私の現実へ〜Sideアリサ〜
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今日の夕食は、ここにきて初めて一人で食べた。
いつもはお部屋で、レイモンド様やランガル、時々宰相のおじさんも来てくれていたのに。
メイドに聞いたら「急ぎの仕事をしております」だって。
聖女を放っておいてやるべき仕事なんてあるのかしら?
「よし、こんなもんね!!」
薄いナイトドレスに、少し濃いめの化粧。
私のかわいらしさとヒロインらしさを、少しだけ背伸びした大人仕様に仕上げてみた。
これから私は、レイモンド様のお部屋に突撃する。
ロザリアがいない今がチャンスよ!!
既成事実でもつくって、レイモンド様をメロメロにしてみせるんだから!!
気合を入れて、さぁ行くわよ──と扉の取っ手に触れたその時。
コンコンコン──。
「聖女様。レイモンドだ。夜分申し訳ないのだが、入ってもいいだろうか?」
レイモンド様!?
夜は絶対にここへ来ることはないのに、どうしたのかしら?
もしかして、やっと私のことを……?
「レイモンド様!! いらっしゃ──!!」
私が急いで扉を開けると、そこにはレイモンド様だけじゃない。
ゼルやランガルまで揃っていた。
何これ?
え、もしかして3人とも私のことを!?
もしかしてこれ、ヒロイン特典か何かなのかしら?
「あぁ、すまない。ここに召喚された時に着ていた服に着替えてもらえるか?」
「はい?」
私の姿を見るや否や、そう言い放ったレイモンド様。
少しは顔を赤くするとかしてくれてもいいのに、通常運転なのはなんだか解せない。
ていうか、ここに召喚された時に着てた服って……制服よね?
え、まさかそう言う趣味趣向でもあるの!?
ま、まぁいいわ。
やる気になってくれてるんだもの。
「わかりました!! ちょっと待っててください!! すぐに着替えてきますから!!」
私は急いで、しまっていた制服を取り出すと、着ていた薄いナイトドレスを脱ぎ捨てて、それに着替えた。
久しぶりの制服は、なんだかとても軽く感じられた。
私、今までこんなに動きやすい服を着ていたのね。
脱いだものもそのままに、私はレイモンド様の待つ扉の外へと出た。
「お待たせしました!!」
「いや、早かったな」
「レイモンド様からのお誘いですから、お待たせしたくなかったんですぅっ!!」
ようやくだもの、そりゃ張り切るわよ!!
ついにロザリアに勝ったんだわ!!
私が王妃になって、イケメンパラダイスを築く時代がやってきたのよ!!
「では、ついてきてくれ」
「はい!!」
レイモンド様の寝室なんて初めてだわ。
……でもこの二人、いつまでついてくるのかしら?
同じフロアの長い廊下の突き当たり。
白くて大きな扉の前で、レイモンド様は立ち止まった。
「ここだ」
言うや否や、レイモンド様はその大きな扉を引き開けた。
「!!」
え──?
大きくて丸い、アニメとかでよく見る魔法陣みたいなものが床に描かれた広い部屋。
そこには私が来た時、聖女だって判定した神官長って人が待ち構えていた。
何? ここ……。
なんでこんなところに連れてこられたわけ?
目の前の光景に戸惑っていると、レイモンド様が私を振り返って口を開いた。
「アリサ殿。ようやくあなたを元の世界に戻す陣が完成した。遅くなって申し訳なかった」
「元の世界に……戻す? え、待って、どういう……?」
突然のことに頭が混乱してくる。
そりゃ、元の世界に戻す方法を考えるとは言ってくれていたけど、宰相のおじさんは私をレイモンド様の妃に、とか言ってたし、こんなの想像してなかった。
て言うか私、ヒロイン──よね?
「あ、あの、私を妃にするって宰相のおじさんが……」
「言っていたな。だが私はそれを否定していただろう。俺の妃はロザリア一人だと、最初から言っていたはずだぞ」
「えぇ!? あれマジだったの!? 信じらんない。だってこの人は完璧ヒーローのレイモンド様で、あれは傲慢な悪役令嬢ロザリアで、私は聖女でヒロインで……」
思わず声を上げた私に、レイモンド様が眉を顰めた。
「完璧ヒーロー? 俺はそんなもんじゃない。俺は、ヘタレで、周りを見てなくて、大切なものを傷つけてばかりの、ただの馬鹿王太子だ」
へ、ヘタレ?
馬鹿王太子?
え、ちょ、どういうこと?
私の知ってる物語のレイモンド様は、召喚されたヒロインをドロドロに溺愛して、気が強くて傲慢で嫌味ったらしい悪役令嬢ロザリアを、見事な策で嵌めて追放して、ヒロインを王妃にまで導いてくれた素敵な王太子様よ。
なのに……この物語、おかしいんじゃないの!?
全然私の思うようにいかないじゃない!!
「こんなの……こんな世界、私がいる世界じゃない……!! こっちから願い下げよ!! こんな、私の思い通りにいかない世界なんて、ヒロインの意味ないじゃない!!」
「アリサ殿?」
「なんなのよここ!? 悪役令嬢のロザリアはレイモンド様と結婚してるし、レイモンド様はロザリアから私に乗り換える気配もないし!! こんな思い通りにいかない世界なんて……私、帰る!!」
これなら日本の方がまだマシよ!!
私はズンズンと大きく描かれた陣の上に進んでいく。
「あ、あぁ……。──アリサ殿」
「?」
「こちらの都合に巻き込んでしまって、すまなかった。せめて、初代聖女の子孫である王家に伝わる【祝福】の魔法を付与させてくれ。向こうで、あなたにたくさんの幸せがあらんことを──」
綺麗な顔でレイモンド様がそう言って、私の方へと掌を向けると、そこから小さな光が弾けて大きく広がり、私を包み込んだ。
暖かい。
ふわふわした光。
これが【祝福】ってやつ?
そしてそのあとすぐに神官長が魔法陣に触れると、陣が淡く光りを放った。
光は足元から上へ上へと上がっていって、たちまち私は、その中へと吸い込まれていった──……。
──チュン、チュンチュン……。
「んん……?」
鳥の声?
気だるい身体をゆっくりと起こすと、そこは豪華な城の一室ではなかった。
ピンクの布団に、大きなクマのぬいぐるみ。
ライトブラウンのウッドデスク。
本棚にはたくさんの漫画や小説。
ここは──日本の私の部屋だ。
あれは夢だったんだろうか?
ふわふわとした不思議な感覚に襲われながら、私はまた何事もなかったかのように私の現実を生きる。
──時が経つにつれ、もしかしたら夢なのかもしれない、そう思うようにもなったけれど、不思議と私はあれからものすごく幸運だ。
大学にも合格したし、モテ期到来で、すぐに破局はするけどひっきりなしに彼氏が途絶えることがない。
破局の時に必ず「ワガママすぎる」って言われるけど、それは受け入れられない向こうが悪いんだと思う。
そんな毎日の中で、ふと思い出す【祝福】という言葉。
「……まさかね」
だけど不思議なことに、あれだけハマっていた本は、私の本棚から綺麗さっぱり消えていたのだった──。
祝福はあれど、幸運が訪れたその後どうするか。
それを生かすも殺すも本人次第、なんですよね(^◇^;)
ワガママが身を潜めてくれれば、きっと幸せな未来に辿り着くことでしょう……!!
次回からロザリアとレイモンドのラストスパート!!
彼女たちが好きだと言ってくださる方々に、心を込めて。
最後までしっかりと紡いでいきたいと思います。