譲れない色
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深いサファイア色の光沢のあるドレスを纏いアクセサリーはサファイアとシトリンで揃える。
青と黄色。
全てレイモンドの色。
レイモンドは昨夜も帰ってくることはなく、今日になっても伝達も何もないまま舞踏会の準備だけが淡々と進んでいく。
いつもは侍女たちも楽しげに、
「こっちの方が王太子妃殿下に似合います!!」
「いやこっちの方が!!」
って熱いバトルを繰り広げながら準備を整えてくれているのに、今日はなんていうか……目を合わせてくれない。
まるで腫れ物にでも触れるみたいに、気まずげな表情のまま。
何かがおかしい──。
唯一いつもと変わらずにいるのは、侍女頭のサリーだけ。
私よりも少しお姉さんのサリーは、もともとクレンヒルド公爵家で私の専属侍女をしてくれていた。
王家に嫁に行く際、私が唯一お願いしてついてきてもらった、私の姉のような存在だ。
「あ、あの、やっぱり妃殿下、こちらのルビーのネックレスなんかは……」
「こちらのエメラルドのものでもよろしいかと思いますわよ?」
恐る恐るアクセサリーの色を変えさせようとする侍女たちに首を傾げる。
ドレスを着る時もこんなやりとりをしたのよね。
しきりに赤や緑、ピンクを勧めてきたし。
「そうねぇ。でも今日はレイモンドの色で揃えたいから」
少しずつ王太子夫妻の不仲説が信憑性を増してくる前に、アピールしておきたいもの。
「で、ですが……」
「いい加減にしなさい」
なおも食い下がる侍女を、サリーがピシャリと諌める。
罰の悪そうな顔で俯く侍女たち。
「王太子妃殿下、出過ぎた真似を、失礼しました」
「いいえ、いいのよ。それより皆、どうしたの? 今日は何だか、いつもと違うけれど……何かあったのかしら?」
私の言葉に侍女たちは互いの顔を見合わせ、どうしようかと考える素振りを見せた。
そんなに不穏な話なのかしら?
やがて侍女の1人エレナが、言いにくそうに口を開いた。
「あ、あの、王太子殿下が……」
「エレナ!!」
エレナが言いかけてサリーが声をあげて制止する。
レイモンドが?
あの人が関わってるの?
なら……。
「教えてちょうだい。レイモンドが関係しているのなら、私には知る権利がある。そうでしょう? サリー」
レイモンドがレイモンドが何かしようと考えていて、それで私の色をそれに合わせたいというのかもしれない。
なら私も知っておかないと。
私の言葉にサリーがグッと表情を歪めてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……わかりました。……王太子妃殿下、王太子殿下は……今夜、聖女アリサ様のエスコートをなさる──と……」
「!!」
レイモンドが──アリサの──?
ドッ、ドッ、ドッ……。
早まる鼓動を押さえつけるように胸元をキュッと掴む。
「レイモンドが……アリサのエスコートを? それは……確か、なの?」
聞いてない。
私……何も。
彼から何も聞いていないわ。
「……はい。アリサ様は黄色を基調としたドレスをお仕立てになり、アクセサリーは青いサファイアをお求めになったと聞いております。付いていたメイドがそれとなくお止め致しましたが、これがいい、と……」
どちらもレイモンドの色……。
あの人、私が王太子妃だって知らないのかしら?
それとも知っていて……?
「レイモンドは……何て?」
「そこまでは……私もメイドの報告で知った程度でしたので……」
「そう……」
何を考えているのかしら、レイモンドは。
わからない。
あの人が何を考えているのか。
何をしているのか。
何も──。
でも────。
「わかったわ。ではなおさら、このままにしてちょうだい」
「妃殿下!?」
侍女たちが声をあげる。
サリーだけは顔色ひとつ変えずじっと私を見た。
「今は私がレイモンドの妻よ。私が彼の色を譲るなんて、そんなのおかしいでしょう?」
私の王太子妃としてのプライドだ。
今までずっと、彼を支えてきたのは私よ。
それは誰にも譲れない、私の誇りだわ。
「……えぇ。私たちは皆、王太子妃殿下──ロザリア様の味方です」
「サリー……」
「そうです!! 【チームロザリア様】は、いつだって妃殿下を思っておりますから!!」
「え、エレナ!? そんなチーム名あったの!?」
知らなかったわ。
でも、何だか心強いわね。
「ありがとう皆。皆がいてくれて、とっても心強いわ」
私が微笑むと侍女たちに笑顔が戻った。
「さぁ!! そうと決まれば、最後の仕上げに取り掛かるわよ!!」
「王太子妃様を、美しくも愛らしい最高の淑女に仕上げましょう!!」
「【ロザリア様を見守り隊】!! ふぁいおー!!」
──あ、あれ?
【チームロザリア】──どこいった?




