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解決~Sideレイモンド~


「父上、母上」

「レイモンド。終わったのか?」

 

 カップを持つ手を下ろしてこちらに視線をよこした父上の表情に、若干疲れが見える。

 作戦を黙っていたことで母上が激怒していたからな。

 怒りの母上と疑惑の宰相の板挟み。

 この二人の相手で一気に老け込んだように思える。


「はい。ありがとうございました。こちらが……黒、でした」

 俺の言葉に父上は少しだけ残念そうに視線を伏せてから「そうか……残念だ」とこぼした。


「へ、陛下? 一体何の──?」

 私との話で肩を落とす父上の様子に、何のことか分からず私たちの顔を交互に見やるラングレス宰相。


「あぁ、宰相。我が息子がな。ついに聖女を強制召喚した犯人を見つけ出したというのだよ」

「なっ……強制……召喚の……!? そ、それは……」

 目に見えて動揺し始めたな、宰相。


「見つからないように魔術施錠を重ねていたようでな。全く──何人の命を陣に捧げたのか……。──なぁ? ──ラングレス宰相?」


「っ!? な、何のことだか……!!」


「お前の屋敷にウチの優秀な護衛騎士の一人を潜り込ませたんだ。知らないなんて言えんぞ。この2週間ちょっと、俺は聖女様に頻繁に接触してくる輩を調査していたが、その時点でお前は監視対象だったんだよ。やたら俺と聖女様をとりなそうとしたり、側妃にどうかと勧めてきたしな。聖女様を召喚したのは、俺とくっつけてその後見におさまり、実権を握ろうとするためだという仮定も立っていた。となれば、俺が聖女様といるのは好都合。これ幸いと、そのままくっつけてしまえばいいんだからな。おかげで俺はロザリアと一緒にいられなくなったんだ。俺とロザリアの時間を返せ!! しっかり罪を認めてもらおうか、宰相!!」


「殿下、私情……」

「うっ……」

 つい私情を挟んでしまったが事実なんだ、少しくらいいいだろう。

 宰相は悔しげに顔を歪めると、父上の方へと向き直り、ヘラリと笑った。


「へ、陛下、これはきっと何かの間違いです!! 私は聖女様を召喚など──」

「あら、でもあなた、聖女を側妃に、って、ロザリアにもしつこく言っていたじゃないの」


 ロザリアに!?

 何だそれ聞いてない!!

 俺の心情を察したのか母上は意地の悪い笑みを浮かべてから、

「頼れる人のいないロザリアは、その心労で倒れてしまったのではなくて?」と追撃する。

 これはあれだ。

 宰相に言ってると見えかけて、俺に言っている。

 まだやることもあるのに、今のでダメージくらいすぎたんだが……。


「そ、それは、良かれと思って……!!」


「余計なお世話だ!! 俺はロザリア以外に興味はない!! それと、陣のあったお前の研究室から遅延性の毒も見つかった。一度では効かんが、少しずつ体内に溜まっていって、体を蝕んでいく。それでいて証拠はすぐに身体に浸透され消えてしまうから、残ることがない。これも禁術の一つだな? ご丁寧に記録日記まで見つかってな。ランガル、読み上げろ」


「はい」


 ランガルは懐からたくさんの付箋のついた年季の入ったノートを取り出すと、それを淡々と読み上げた。


「“王妃が倒れた。やった。成功だ。命は取り留めたようだが、二度と子は産めぬ。王は側妃を娶る他ないだろう”」

「!!」

 父上と母上が息を呑む。

 それでもランガルは言葉を続ける。


「“王は王妃以外を娶らぬと宣言した。こうなったらもうしばらく毒を続け、王妃には死んでいただくしかない。そうすれば幼い子どものためにも、王は側妃を娶るだろう”」

「こ……これは……」

 だんだんと色をなくしていったラングレス宰相の顔に、大粒の汗が滴る。


「“しぶとくまた生き残った王妃。こうなれば陛下には早めにご退位いただくしかない。そしてあの一人息子を懐柔して……。幸い王太子妃になるロザリア嬢とは犬猿の仲と言われるほど会えば喧嘩ばかりなさっている。放っておいても、こちらが用意した女に乗り換えるだろう”──、で、これが1ヶ月くらい前のものっすね。“まずい。あれほどあえば喧嘩ばかりしていたのに、なぜこうなった。二人の仲が明らかに前とは違う。このままでは私の計画が……。……聖女を召喚しよう。聖女に憧れを持つ王太子だ。すぐにそちらに鞍替えするはずだ”」



「……侮られたものだな。どうだ宰相。証拠には申し分ないだろう? 研究者気質で几帳面な性格が裏目に出たな」

 俺が右手を上げると、それを合図に騎士たちが奥の門と右手の門から雪崩(なだ)れ込み、宰相を取り囲んだ。

 この証拠がなければ、ここまで知ることなどできなかった。

 ゼルのおかげだな。


「くっ……あと少しだったのに……!!」

「あと少し? 万に一つでも俺がロザリア以外を選ぶことなどない」

 何年想ってると思ってるんだ!!


「ラングレス……なぜだ? ずっと、よく仕えてきてくれたお前が……」

「貴様よりも賢き私の方こそが王にふさわしいんだ!! 私の思い通りに動いていれば、国はもっと豊かになるはず!! なのに貴様は、まったく私の思い通りには動かない!!」


 騎士たちに取り押さえられながら顔を歪ませて吠える男を見て、父上がはぁ、吐息を吐いた。


「思い通りに動いていれば、って……お前、馬鹿か?」

「っ!!」

「王が一つの意見だけを盲信して自分の意見を持たないなら、それは王ではないだろう。他者の意見を聞く耳を持ち、状況を見定め考えて決断する──それが王だ」


 その言葉を聞いて、ぎくりと俺の身体が揺れた。

 それは俺のことでもある。

 王である父の言葉を全てとし、自ら考え判断することを怠った。

 そして結果、大切なものを傷つけた。

 王になる日も近いというのに。

 それに気づくことなく未熟な王になるところだった。

 次期王としての本当の意味での自覚……。

 ──まさか父上は、俺にこのことを気づかせようとしていた……?


「連れて行け」

 すっかり気力をなくしうなだれてしまったラングレス宰相を、騎士たちが抱えるようにして連行していく。


 終わった。

 やっと。

 ずっと入りっぱなしだった肩の力が一気に抜けていく。


「レイモンド、ご苦労だったな」

「いえ。ゼルと、ランガルがよく動いてくれましたので」

 二人がいなければ、こんなに早くに解決できなかった。


「自分で物事を見定め判断すること、信頼できる他者を頼ること。よく身に染みただろう?」

 やっぱり策士か。

「……はい」


「あら? でもそのせいでロザリアはとても辛い思いをしたのをお忘れなきように」

 鋭いトゲをつけた言葉に、俺と父上が顔を引き攣らせる。


「レイモンド。ゼル、ランガル。私たちの件も解決してくれてありがとう。でもね、レイモンド。大切なものは絶対に見失っちゃダメよ。“王”が守るべきものはたくさんあるけれどね、でも、どんな時も、“自分”が守るべき大切なものを見失っちゃダメよ。」

 母上の両手が、いつの間にかぐっと握り込まれていた俺の手を優しく包む。

「……はい、母上」


「あとは聖女ね」

「はい。夕刻には陣が出来上がると聞きました」


 アリサ殿にも伝えねばな。

 早く帰りたいだろうに。

 こちらの都合で、知らぬ間とはいえ囮のように使ってしまった。

 一刻も早く、元の世界へ還してやらねば……。


「全てが終わったら、ロザリアにしっかり謝り倒すのよ!! それと──陛下?」


 声色がワントーン低くなった!?


「な……何──」

「レイモンドの処分はロザリアに任せるとして──……」

 処分!?


「あなたには私から、しっかりお話がありますので、そのつもりで」

 笑顔が黒い……。

「は……はい……」


 顔を引き攣らせながら返す父上に、俺は心の中で無事を祈るのだった──。




ようやく解決!!

そしてあと数話で最終話です。


1話の、本についてのくだり、少し改稿しております。

突発的に書いた短編のままに書いてしまって、ヒロイン目線で見た物語の正当性が皆無になっておりました。


次回、アリサSide!!

最後まで暖かく、見守っていただけると嬉しいです。


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