ごめん。愛してる〜Sideレイモンド〜
今日、ロザリアが倒れた。
知らせを受けた俺は、ある調査をしていたランガルに監視を任せ、すぐにロザリアが眠っているであろう俺たちの部屋に向かった。
やっぱり、無理をさせていた……!!
守りたいのに……。
俺はいつも間違える。
間違えて、後悔して、その繰り返しだ。
部屋の前で苦悶に満ちた表情で佇むゼルに会った瞬間、あいつは目を見開き、そしてすごい速さで俺のそばまで来ると、躊躇う事なく俺の胸ぐらを掴み上げた──!!
「あなたは……!! 何で……!! 何でこうなるまでロザリアと会話をしなかったのです!? あの方は毎日一人、何も言わずに離れていったあなたに戸惑いながら不安に満ちた日々を送っていたのですよ!?」
「っ……」
「聖女がいいのなら、なぜここに来たんです!! 義務だとでもお思いですか?」
「違うっ!! 俺は、聖女様と好きで一緒にいるわけじゃない!! 俺の唯一は、ロザリアだけだ!! 義務だと? 俺はただロザリアが……あいつが心配で……!!」」
「それが今更だというんです!!」
「っ……!!」
……確かにそうだ。
俺は言い訳も説明も何もできていない。
聖女との間に何もないとはいえ、たびたび様子を伺いに聖女の部屋を訪れたり、監視のためとはいえ、夫婦の寝室に戻ることなく顔を合わせなくなったり。
一つの問題を、ただ父上に言われた通り、人に知られることなく自分の手で何とかせねばと思いすぎて、俺はあいつを不安にばかりさせている。
元々俺のことなんてどうとも思っていないのかもしれない。
それでも俺は、ロザリアにそばにいて欲しくて一方的に結婚した。
その結果がこれだ。
【今更】。
ゼルの言うことは正しいのかもしれない。
でも……。
「……理由は……言えない。でも、これだけは……!! 俺はロザリアだけを愛してる。今は表立って一緒にいることはできないが……あいつを守るためにも……」
「……何か、計画を遂行中、だと言うことですか? あの方を守るために?」
俺はその問いにゆっくりと頷く。
「ッ……」
すると俺の胸ぐらを掴んでいたゼルの手がゆっくりと解かれた。
「……失礼いたしました。……お通りを」
「あぁ……」
「ですが……それはあの方を苦しめていい理由にはなりません。あなたは、言葉が足りなさすぎる」
本当、そうだよな。
俺の事情は俺の事情だ。
あいつを苦しめていい理由にはならん。
「大切な人のために大切な人を傷つけては、本末転倒。これ以上彼の方を苦しめるだけならば……あの方は私がいただきますよ?」
ゼルの赤い目が鋭く光る。
──本気だ。
「……あぁ……わかっている」
俺は短く返すと、部屋の中へ静かに足を踏み入れた。
薄暗くベッドのサイドテーブルの明かりだけがぼんやりと辺りを照らす。
あぁ……この匂い。
俺たちの部屋の匂いだ。
俺はベッドの上で苦しげに息を荒げながら眠る愛しい妻を見下ろす。
まだ顔が赤い。
やっぱり辛いんだろうな。
額や首筋に汗が滲んでいる。
「ロザリア……。ごめん──。……愛してる──」
囁くように、眠る彼女に愛の言葉をおくる。
起きている時には言えなかった言葉。
彼女のためだけにある、唯一の言葉。
もう少しここにいたいが、行かなければ……。
俺はロザリアの髪をそっと撫でてから、後ろ髪を引かれながら部屋を出た。
「ゼル」
「……何か?」
ジロリと睨みつけるように、部屋から出てきた私に応えるゼル。
「俺が今ここに来たことは他言無用だ。ロザリアの安全のためにも」
「……わかりました。──殿下」
「ん?」
「もう少し周りをお頼りなさい。もし陛下が口止めをしているのだとしても、もう少しあなた自身の考えで、あなた自身のお心のままに行動なさいませ。自身の意思と判断で物事を進めるのも、次期国王として大切なことだと、私は思います」
自分の判断で──周りを……。
そうかもしれない。
父上の意見のまま、実質俺とランガルだけで捜査をしているが、それでは遅すぎる。
俺が何も言わないせいで、何もできないせいで、ロザリアに心労をかけてしまった。
これ以上長引かせるわけにはいかない。
「……あぁ。そうだな。……ゼル」
「はい」
「頼めるか?」
俺の言葉にゼルは僅かに表情を和らげた。
「もちろんです」
次回、【実家に帰るわ】。
見守っていただけると嬉しいです( ´ ▽ ` )