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舞踏会という名の戦場へ


 今日は王家主催の舞踏会が開催される。


 結婚して初めての舞踏会。

 それはなんらかの重大な発表があると捉えるのが一般的で、貴族達は皆ここのところソワソワと落ち着かない。

 そして私は、数日前から緊張が絶えず胃薬が手放せなくなっていた。


 王妃様と一緒に招待客リストの整理や食事の打ち合わせをしたり、会場の飾りを考えたりするのは楽しかったのだけれど、私は元々舞踏会などの夜会が好きじゃない。



 蘇る夜会での記憶──。


 いつもよりも綺麗に着飾ったドレス姿に対してレイモンドには、

「そんなに肩を出して……。聖女様みたいに清楚な格好はできんのか(絶対に他のやつにロザリアの肌を見せたくない!!)」

 とか言われるし。


 私が少し外している間に、レイモンドは他の令嬢に囲まれてヘラヘラとにこやかに談笑してるし。


 どこぞかの貴族のおっさん達はしれっと自分の娘を側妃にしようとアピールしてくるし。


 しかも私が色々と言われてても、レイモンドはにこやかに話を聞いて

「御令嬢のような可愛らしい方と俺では釣り合わんからな(俺に釣り合うのは可愛いどころか超絶可愛らしく美しく優しく頼りになるロザリアしかいない!! とっとと失せろ!!)」

 って、相手を褒めていつの間にか話を終わらせる。


 それが彼なりの穏便な収め方だとしてもやっぱり聞いていて気分のいいものではないわ。

 そしてそんな誰にでも優しい態度が、そう言う人たちに「やはりロザリア嬢では満足されていないようだ」って思わせているのを、きっとレイモンドは知らないんだろう。



「ね、ねぇゼル、どうかしら? 変じゃ……ない?」

 今度こそレイモンドにあんなふうに言われないように、念入りにチェックしなきゃ。

 それこそ文句のつけようがないほどに。

 あぁ……胃が痛いわ。


「大丈夫です、王太子妃殿下。……いつも通り、とてもお美しい」

 うぅっ……ゼルだけだわ!!

 私の癒しは……!!

「ゼル……!! あなただけはいつまでも私の癒しでいてね……!!」

「? は、はぁ……」


 何かあったらゼルに後で慰めてもらいましょう。

 昔から、無表情だけどなんだかんだと甘やかしてくれるゼルは私の唯一の癒しだ。


 コンコン──。


 準備が完了して後はレイモンドが迎えにくるのを待つだけ、と言うところで、タイミング良く扉を叩く音が響き渡った。

「ロザリア? 入ってもいいか?」

 レイモンドの声だわ。

 はぁ……いよいよね。


「えぇ、入って良いわよ」

 私が返事をすると、カチャリと音を立てて大きな扉が開かれた。


「っ!!」

「!!」


 レイモンドのキラキラ感がすごい……!!

 こんな美しい造形をした人が、一時(いっとき)とはいえ私の夫だなんて……。

 思わず神に感謝したくなるほどだわ。


 相変わらず、舞踏会の時のレイモンドは一際キラキラしてる。

 私なんかがこの外面完璧王子の隣に立っていて良いのかしら、とも思わせられる。

 あぁ、目に毒だわ。


「……」

「……」

 お互いがお互いに見入った状態でしばらく動けないでいた私達。

 だんだんと冷静になってきた頭でレイモンドをあらためて見る。

 あれ? な、なんだかものすごく見られてる!?

 微動だにせずに、ただただ私をぼーっと見つめるレイモンド。


 何!?

 やっぱり変だった!?

 なんなの……?

 何か言ってーーーーっ!!


「レイモンド?」

「はっ!! あ、あー……っと……、ふ、ふんっ。今日もそんなに肩を出して、たまにはお前も聖──」

「ゴフンゴフンゴフンッ!!」

 レイモンドの言葉の途中で、彼の背後に控えていたランガルが大きく咳払いをして、ハッとしたレイモンドが何故か一度大きく深呼吸をして、あらためて口を開いた。


「そ……その………………。すごく、良いと思う。その格好」

「へ?」


 聞き間違い?

 褒めたの? この人。


 絶対「たまには聖女様みたいな清楚なイブニングドレスを選べ」って言われると思っていたのに。

 ていうか、前までならきっと、そう言っていたわね。

 一体どういう風の吹き回しなのかしら。

 ……でも……嘘でも嬉しい。


「ありがとう、レイモンド。……れ、レイモンドも、とても素敵よ。その……王子様みたい」

 私ったら何言ってんの!?

 一応王子よ!?

 正真正銘本物の!!


 私がぎこちなく微笑みながら、当たり前のことを思ったままに口走ると、「うぐっ」と変な声をあげて、口元を手で覆って蹲るレイモンド。

 ……何やってんの、この男。


「あ、あぁ……。ありがとう」

 私のおかしな発言に頬を赤くしながら返すレイモンドは、やっぱりおかしい。


「殿下ぁ、妃殿下呼びに来たんでしょー? そろそろ行かなきゃ遅刻するっすよー」

 割って入った呆れたようなランガルの声に、レイモンドは我に帰ったように瞬きをして、私に向かって手を差し出した。


「ロザリア、行こうか」


 突然にスイッチが入ってしゃんとしたレイモンドに、私の意識も現実にかえり、「えぇ」と返事をしてから差し出された彼の手に自分のそれを重ねた。


 行きましょう。


 戦場へ──!!


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