最前線に赴く前に
それから私は、いつもの活気を取り戻した【チームロザリア】によって、完璧に髪を整えられ飾り付けられた。
青いドレスに散りばめられた小粒のサファイアがキラキラと光ってとても綺麗。
このドレスは私のお気に入りで、結婚前にレイモンドにプレゼントされたものだ。
彼が自分の色のドレスを仕立ててプレゼントしてくれるなんて初めてで、心が躍ったのを今でも覚えてる。
これを贈ってくれた時は、余計な言葉が何もなかったのよね。
だからか、嫌な思い出がひとつもない。
今日はそれにレイモンドの髪色をイメージした金糸で刺繍を施してアレンジを加えてもらった。
そしてさっきまで揉めていたアクセサリーは、当初の予定通りサファイアとシトリンを組み合わせたものになった。
全て、レイモンドの色で揃えた。
大鏡で自分の姿を見る。
うん。
とっても素敵よ、ロザリア。
だって、こんなに一生懸命皆が仕上げてくれたんだもの。
美しくないわけがない。
彼女たちに報いるためにも、しゃんとしなさい私!!
コンコン──。
部屋の扉が叩かれて、次女のメアリが対応に出る。
誰かしら?
考えているとすぐにメアリが慌てて戻ってきた。
「妃殿下!! 王妃様がおいでです!!」
「王妃様!? す、すぐにお通しして」
どうしたのかしら?
何か会場に不備でも?
最近レイモンドから回ってきたお仕事もあって忙しかったからか、何かやらかしちゃったのかもしれない……。
私はドキドキしながら王妃様を待つ。
「ロザリア、ごめんなさいね、急に」
申し訳なさそうに眉を下げて王妃様が入室した。
「いいえ、大丈夫ですわ、それより何かありましたの?」
空気を汲んでか、侍女たちは互いに目配せをし、私たちに一礼してから部屋から出ようとすると、王妃様はすぐに「待って。あなたたちもいていいわ」と彼女たちを止めた。
「……ロザリア、レイモンドのこと、私、さっき聞いて……」
あぁ、そのこと……。
王妃様も知らなかったのね。
「私も、さっき聞きました。あの……陛下は何かおっしゃって?」
「陛下は……アリサ殿も不安だろうから、と……」
アリサの心を汲んで、ということか。
下手に聖女の気を害して、何かあってはいけないからかもしれないわね。
「……わかりました。──王妃様、私は……大丈夫ですわ」
「ロザリア……。でも……」
「流石にレイモンドも、アリサとファーストダンスを踊るなんてことはないでしょうし、エスコート役がいないだけで何も変わりはないかと思います。会場で合流するだけのことです」
妻がいるのにファーストダンスを他の女と踊るなんて、そんなズレたことにはならないわ。
「そう? あなたが良いのならば良いのだけれど……。でも、何かあったら言ってね? レイモンドのヘタレが何もしないようなら、私が陛下を殴ってでも何とかさせるから!!」
なぐっ!?
そうだ……。
王妃様の特技は剣術ではなく体術。
国で最強の拳を持つ王妃……!!
陛下のお命のためにも、私、耐えねば……!!
「あ、ありがとうございます。王妃様」
「それもよ!!」
「へ?」
どれ?
「13年。あなたとレイモンドが婚約して13年!! 私はずっとあなたを娘のように思ってきたのよ?」
「はぁ……。あ、ありがとうございます?」
私もそのことは感じている。
時に優しく、時に厳しく。
疲れた時にはよくお茶やお菓子を振る舞ってくれた王妃様は、私にとって第二の母のような存在だ。
「なのにあなたったら、いつまでもお母様って呼んでくれないじゃない? 私このままじゃ死んでも死にきれないわ!!」
死にそうにないですけどね……。
でも、そう言ってくれるのは嬉しいわ。
「あ、あの……つい癖で……。呼んでもよろしいのなら……これから、善処いたします。……お義母様」
少し照れくさいけれど何だかしっくりくる呼び方に、王妃様は満足そうに笑みを浮かべた。
「ロザリア、覚えていてね。私も、ここにいるこの子達も、皆、何があってもあなたの味方よ。いつも頑張ってるあなたが、皆大好きなのよ」
その言葉に【チームロザリア】もにっこりと頷く。
「……ありがとう、ございます」
今日赴くのは戦場の最前線。
皆の思いを胸に、気を引き締めて。




