光の中から現れた少女
「あら、あれは……」
目の前に見知った顔を見つけて、私はレイモンドの腕をキュッと引いた。
「あぁ、クレンス子爵か。ラウルも一緒だな。挨拶に行くか?」
「えぇ。孤児院のお礼も言いたいもの」
私が頷くと、なんとも言えない表情を浮かべてからレイモンドも頷く。
「クレンス子爵、ラウル、よく来てくれた」
「!! 王太子殿下、妃殿下、本日はお招きいただきありがとうございます」
まさか王太子であるレイモンドが声をかけるとは思っていなかったであろうクレンス子爵が、ビクリと身体を揺らしてから丁寧にお辞儀をする。
何だかとっても優しそうなお顔の方ね。
ラウル様とよく似てらっしゃるわ。
「あぁ。ラウル、いつも孤児院が世話になっているな」
「お久しぶり、ラウル様。孤児院の皆、あなたにとっても感謝しているわ。もちろん私たちも。本当にありがとう」
孤児院の院長からは、『クレンス先生が来てから皆とても楽しそうに勉強できています』と感謝の手紙をいただいている。
ラウル様は子どもたちだけでなく、学びを望むシスターたちにも丁寧に勉強を教えてくれているらしい。
水汲みや草むしりなど仕事の範囲外のことまでやってくれているようで、こんな貴族もいるのかと驚きながらも、皆とても感謝している。
「もったいないお言葉です、殿下、妃殿下。私の方こそ、充実した毎日を送らせていただいて、感謝しております」
メガネの奥で柔らかく細められるラウル様の瞳。
離縁された後の生活でお世話になろうと思っていたけれど、それも必要なくなったわね。
私、なんとかレイモンドとやっていけそうだもの。
このまま未来の家族予定だった子ども達が、健やかに育ってくれるのを私はここで見守っていよう。
あぁでも、時々授業を一緒に受けるくらいはさせてもらえたら嬉しいわね。
私もラウル様の授業は気になるし。
「また子ども達に会いに行かせてね。……レイモンドと一緒に」
そう言って私は、隣の無駄にキラキラした夫を見上げる。
するとサファイア色の瞳が大きくなって、嬉しそうに細められた。
和やかに会話が進みこのまま舞踏会を無事にやり過ごせると感じていた。
その時──。
パァァァァァッ──!!
会場のすぐ外で、眩い光が広がった。
「なんだ!? 襲撃か!?」
「すぐに調べろ!!」
慌ただしくなる会場内。
え……。
今の光……。
ドクン──ドクン──……
鼓動が早くなって、嫌な汗が流れる。
いや……まさか……でも……。
レイモンドが私を守るように肩に手を回して抱きしめてくれる。
せっかく、彼と一緒に歩んでいきたいって……。
レイモンドとの未来を考えていこうとしていたのに……。
なんで今なの?
違って──。
どうか。
私の予想なんて外れて……!!
お願いだから……!!
祈るような思いでその場に待機し、しばらくした後にバタバタと入ってくる騎士達。
その後ろには、両脇を抱えられた黒髪の女の子の姿が──。
「陛下!! 外にこの少女が……!! 伝承にある初代聖女ミレイ様と同じ色の髪、瞳、服装です!!」
「っ!!」
いっそうざわめきが大きくなる会場。
隣をふと見上げれば、少女に釘付けになっている──私の夫の姿。
「──あの……ここ────どこですか?」
あぁ────来てしまった──……。
この物語のヒロインが──……。
現れちゃったぁぁぁぁぁあ(´இ□இ`。)°