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家族に囲まれて


 煌びやかなホールの中央で、レイモンドとファーストダンスを踊る。


「結婚式の後の舞踏会以来か」

「そうね。3ヶ月ぶりだけど、リードの仕方、忘れてないみたいで安心したわ」

「そう言うお前こそ、見事なステップだ」

「お互い仕事ばかりしていたのに、腕は衰えていなくて良かったわね」


 クルクルと回りながら、私たちは会話を楽しむ。

 小さな頃は幾度となく踏まれた足も、今ではどの貴公子のリードよりもスマートなリードをするようになったレイモンド。

 輝く光の中で踊るレイモンドはやっぱり王子様感増し増しで、直視し続けると目が潰れるんじゃないかと思うほどにカッコいい。


 彼と踊る時間は好きだ。

 余計なことを言う人もいない。

 アピールしてくる令嬢もいない。

 視線の中にいるのはただお互いだけ。


 周りの入る隙を与えないダンスの時間だけが、唯一心から楽しめる時間だわ。


「クレンヒルド公爵と奥方も来ているんだろう?」

「えぇ。それにお兄様達も揃っているわ」

 さっき入場の時に見つけて目が合ったけど、皆にっこり笑い返してくれたわ。

 レイモンドと入場する際、大勢の招待客の中で懐かしい家族を見つけて、私はホッと息をついた。


 今日の舞踏会は王位についての発表を行うためのものだろう。

 それ故ほとんど全ての貴族に招待状を出し、それらが一堂に解しているのだから緊張もするわ。


 おかげでいつもよりも視線が突き刺さるし、居心地はあまりよろしくないわね。

 人が多い分自分の娘を売り出す人たちも余念がない。

 常にギラギラとしたし視線をレイモンドに送っているのはさすがに気づいた。


「そうか……。ミハイルとラインハルトも……。なら、これが終わったら2人で挨拶に行くぞ。で、たまにはゆっくり話せ」

「いいの?」

「あぁ。俺はその間、他の奴らに挨拶してくるから」


 お父様とお母様とゆっくり話をするなんて久しぶりだわ。

 ミハイル兄様だってそう。


 でも──。


「いいえ。私、あなたについているわ」

「は? いや、でも……」


 どうせ面倒な人達の相手は自分1人で終わらそうとしているんでしょうけれど、私が隣にいないとなると、余計にそんな人たちが調子付きそうだもの。

 それに、レイモンドが他の令嬢を褒めるのを見るのは嫌だけれど、自分のいないところでそれをされるのはもっと嫌だ。


「いいの。それよりも、夫婦仲のいいところを見せておいた方が、後々のためにもなるでしょう?」

「……あぁ、まぁ……そう、だな」

 本当は私がレイモンドを離したくないだけだけど。


 ファーストダンスが終わって、招待客と挨拶を交わしていく。


「殿下、王太子妃殿下、お招きいただき感謝いたします」

 お父様、お母様、ミハイル兄様だわ。

 ミハイル兄様の隣にいる長身の美女はミハイル兄様の婚約者のベルへミーナ・ラング伯爵令嬢。

 来月結婚する予定で、一年前から公爵家で花嫁修行として一緒に暮らしていて、私とも仲良くしてくれる素敵なお義姉さまだ。


「あぁ、よく来てくれた。俺と公爵とミハイルは仕事で顔を合わせることもあるが、ロザリアは久しぶりだろう?」

「えぇ。お父様、お母様、ミハイル兄様、ベル義姉様、お久しぶりです」

「お元気そうで何よりです、妃殿下」


 穏やかに細められる父の目。

 少し見ない間に皺が増えたかしら?

 まぁそれでもうちのお父様は最高にイケメンだけれども。


「身体を壊したりしていませんか? 大変な目にあったりは──」

「これライア」

「あ、あら、ごめんなさい、つい……」

 お互いの立場上、少し距離を感じる話し方だけれどお母様が心配してくれているのはよくわかる。

 いつもはお父様が心配ばかりして、諌めるのはお母様なのに、なんだかおかしい。

 でも、離れていても私のこと、思ってくれてるのよね。


「ありがとうございます、お母様。おかげさまで、毎日充実した日々を送らせていただいています」

 仕事も多いけど、レイモンドと一緒に一つの仕事をやり遂げた時なんかは言いようのない達成感に包まれる。

 思わず淑女ということを忘れてハイタッチしたくなるほどには、ね。


 あれ?

 これって夫婦?

 いやいや、パートナーよね、ビジネスパートナー。

 夫婦らしくなくても、良い関係が築けてはいる……はずだわ。


「そう……よかった……」

 ほっと胸を撫で下ろすお母様。

「妃殿下、またいつでも、何かあれば、いや、なくとも、手紙を送ってきてくださいね」

 なくても!?

 ミハイル兄様、笑顔が爽やかなだけで圧がダダ漏れです。


「え、えぇ、必ず。ベル義姉様、来月の結婚式、とても楽しみにしていますね」

「ありがとうございます、妃殿下。私も、また妃殿下に会えるのを楽しみにしていますわ」

 またゆっくりベル義姉様とお茶会を楽しんだりしたいけれど、残念ながらしばらくは執務優先だから難しそうね。


「おっ、皆集まってたんだ」

 私たちが談笑していると、私の後ろの方からライン兄様がにこやかに歩いてきた。

「ライン兄様」

 完成した総合治療院で働き始めたライン兄様。

 患者さんの評判も良くて、私の耳にもその活躍はよく届いている。


「ラインハルト、来てくれて嬉しいよ」

「俺の方こそ、可愛い妹の姿を見ることができてよかったですよ殿下。目的も達成したことだし帰ろうかな」


 ギリギリと固い(固すぎる)握手を交わしながら、2人は()()()()()睨み合う。

 こんな場所でもライン兄様はライン兄様で、少し安心する。


「まぁ待て、そろそろ陛下が──」

 レイモンドが言いかけたところで、玉座に座っていた陛下が立ち上がり、会場いっぱいにラッパの音が響き渡った。

 噂をすれば……ついに陛下の話がはじまるようね。


「皆、今日は集まってくれて感謝する。楽しんでくれているかな?」

 レイモンドと同じ色の目がぐるりと会場を見渡す。

 陛下は本当に、レイモンドそっくりよね。

 いや、レイモンドが陛下そっくりなのか。

 レイモンドももっと歳を重ねたら、こんな威厳に満ち溢れた殿方になるのかしら?


 ……うん、想像できないわ。


「今日このような場を設けたのは、重大な発表があるからだということは皆気づいておるだろう。心の準備はできているであろうから、このまま発表させてほしい」


 しん──、と静まり返る会場ホール。

 そして陛下はゆっくりと口を開いた。


「私は、今年の聖星(せいせい)の日を(もっ)って、退位することにした──!!」



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