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恐怖の手紙


「はぁ〜〜……」


 波乱の舞踏会翌日。

 今、私の執務机は大量の手紙で埋め尽くされている。

 いずれも昨夜の舞踏会の出席者からだ。


 1つは聖女とレイモンドとの仲について。

 2曲も続けて踊ってしまえば、まぁ要らぬ憶測を呼ぶのも無理ないわよね。


 2つ目は、ぜひ聖女にお茶会に来ていただきたい、というお誘い。

 王太子の寵愛を受けているであろう聖女は、側妃になる可能性が高いと判断しているんでしょうね。

 

 現国王陛下は王妃様ただ1人を娶られてらっしゃるけれど、側妃制度はこの国でも禁止されているわけではない。

 もし側妃が召し上げられたとして、側妃をまとめるのは王妃の務め。

 だからこその私への伺いなんでしょうけれど……。

 ……胸糞悪いわ。


 あとは、昨夜の陛下の話によって迂闊(うかつ)にアリサに直接言えないと判断したご婦人たちによる、アリサに対する苦言。

 私以外にも、特にご婦人方にはあのエスコートや2曲続けてのダンスに思うところがある人は多かったみたい。


“王太子妃殿下の心中お察しします”

 そんな慰めの手紙も多い。

 ありがたいけれど、この苦言をアリサに言わねばならないのは私なのよね?

 はぁ……憂鬱だわ。


「頭痛い。胃も痛い」

「……大丈夫ですか?」

 ゼルの赤い瞳が心配そうに私を覗き込む。


「えぇ、大丈夫よ、ゼル。瀕死状態だけど。今日はこれからレイモンドと一緒に孤児院の視察予定よね。ちょうどいいから、その時にでもレイモンドに言っておくわ。私が直接アリサ本人に言ったら、泣かれてまた怯えられそうだし……」


 これ以上【悪役令嬢】ならぬ【悪役王太子妃】扱いされるのはごめんだわ。

 それよりも、公務とはいえ久しぶりに2人の時間が取れるんだもの。

 レイモンドがどういうつもりでいるのか、しっかり聞いておかないと。


「そうですか……。あぁ、そういえば、子どもたちへの手土産のお菓子、全て馬車に積み終わったと、先ほど報告がありました」

「わかったわ。じゃぁ私もそろそろレイモンドと合流して行かなきゃね」


 朝からせっせと焼き上げたカップケーキ。

 喜んでくれるといいんだけど……。


「妃殿下、その前に──」

「? 何かしら?」

「こちらの手紙だけは、可及的速やかにお返事をされた方がよろしいかと」


 そう言ってゼルは、手紙の山から3通の手紙を取り出した。


「……」

 見なかったことにしたかったんだけど……。

 やっぱりゼルにはお見通しか。


 1通はお父様からの。

 もう1通はミハイル兄様からの。

 そして最後の1通は、1番恐ろしいライン兄様からの手紙だ。


 昨日の舞踏会にも、もちろん私の実家であるクレンヒルド公爵家の面々も出席していた。

 ということは、レイモンドのアレも見ていたっていうことで……。


 何も思わないわけ、ないわよね。

 特にライン兄様は。

 レイモンドと仲悪いし、聖女のことも嫌悪感を持っているし。


 恐る恐る手紙を開いてみる。


 まずはお父様からね。

 なになに?


『帰ってきなさい』


 ただ一言!?

 いつもは立場を考えて丁寧な言葉を綴っているお父様が有無を言わさずただ一言『帰ってきなさい』って……相当怒ってる……わよね?


「き、きっとミハイル兄様の方にメインの内容は任せているのよね、うん、きっとそうだわ。こんな、一言だけなんてありえないものね!!」


 2通目のミハイル兄様からの手紙を開いてみる。

 えーっと?


『ロザリア、クソヘタレに見切りをつけて帰っておいで。俺も、そしてベルも歓迎するよ』


 ……どっこいどっこいの内容だったー!!


 あの冷静で温厚なミハイル兄様が『クソヘタレ』って……。

「あぁ……3通目を開けるのが怖い……」

 痛む胃を押さえながらも、私は3通目、ライン兄様からの手紙をそろりと開封する。


『今すぐそいつを捨てて俺のところへおいで。一緒に暮らそう。もうどこにも嫁に行かなくていい。兄妹仲良く幸せに暮らそう』


 ……やばい。

 やばいわよ。

 3人ともものすごく怒ってるわ。


「ちなみに公爵からは私や殿下、陛下、王妃様にも手紙が届いておりました」

 レイモンド達にも?

「えっと……なんて?」

「陛下や王妃様へのものは存じ上げませんが、私のものには、窮地を救ってくれて感謝する、と。これからもよろしく頼むと書いてありました。おそらく王妃様へのものもそんなところなのではないでしょうか? 殿下や陛下へのものは……苦言の可能性が高いでしょうけれど」


 あぁぁぁっ……!!

 ものすごく怒ってる……!!

 陛下にまで手紙を送りつけるなんて……。


「ゼル……」

「はい」

「早急にこれらの返事を書くから、すぐに届けるよう手配してもらえる?」

「もちろんです」


 今にも乗り込んできそうな3人への返事書くことになった私は、短い時間で必死に手紙を書き上げるのだった。



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