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王と王妃、そして宰相


「王妃様、お招きいただきありがとうございます」

「ん? 誰って?」

 あ……。

「お、お義母様、お招きいただきありがとうございます」

「うんうん、来てくれてありがとう、ロザリア」


 先にテーブルについて紅茶を飲んでいた王妃様が「まぁお座りなさい」と私に席をすすめる。

 相変わらず可愛らしいお方だわ、王妃様は。

 こういう女性がきっと好かれるのよね。


「突然ごめんなさいね」

「いいえ。とても、助かりましたから……」


 本当、素晴らしいタイミングだったわ。

 もう少しで拳で語り合うところだったもの。


「あら、何かあったの?」

「いえ、少し……。宰相が朝から2時間ほどおいでになっていただけですわ」


 そう、2時間。

 お茶も出さずに、早く帰れという圧をかけていたにもかかわらず、2時間も粘ったのだ、あの男。


「あぁ……ラングレス宰相ね。あの人も懲りないわねぇ」

「懲りない?」

 呆れたように頬に手を当てため息をつく王妃様に、私は紅茶を飲む手を止めて聞き返した。


「えぇ。私が陛下と結婚した時もね、それはもううるさかったのよ。自分の娘を側妃に召し上げるのはどうかってね」


 えぇ……。

 あの人常習犯なの?


「ほら、王族なのに私には子どもはレイモンド一人でしょう? だから当時は色々言われてね……。宰相を含めたくさんの貴族が、陛下に自分の娘やどこからか連れてきた女を勧めてきたわ。何度私の拳が(うな)ったか」


 唸ったのね……。

 王妃様はレイモンドを出産した直後、体調の悪化が続き、二度と子どもを産めない身体になってしまった。

 だから王妃様のお子はレイモンドただ一人だ。

 周りが放っておくはずがない。


「もうね、辛かったわ。陛下を愛しているのに側妃を認めるなんて……。でもね、陛下が……。あの人がある日、夜会で宣言したの。“私にはレインしかいらない。次に他の女を勧めてきた奴は牢にぶち込むぞ!!”ってね」


「牢に……」

 なんていうか……豪快ね。

 でも王妃様、すごく幸せそうな顔。

 本当に陛下と王妃様はお互いに愛し合ってらっしゃるのね。


「それからパッタリと、女性を薦める愚か者はいなくなったわ。ラングレス宰相も他の貴族達も私の時に失敗したからって、あなたにしつこく言い寄ってるんでしょうね……。あの人、穏やかそうに見えてとても野心家だから」


「野心家……」


「えぇ。陛下があの宣言をした直後ぐらいにね、私、殺されかけたのよ──多分、ラングレス宰相にね」


「ラングレス宰相に!?」


 殺されかけた……って……。

 そんなことした人を宰相なんて地位にしたままでいいの!?

 この国どうなってんの!?


「多分、よ。証拠は何もないの。だから裁いたりとか、地位を剥奪することも迂闊にできなくて……。でもね、変だと思わない? レイモンドがお腹にいる時は私、とても元気だったのよ? それが出産して、体力も回復してきたかなって言うところで倒れてしまった。そして陛下の『牢にぶち込むぞ』宣言後の私への毒殺未遂。その後の陛下の病気。二人揃って何かしらあるのよ? 当時私も陛下も、宰相とよくお茶を楽しんでいたりしたから、私たち二人の疑いは宰相に向いているままなの。何年経っても証拠は上がらないから、疑いのまま、見張りをつけてる状態なんだけどね。まぁ当時は産後の肥立ちが悪くて、と誰もが思っていたし、実際そうなのかもしれない。もしかしたら勘違いかも……。でも、用心しておいた方がいいわ。下手に彼を刺激しない方が──ロザリア、大丈夫?」


 心配そうに私の顔を覗き込んだ王妃様に、私は綺麗に笑ってみせる。


「大丈夫ですわ。私は」

 自分に言い聞かせるように発したその言葉に王妃様は一層心配の色を濃くさせた。


「ねぇロザリア、きっと大丈夫よ。もしかしたらレイモンドにも色々考えがあるのかもしれないわ。あの陛下のお子だもの。不義理なことはしないはずよ」

「……えぇ……。そう思いたいと、思っております」


 紅茶を一口、口に含む。

 今日はなぜか余計に喉が渇くのよね。

 カラカラになった口内が紅茶でゆっくりと潤っていくのを感じる。

 頭も重痛いし、少し疲れているのかしら?


 そこまで考えてから私の身体は制御を失い、そのまま椅子からこぼれ落ちるように芝生へと倒れてしまった──。


「ロザリア!?」

「妃殿下!!」


 王妃様とゼルの声がする。

 それになんだかあたりが騒がしくなってきた。

 あぁでももう……。

 目が重くて……。


 少し、眠らせ──……。


 そのまま私の意識は、深い思考の海へと沈んでいった。



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