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王太子妃ロザリアVS聖女アリサ

本日あと1話、レイモンドsideを更新予定です!



「──なんですって?」

「だから、すまないが孤児院の方へはロザリア一人で行ってくれないか?」


 お父様たちに手紙の返事を書き終えた私は、レイモンドがいるであろうアリサの部屋へと(嫌々ながらも)訪れた。

 準備ができたからこれから孤児院へ行こうと言った私に、彼は少々疲れた顔で、さっきの言葉を発したのだ。


「前から約束していたわよね? それを──!!」

「だから、すまんと言っているだろう。……アリサ殿が、今日これから初代聖女の墓へ参りに行くことになったんだ。その後はドーリー侯爵夫人の茶会に呼ばれている。俺は王太子として、保護責任者として、それについて行かねばならない」

「っ……」


 またアリサ?

 そんなの他にいるでしょう?

 最近この部屋へよく訪れているらしい宰相やドーリー侯爵だって、どうせついて行くんでしょうし。

 なんでレイモンドまで……。

 ていうか、ドーリー公爵家のお茶会なんて私の方には連絡来てないんだけど!!


「ごめんなさい、ロザリア“さん”。私、どうしても心細いんです……!! レイモンド様がいてくれたら、私、お墓参り頑張れると思うんです!!」

 墓参りで何を頑張るのよ小娘。


「あなたはお墓参りやお茶会よりも先に、礼儀を覚えるべきね」

 私から想像もしていないほどに冷たい声が出てきたことで、レイモンドもアリサもはっと息を呑み、一瞬にして表情を強張(こわば)らせた。


「ロザリア“さん”? 私はあなたと友達になった覚えはないわ。それにお忘れかもしれないけれど、私はレイモンドの妻であり王太子妃よ。口を慎みなさい。あぁついでに、貴族のご婦人方からあなたへ、苦情がたくさん来ているわよ。既婚者である王太子殿下と二回もダンスを踊ってどう言うつもりなのか、とね。あなたもよレイモンド。こうなることはわかっていたはずでしょう? ゼルの機転がなかったら、今頃どうなっていたか……。憧れの聖女に会えて嬉しいのはわかるけれど、もう少し自覚を持って行動することね」


 私は腕を組み二人を睨みつけながら苦言を呈する。

 ここ最近のイライラのせいか、口からは息をするのと同じようにスラスラと言葉が出てきた。

 すると案の定、アリサは目にっぱい涙を浮かべてから、レイモンドに縋りつくように寄り添った。


「そんな……ひどいです……!! 私がレイモンド様とずっと一緒にいるからって、そんな言い方……!!」


「事実よ。妻のいる男性をいつまでも頼りにして引き留めているあなたの方がおかしいのでは? 少しは常識と礼儀を覚えなさい」


「っ!! そんな……、そんなだからレイモンド様は、私のそばにいてくれてるんじゃないですか!? あなたのそばにいるのが息苦しくて──!!」

「っ……!!」

「アリサ殿!!」

 怒鳴るようにレイモンドが声をあげて、まさか怒鳴られるとは思っていなかったらしいアリサはビクリと肩を揺らしてから「だってぇ……」と彼にしなだれかかったまま俯いた。


「……これ以上議論していても時間の無駄ね。ゼル、行きましょう。孤児院の皆が待ってるわ」

「はい。王太子妃殿下」

 私は必死に動揺を押し隠して、ゼルを連れてアリサとレイモンドに背を向けると、まっすぐ城を出て馬車に乗り込み、孤児院へと向かった。



“あなたのそばにいるのが息苦しくて──!!”



 頭の中でアリサの言葉が繰り返し巡る。

 私はアリサのように表情をくるくる変えて無邪気にはしゃいだりはできない。

 立場上、厳しいことも言わなければならないことだってある。

 なかなか素直になれない性格も災いして、可愛げがないお堅い女になったものだとは私も思うわ。


 だからなの?

 アリサのところに入り浸るのは……。

 あぁもう!! わからないっ!!


 ぐるぐる頭を変えて考えるうちに、孤児院へ到着した。


 いけないいけない。

 笑顔よロザリア。

 子どもたちに怯えられてしまうわ!!


 私は営業スマイルを顔面に引っ付けてから、背筋を伸ばし孤児院の門を潜った。



「王太子妃殿下、お待ちしておりました」

「こんにちは、院長。ごめんなさいね、レイモンドはどうしても外せない用事ができて来られなくなってしまったの。あ、それと、孤児院の皆にカップケーキを焼いたから、後で皆で食べましょう」


 私の後ろではせっせと御者たちがカップケーキを入れた箱を馬車から下ろしてくれている。

 孤児院の子どもたちや職員皆の分もたくさん作ったから、下ろすのも一苦労だ。


「まぁまぁ、ありがとうございます。子ども達も喜びます。王太子殿下にも、またよろしくお伝えくださいまし」

「……えぇ」

 伝える機会があればいいけれど。


 私がここにお世話になる日も近い──かしらね。

 お世話にならずに済んだと思ったんだけどね……。

 人生どうなるかわからないものだ。


 

 少しばかり話をしながら院長と施設を見回っていると、ちょうど授業が終わったらしく、見覚えのある長身に眼鏡の男性が教室から姿を現した。


「ラウル様、ごきげんよう」

「!! 王太子妃殿下!! いらしてたんですね」

 相変わらず穏やかな瞳が、眼鏡越しに細められる。

 いつ見ても癒し系ね、この方は。


 私のそばまで歩いてきたラウル様は、私の周りをキョロキョロと見やってから、レイモンドがいないことに気づき首をかしげた。

「ご視察、ですか? お一人……で?」

「えぇ、そうなの。レイモンドはちょっと……外せない用事が……」

 苦笑いを浮かべながら私が答えると、穏やかだった彼の瞳が伏せられた。


「あの突然現れた聖女様とのご用事、ですか?」

「!! 知ってたの?」

「えぇ……小耳に挟みました」

 驚いた。

 ラウルさまはそういう話に疎いと思っていたけれど……。

 逆に言えば、そんなラウル様の耳にも入るほどに、アリサとレイモンドの仲が噂されている、っていうことなのでしょうね。


「聖女も……心細いのよ。突然この世界に召喚されたんだもの。レイモンドだけが頼りなんじゃないかしら?」


 まるで自分に言い聞かせるように放った言葉に、ラウル様の顔がくしゃりと歪められた。


「そう、ですか……。あなたがそうおっしゃるならば……。ですが、ご無理はなさいませんよう。私も、子ども達も、お優しいあなたが苦しむ姿は見たくはありませんので」

「ラウル様……。えぇ、ありがとう」

 私がにっこりとラウル様に微笑むと、ラウル様もほんのりとした優しい笑顔を返してくれた。


「そうだわラウル様。これから子ども達と一緒にカップケーキを食べるの。ラウル様も一緒に食べましょう? 朝からせっせと私が作ったのよ」

「王太子妃殿下が? それはそれは……!! ぜひご一緒させてください」

「えぇ!! じゃ、行きましょう」


 その後私は、ラウル様や子ども達と一緒にカップケーキを堪能してから、中庭でたくさん遊び、また一人、城へと戻っていった。



次回、レイモンドside!

レイモンドの意図、そして思い──。

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