、はたまた自分の結婚式と比べてしまってのものなのか。

 私はそっと涙を流した。

「……」



 ──式が終わって、そのまま夕食もご馳走になって、私たちも城へと帰ろうと馬車に手をかけたその時。


「王太子妃殿下!!」

 私を呼び止め、ベル義姉様が重たいウェディングドレス姿で走ってやって来た。

「ベル義姉様? どうかなさいましたの?」

 何かあったのかしら?

「王太子妃殿下に、これを──」

 ベル義姉様が私に差し出したのは、ロザリアの花で作られた小さなブーケ。

「まぁ可愛い!! ありがとうございます、ベル義姉様」

「あなたに、たくさんの幸せを」

 私が受け取りにっこりと微笑むと、ベル義姉様も柔らかな微笑みを浮かべた。

 確か前世では、ブーケトスでブーケを受け取った人は次に結婚できるって話があったのよね。

 って、私はもう結婚しているけれど。

 たくさんの幸せかぁ……これから、きっとおとずれてくれるわね。

 素敵なブーケを手に馬車へと乗り込むと、私はレイモンドと共に城へと帰っていった。


「ロザリア」

「? 何?」

 城に入ってすぐのホールで、レイモンドが私に振り返る。

 緊張した面持ちのレイモンドに、私はまた何かあったのかと身構えるけれど、一向に言葉は続いて出てこない。


「あー……えっと……」

「なんなの? また何か問題ごと? それとも仕事のこと?」

 レイモンドが部屋に帰ってきたからといって、仕事は楽になることはなかった。

 異常に多いのだ。

 仕事量が。

 陛下の仕事の引き継ぎが大詰めになってきたのだから仕方ないわね。

 アリサの件で調査をしながらも仕事はこなしていたらしいけれど、こなせる量に対して入ってくる仕事の量の方が多かった。

 その分私に回っていた、というわけだ。


 サボってたわけじゃなかったのね、この男。


「ち、違う!! ……これから、俺は少し出る。お前はゼルとサリーに準備をしてもらって、後で来てくれ」

「出るって、どこに? それに準備って?」

 私の問に応えることなく「ゼル、サリー、頼んだ」とだけ言うと、レイモンドは今入ってきた扉から外へと出て行ってしまった。


「もうっ!! なんなの!?」

「まぁまぁ妃殿下。色々と準備があるのですよ。さ、準備の方、して参りましょう。ゼル様、少し扉の前でお待ちくださいね」

「あぁ。王太子妃殿下、しっかり準備してもらってきてください」


 ゼルの仏頂面が少しだけ緩んで、私の背を見送った。


 いったい何なの〜〜!?


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