孤児院問題
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院長が帰ってきて、我に帰ったレイモンドとともに彼女が持ってきた大量の孤児院経営についての資料へと目を通す。
これを見る限りは特段困っているようなこともなさそうね。
予算的にもちょうど良さそうだし人手不足ということもなさそうだわ。
「うん、食事や衛生面も特に問題なさそうだな。院長、何か他に気になることはないか?」
レイモンドが資料を机の上へと返すと、院長の意見を聞こうと前に乗り出した。
こういう、仕事をしている時のレイモンドは本当にカッコいい。
いつもの大雑把で適当で若干ヘタレなレイモンドと違って、真面目で真剣な表情。
思わずぽーっと見つめてしまいそうになるのを、婚約者として仕事を手伝っていた時からずっと自制していた。
こういうところ、本当にずるいわ。
ギャップ萌えってこう言うことを言うのよね、きっと。
くっ……レイモンドの癖に。
私が心の中で悪態をついていると、院長が少し考えた末に「一つだけ……」と語り出した。
「勉学を教えることに限界を感じております」
「「べんがく?」」
私とレイモンドの声が不本意ながらに被って、思わず二人顔を見合わせてから、すぐに慌ててどちらからともなく顔を背ける。
「べ、勉学は確か、シスター達が教えているのだったな?」
「はい。ですがそのシスター達も、元は貧しい平民の出であったり、この孤児院出身であった者たち。教えられることも限られているのです。普通に働き口を見つけてここを出ていくならば、それでも良いかもしれません。ですが、やりたいことを見つけても知識が乏しければ、その道に進む学校へ入ることもできません。それが、あの子達の未来の可能性を閉ざしてしまっているようで……」
ぽつぽつと語られた院長の話に、私は思わず眉を顰めた。
確かに、孤児院は18歳までに出ていかなければならない。
進路は就職したり学校に行ったり結婚したりと自由だけれど、専門学を学ぶための学校へ入るには試験に合格しなければならないし、学が備わっていなければまず入学試験で躓いてしまう。
勉強をするにも、教える人間にも学がないと、教えるに教えられない。
「ふむ……それはよろしくないな……。わかった。こちらで考えてみよう」
「ありがとうございます」
ひとしきり話し終えたところでノック音が響き、院長が許可をすると、「そろそろお時間です」と一人の騎士が告げた。
黒曜石の如き黒髪に、シュッとした切れ長の赤い瞳をした美丈夫。
──ゼル・スチュリアス。
以前はレイモンドの専属護衛騎士であった彼は、今は私の専属護衛騎士だ。
クールで知的で、レイモンドの3つ上、私の5つ上である彼は、公爵家の長男であったにもかかわらず騎士の道へと進み、幼馴染であるレイモンドの護衛にまでなった、変わり者であり実力者でもある。
そんな彼が、私たちの結婚後、私の専属護衛騎士になるなんて、考えてもみなかった。
だって、たくさんの努力をして掴み取って王太子の専属護衛騎士だったのに……。
まぁ、命令されれば仕方ないことではあるのだけれど、なんだか申し訳ないわ。
「あぁ、わかった。じゃぁ院長。色々まとまり次第、また連絡する」
「ありがとうございます、殿下」
机の上に置いていた資料を持ってレイモンドが立ち上がる。
私もレイモンドに続いて立ち上がると、スッと手が目の前に差し出された。
私の、仮初の夫の手──。
こういうさりげないエスコートが、また私の心を揺さぶってくるのよね。
レイモンドのくせに。
エスコートされるがまま孤児院を出て馬車へと乗り込もうとしたその時。
「おひめさまぁー!!」と元気な声が響いた。
さっきの女の子が見送りに来てくれたようだ。
あの子だけでない。
他にもたくさんの子ども達の姿が……。
私はにっこりと微笑んで「また来るわねー!!」と声をあげて大きく手を振った。
私の未来の家族であるあの子達の未来のためにも、私もしっかりと自分にできることをしなければ──!!