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離縁しましょう



「おかえりなさいませ、王太子妃殿下」


 城に戻るとゼルが穏やかな表情で待ち受けていた。

 こんな表情してるってことは、昨日はしっかり休めたのかしら?


「ただいま、ゼル。ゆっくり休めたかしら?」

「……えぇ、まぁ」

 何? 今の間。

「王太子妃殿下は、久しぶりの公爵家で、心安らかにお過ごしになられましたでしょうか?」

「え? えぇ、とても。……あぁ、でもまた私が帰ってきたと知った宰相が押しかけてきそうね。憂鬱だわ。帰るの夜にすればよかったかしら?」


 せっかくのスッキリした良い気持ちが台無しになっちゃうものねぇ。

 私がぼやいていると、なんとも言えない表情でゼルが口を開いた。

「……それに関しては、心配の必要はないかと……」

「必要ない?」

「……えぇ」


 宰相、留守なのかしら?


「そう? なら良いわ。ぁ、サリー!!」

 私が荷物の運搬の指示を出しているサリーに声をかけると、彼女は小走りでこちらへと駆けてきた。

「なんでしょうか? 妃殿下」

「忙しいのにごめんなさいね。レイモンドに、今夜は必ず部屋に帰るよう伝えてくれないかしら? 大切な用事があるから、と」

「殿下に、ですか? かしこまりました……!!」

 なぜかサリーは少しだけ嬉しそうにして私に一礼すると、一目散に階段を駆け上がっていった。


「何か嬉しいことでもあったのかしら?」

 私が首を傾げると、

「あなたが自分から殿下に部屋へ帰れと伝えようとするのは初めてですから、嬉しかったのでしょう。あなたはいつも、自分のお気持ちを押し殺してばかりでしたから」

 とゼルも僅かに表情を和らげた。

 お母様をはじめとして昔から一緒にいる彼らには、そんなにも心配をかけていたのね。


「心配してくれてありがとう。でももう大丈夫よ。しっかり話して、離縁するわ」

「────────は?」

 にっこりと微笑んだ私に、珍しく表情を崩して固まってしまったゼル。


「り……えん?」

「えぇ。だって私、もう無理だもの。私を愛していない彼の側で、私以外の女性と一緒にいる彼を見るのは。……どうせわかっていたことだもの。キッパリさっぱり玉砕して、孤児院に入るわ」

「こじ……!? ──まぁ、あのヘタレには良い薬か……。──はぁ、わかりました。ひとまずは妃殿下の思われるようにご行動ください」


 途中ボソボソしていてよく聞き取れなかったけれど、ゼルはため息を一つこぼしてから納得してくれた。

 優秀な護衛騎士だわ、本当。


「あぁ、夕食はいらないと伝えてもらえる? 公爵家で食べすぎちゃって……。しばらく部屋で休むわね」


 朝食も昼食もお腹に詰め込みすぎた私は、ただいま馬車の揺れも相まって絶賛グロッキー状態だから。

 最近あまり食べてなくて胃が縮んでいる中で食べすぎたんだから、そりゃそうだ。


「わかりました。そのように」

「ありがとう、ゼル」

 私はゼルにお礼を言うと、のっそりとした足取りで1日ぶりの部屋へと帰っていった。





 ──いつの間にか寝ていたようで、まだ重い身体を起こして窓の外を見てみれば、そこはすでに闇の世界と化していた。


 食べすぎて横になっている間に眠ってしまうだなんて、王太子妃としてどうなの、私。

 レイモンドは──まだのようね。

 私は急いで鏡を見ながら、少し癖のついてしまった髪を(くし)で整えた。


 そこへ──「ロザリア? 入っても、いいか?」

 レイモンドの少し硬さを含んだ声が扉ごしにして、「どうぞ」と私も同じように声を硬くして答える。

 彼の部屋でもあるのに、なんだか変な感じ。


 小さな音を立てて開いた扉。

 数日ぶりに見たレイモンドの顔は、なんだか少しだけ痩せたように思える。

 あまり食べていなかったのかしら?

 それに、なんだかとっても疲れているみたい。


 二人揃ってこの部屋にいるのは約3週間ぶり、か。


「ロザリア、何だ? 用事って。せっかく2人で話す久しぶりの時間なのにすまないが、用事が終わったら、俺はまた少し行かねばならない」


 言いながら疲れた様子でベッドの端にどしりと座るレイモンド。

 そんなに早く聖女のところに行きたいのかしら。

 まぁいいわ。

 私はそんなレイモンドに近づくと、彼を真っ直ぐに見下ろして言った。

 

「では、単刀直入に言うわ。レイモンド、離縁しましょう──」



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