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今夜から──寝かさないわよ?

イケメンロザリアのお仕置きタイム。


最終話まで一日でいくので、一時感想欄閉じさせていただきます。



 それから私は、レイモンドにこれまでの話を全て聞いた。


 平和な世界に聖女が現れたことから、誰かしらの陰謀があるのではと疑って動いていたと言うこと。

 レイモンドは聖女に近づく人間と会話の記録、ランガルは容疑者の一人ドーリー侯爵の家にたびたび潜入して探っていたこと。

 王太子妃よりも聖女に夢中だと思わせていれば、王太子妃である私の方はノーマークになり、危険を回避させられると考えて距離をとったこと。

 最終的にゼルの協力もあって、宰相が犯人だという証拠を押さえ、昨日捕縛したこと。

 そして王妃殿下の殺害未遂の件や陛下の病気の犯人も彼だと言うこと。

知らぬ間に巻き込まれた聖女は、昨夜せめてもの詫びにと【祝福】を授けてから元の世界に還したこと。


 洗いざらい吐いてもらった。


 ベッドの下、正座で謝罪を交えて話す情けない姿の夫をベッド上から見下ろして、私はふぅ、と息をついた。


「なるほど。事情は分かったわ。じゃぁ、本当に聖女とは何もないのね?」

「あ、当たり前だ!! 夜は絶対に訪ねなかったし、彼女の誘いにも乗っていない!! 俺はロザリアしかいらん!!」

「っ……」


 今までのことが嘘のように、レイモンドの口から熱烈な言葉が飛んでくる。

 だめよロザリア。

 ここで簡単に許しては。

 鬼になるのよ!!


「そ、そう……。でも、影でこそこそ動かれて辛い思いをするのはもう嫌よ。レイモンド、あなた、新婚旅行からの帰り、あの塔の上で言ったこと、覚えてる?」

「塔の上で?」

「……『1人では全てを守るのは難しいだろう。だから……お前にも一緒に、同じ景色を見て、同じものを守っていってほしい。王太子妃として、未来の王妃として、そして俺の妻として、この国を一緒に守っていってくれ』そう言ったのよ?」


 思い出される彼の真剣な顔。

 必死に次期王としての重責と戦っているかのような、それでいてその座に着く決意を固めている強い表情。

 忘れられるはずがない。


「一人じゃ、無理だったでしょう?」

「……あぁ」

「なら今度はちゃんと、同じ景色を私にも見せて。私も、もう前を向くから」

「っ……!! あぁ……ありがとう……!! ……たくさん傷つけて、ごめんな」


 そう言ってまた泣きそうな顔をして立ち上がり、私の頬に手を添えるとそのまま吸い寄せられるように唇を近づけ──。


「待って」

「むぐっ!?」


 重なることなく私の手によって塞がれたレイモンドの唇がモゴモゴと動く。


「事情はわかったし、レイモンドの気持ちもわかったわ。でもね──?」

 私はにっこりと満面の笑みを浮かべて彼の口を塞いだままその美しい顔に自分のそれを近づけた。


「私、お仕置きは必要だと思うの」


 ベル義姉様も言っていたものね。

 お仕置きすることもある、って。

 今回の件、私も悪かった部分はあるけれど、レイモンドの采配次第ではこんなに苦しむことはなかったと思うのよね。

 この件でレイモンドも一つ学んだのだとは思うけれど、それだけじゃ私もおさまらない。


「わ、わかった。なんでも言え。パンチでもキックでも、なんなら剣で切り刻んでくれても──」

「私をこれ以上最強の王太子妃ポジションにしないでくれる?」


 ただでさえ【剣豪王太子妃】なんて強そうな呼び名があるのに。


「じゃぁ何を……」

「そうねぇ。一つは、私の地位の回復。舞踏会での一件でおそらく王太子は聖女を側妃にするつもりだって皆感じているし、私のことはお飾りの王太子妃だと侮っているものも出てきているはずだもの」

「あぁ。その件については、宰相の件と合わせて全てを明らかにさせるつもりだ」


 あら意外。

 きちんと考えていたのね。


「そう。……ならその際、これは私も同意の上だったと言ってちょうだい」

「同意の上?」

「えぇ。きちんと私に相談があり、舞踏会でのことも、容疑者の反応を伺うため私もその許可を出していた。それなら全て考えあってのことだとわかってもらえるし、私も王太子に信頼されている、と認識させることができる」

「そう、だが……」


 真面目すぎるのよね、レイモンドってきっと。

 でも王太子の未熟な面をひけらかしてはいけない。

 多少ねじ曲げてでも、完璧を装い続けることだって大切だわ。


「レイモンド、王太子として皆から信頼されるのはとても大切なことよ。そのための多少の事実のねじ曲げは必要だと思うの。その分、本当のヘタレイモンドは、私やゼル達にだけ見せてくれたらいいわ」

「ヘタレイモンド……。わ、わかった。だがそれだけではお仕置きにはならないだろう。やっぱりひと思いに俺を──」

「殴らないから!!」


 私を善良な王太子妃でいさせて!!


「まったく……。そうねぇ……レイモンド個人へのお仕置きとしては──」

 私は部屋に運んでもらったトランクの中から一冊の本を取り出す。

 そう──【聖女系遺恨日誌】だ。


「これを寝る前に朗読してもらうわ」

「な、なんだこれ? ……【聖女系遺恨日誌】?」

「あなたのこれまでの言動を書き綴った日誌よ」

「!?」


 私がレイモンドにそれを渡し、彼がパラパラとページをめくれば、みるみるうちに彼の顔色は青くなっていった。


「約束よ、レイモンド。夜は必ず帰ってきて、私と眠ること。だけど、寝る前、必ずこれを朗読してちょうだい」

 自分の言動にあれだけダメージを受けてきたレイモンドだもの。

 これは相当堪えるはず。


「もちろん私にもダメージが0というわけはないわ。私にだって反省点があったのだから、これくらいのダメージ受けて当然だもの。1週間、これを続けてもらうわ」

「1週間……」

「大丈夫、201話の軽い読み物だから」

「いや重いだろ」

「読み終わるまでは、キスも初夜もすることはないわ」

「うっ……わ、わかった……」


「レイモンド?」

「ん?」


「今夜から──簡単には寝かさないわよ?」


「っ……そのセリフ、なんか違う……!!」


こうしてレイモンドの眠れない夜、第一話がスタートするのだった──。


自分自身の行いに後悔し猛省している人間にとって、それを毎日自分の口で朗読せねばならないのはかなりの苦痛だったりします。

そのままそこで話を終わらせてしまうのではなく、敢えて心に刻み込ませるスタイルのお仕置き……。

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