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うちの護衛騎士がスパダリすぎる


「ね、ねぇゼル、どういうこと? 何であなたが?」

 突然正装姿で現れた自分の護衛騎士に動揺が隠せない。

 頭が追いつかないままに、私は今、ゼルとダンスを踊っている。


「言ったでしょう? 舞踏会について聞き込みをして対策を練る、と。聞き込みの結果、あのヘタレ──ゴホンッ、王太子殿下は、アリサ様をエスコートするというとんでもない情報を入手しましたので、一度公爵家へと戻り、舞踏会に出席することを伝え、準備をしていました。そして今朝、王妃様にお時間を割いていただき、諸々(もろもろ)の状況を説明した後、もしもの時はあなたのパートナーになることを許可していただきました」


 あぁ、なるほど。

 ゼルから聞いてその足で私の部屋まで来てくれたのね、王妃様。

 さっきの、2人で話が進んでたのは、事前に王妃様は知ってらっしゃったから、か。


 確かに王太子の妻である私と踊るのに、勝手に連れ出しては私にもゼルにもあらぬ疑いがかかるものね。

 でもレイモンドが妻を置いて聖女とダンスを踊っているという状況下で、なおかつ王妃様の公認ならば……。


 皆、“聖女の歓迎のために”、王太子妃が夫である王太子を貸し出し、自分は代わりの者と踊ることになったのだ、と思ってくれたはず。

 何にしても、ゼルが来てくれてよかった。


「ゼル、ありがとう。あなたが来てくれて私……本当に助かったわ」

「少しでもお役に立てたのならば何より。……──ロザリア」

「っ!!」

 不意に名前を呼ばれて、くるりと向きを変えられる。

 見上げれば普段の仏頂面が薄く微笑んで、綺麗な赤い瞳が私を映し出していた。


「今は、私だけを見ていてください。“周り”などないものとして。私だけを──」


 周り?

 そう言われて誰が今私たちの近くにいるのか、気づいてしまった。


 ──レイモンドとアリサだ。


 私の背後にいる。

 ゼルの瞳の中に、私と一緒に小さく映ってる。

 驚いたようにこっちを見る、レイモンドの顔。

 それを、私に見せないようにしてくれているのね。

 わざわざ彼らが視界に入らないように、向きを変え背を向けさせて。


 本当、何て優しいんだろう。


 視線は気になる。

 背後からも。

 周りの貴族からも。

 それはそうね。

 いくら王妃様がおっしゃったとはいえ、私が今ダンスを踊っているのは、レイモンドと並んで大人気のゼル・スチュリアス公爵令息だもの。

 文武両道、常に冷静で真面目。

 その上美しい切れ長の赤い瞳と、サラサラの黒髪という整った外見。


 普段踊ることなく護衛に徹する美形護衛騎士の貴重なダンス。

 注目されないはずがないわ。

 そんな彼をパートナーとして独占している……って、なんて贅沢なのかしら。


「ふふ」


 私が突然笑い声を漏らしたことで、ゼルが不思議そうに首を傾げる。

「何か?」

「あぁごめんなさい。こんなに素敵な貴公子にお相手していただいて、なんて贅沢なのかしら、って思って」

「……こんな顔で宜しければいつでも。私こそ、あなたと踊ることができて光栄ですよ」


 くるくると踊り、やがて音がゆっくりと落ち着いて、消えていく。

 もう少し踊っていたかった。

 そう思ってしまうくらい、とても楽しい時間だった。


「ゼル、ありがとう。助かったわ」

「いいえ。流石に続けて二曲というのは避けた方がよろしいですし、いきましょうか」

「そうね」


 二曲続けて踊るのは配偶者か婚約者とのみ。

 舞踏会の常識だもの。

 私はゼルのエスコートでダンスの輪から抜けると、たちまち貴族連中に取り囲まれた。


「あぁ王太子妃殿下、今宵もとてもお美しい」

「今夜は殿下は聖女様のエスコートのようですが、こちらはスチュリアス公爵家の?」

「確か護衛騎士をしてらっしゃいましたわよね? とても凛々しくていらっしゃるわ」


 あちらからもこちらからも声をかけられて、あらためてどれだけ目立っていたかが窺い知れる。


「えぇ。今夜はレイモンドが聖女のエスコートをするので、王妃様に言われて幼馴染でもある護衛騎士のゼルが護衛と一緒にパートナーも引き受けてくれたの。とても素敵でしょう? うちの護衛騎士は。一度しか踊れないのが残念なくらい」


 二度続けて踊ってないのだから構わないでしょ? という圧も込めて。


「本当に絵になるお二人で……。続けて踊りたくもなりますね。あぁほら、王太子殿下とアリサ様は、その誘惑に負けてしまわれたようですが……」

 ニヤリと笑ってそう言ったのは、しつこいタヌキの筆頭であるドーリー侯爵。


 は?

 私がドーリー侯爵の視線の先を辿り、振り返りってみると──。



「!!」


 何やってんのあの男──!!


 レイモンドとアリサが、続けて踊っていた。

 目が離せない。

 でも何か、何か言わないと……。


「そ、そのようね。大方、作法やルールを知らない聖女に付き合っているのでしょうが……後で叱っておかねばなりませんね」


 冗談めかしてどうにか絞り出した言葉に、場の空気が緩んだ。


「まぁまぁ妃殿下。フレッシュで可愛らしい聖女様の魅力に抗えぬのは、男としては間違っていないのですから、ほどほどに」


 悪かったわね、フレッシュで可愛らしくなくて。

 だからって良いの!?

 他の招待客もざわざわしてレイモンド達を見てるし、王妃様なんて扇子をへし折りそうな形相で睨みつけてるわよ!?


「──失礼。妃殿下以上に愛らしい方はいらっしゃいませんよ。護衛をしていても、とても庇護欲をそそられる護衛対象ですしね」


 ゼル……。

 あなた……スパダリすぎるわ……!!


「そ、そうですな。妃殿下はとてもお美しいですからな」

 お世辞ね。

 思いっきり。


「皆様、妃殿下は連日の執務で少々お疲れですので、少し風に当たらせて参ります。気遣いができ良識あるあなた方です。このままホールで“ダンスを”楽しまれるのですよね?」


 “ダンスを”と強調したゼルに、私は苦笑いを返す。


「そ、そうですな。では私たちはダンスを楽しむとしましょう!! 妃殿下、ごゆっくりと……!!」

 逃げるようにダンスの輪へと入っていった侯爵達。


「さすがね、ゼル」

「お褒めに預かり光栄です。その場しのぎで言ったことではありますが、本当に風にあたりにいきましょうか」

「え? 大丈夫よ?」

「顔色、悪いですよ」

「!!」


 そんなに!?

 自分ではそんな気はなかったのだけれど……。

 やっぱりゼルには敵わないわね。


「いきましょう。──ロザリア」


 私は手を引かれるままに、ゼルと一緒にテラスへと出ていった。


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