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俺が彼女を好きになった日〜Sideレイモンド〜

待っててくれてありがとうございますぅぅぅっ!!!



「はぁ〜〜〜〜……。俺の妻が可愛すぎて辛いっ!!」


「それ前にも聞きました殿下」


 くそ、ランガルめ。

 俺の脳内のロザリアに混ざるな。

 ロザリアが減る……!!


「でも、さっきの殿下、すごいよかったっすよ。自然に乙女心鷲掴みにしてる感!! と言うより、最近の殿下、良いんじゃないっすか? 王太子妃殿下相手でも嫌味で返すことがないし、聖女様の話、ちゃんと封印してるし!!」


「そう、なのか? 自分では特に聖女様の話を封印することを意識しているだけで、あとは何をしているつもりもないんだが……」


「無意識っすか……。やっぱり1番は聖女様が原因か……」


「だが、それだけであんなロザリアの可愛い姿を拝めたんだ。見たか? あの頬を染めて上目遣いで俺にクッキーを食べさせて……あぁいや、お前は見るな、ロザリアが汚れる」


「あんたなぁ……」


 それにしても──。

 あいつ、俺の好きなもの覚えてたのか。


 ロザリアが作ったクッキー。


 小さい頃、よく作ってくれたんだよな。

 サクッと砕けてホロッととろける、優しい甘みの中にほんのりと効いた塩み。

「あの頃と何一つ変わらないな」

「あの頃?」


「あぁ……。まだロザリアと出会う前、俺は連日同年代の子どもを集めたお茶会に出席させられていたんだ」

「お茶会、すか?」

「あぁ。連日のお茶会に、媚びるしかない奴らの相手。その時の俺は、それはもう、うんざりしていたんだ。だから、ある日こっそり抜け出した」

「うわっ!! 護衛騎士泣かせのやつじゃないすか!!」

 うっ……。

 それを言われると罪悪感しかないが……。


「ま、まぁ、その時な、ちょうど仕事の都合で登城したクレンヒルド公爵について、ロザリアが来てたんだよ。んで、隅の方で膝を抱えてる俺を見つけた」


 可愛らしい大きくてまんまるの目は今も鮮明に覚えてる。

 だけど茂みから現れたまだ4歳の彼女は、俺にはただただ(大人)が送り込んだ刺客のようにしか思えなかった。


「王太子妃殿下お一人だったんすか?」

「あぁ、迷子でな」

「迷子!?」

「クレンヒルド公爵の仕事が終わるまで、別室で待っている予定だったのを、一瞬の隙をついて抜け出したんだと」

「わぁ……やんちゃだったんすね、王太子妃殿下」


 しっかりもので完璧な淑女であるロザリアだが、昔は天真爛漫でおてんばだったからな。

 今の姿からは想像もつかんだろう。

 それでもどこか俺とは一線を引いているようで、それが余計に興味を沸かせた。


「庭の隅っこで、2人で座り込んでな。しばらく2人で話し込んだ」


 忘れもしない。

 俺の第一声は『お前、あいつらの刺客か?』だ。

 我ながらひねくれたガキだったと思う。

 だけどあいつは『そうぞういじょうにひねくれてますね、でんか』って、大人びた口調で言ったんだ。

 でもそれで、俺の警戒心は無くなったも同然だった。


「気づけば俺はあいつに、まだ4歳の幼女に、弱音や愚痴を吐いていた」

「わぁ……ヘタレ」

「うっさいわ。……んで、聞き終わってからな、持ってた包みからクッキーを一つ取り出して、俺の口の中に突っ込んだんだ」


 今も鮮明に思い出される。

 それはもう思い切り奥までつっこまれて死ぬかと思った。




『ゴフッ!! むぐっ、むぐぐっ(お前、何をっ)……!! ……ん……これは……美味しい……!!』


『つかれたからだには、【あまいもの】と、てきどな【しおみ】が良いんですよ。おつかれさまです、でんか』




 お茶会に招待されている他の子供よりも小さな女の子なのに、他の誰よりも大人びたロザリアから、思わず目が離せなくなった。


「可愛い初恋だったんすね」

「あぁ。それからだな。ロザリアを遊びに誘うようになって、元々俺の幼馴染でもあったゼルがロザリアとも親しい幼馴染だってことを知って、3人でよく遊ぶようになった」


 ロザリアは大人っぽいゼルに懐いていて、俺はよく嫉妬してたんだよな。

「その頃は普通に遊べてたんすか? 拗らせることなく?」

 こいつ、ズケズケと……。


「ま、まぁ今よりは……。元からあまり女性と話すのは得意じゃなかったから、愛想良くはできなかったが……。だんだんロザリアを意識していくうちに拗れ始めた、って感じだな」


 だんだん愛らしさと美しさを増してくるロザリアが悪い。

 結婚してからもその魅力は増す一方だし。

 毎日俺の理性は試されている。


「殿下、思春期男子っすね」

「うるさい」

 俺がランガルをジロリと睨みつけた刹那、

 コンコンコン──「ゼル・スチュリアスです」

 ノック音とともに聞き慣れた男の声が執務室に入り込んだ。


 ゼル?

 ロザリアも一緒か?

 俺はすぐにだらけ切っていた姿勢を正し、「入れ」と入室を促した。


「失礼します」

 カッチリとした動作で丁寧にドアを開け入ってきたゼル。

 ん? ゼル1人か?

「どうした? ロザリアに何かあったのか?」

 悔しいがいつも一緒にいるであろうロザリアがいないことに疑問を抱き、それを彼女の護衛騎士であるゼルにぶつける。


「いえ、何も。妃殿下は今、今度開かれる舞踏会のドレスの最終確認を行っておいでです。その間に、殿下に申し上げたいことがあり、やってまいりました」

「申し上げたいこと?」


 こいつが独断で俺のところに来るなんて珍しい。

 よほどのことでもあったか。


「はい。【タヌキ】どもに動きがあります」

「!!」


 【タヌキ】。

 俺に自分の娘を娶らせようと目論むオヤジどものことだ。

 結婚前は会えばすぐに言い合いに発展していた俺とロザリア。

 大多数は「喧嘩するほど仲がいい」と言っていたものの、それを微笑ましく見ていてはくれないものも確かにいて、チャンスだと取るものもいる。

 だから俺は、そいつらの動向を常に気にしていた。


 まったく……。

 俺にはロザリアしか興味がないんだから、諦めればいいものを。


「で? 奴ら何て?」

「それが……妃殿下の懐妊がまだだ。やはり仲はうまくいっていないようだ。ならば他の令嬢を当てがうしかない、と」


 は?


 かい……にん?


「かいにん……って……」

「殿下、妊娠のことっすよ」


 バコンッ──!! 「わかっとるわ!!」

「ってぇ〜〜〜っ!!」

 俺は持っていた分厚い本で隣の護衛騎士の側頭部を殴った。


 ったくこいつは……。

 でも懐妊って、まだ結婚して3ヶ月だぞ!?

 気が早すぎだろ!!


「そんなすぐできるわけないだろう。一年も待てんのか奴らは」


 まぁ、初夜すらしてない俺たちにできるわけがないのだが……。

 あぁ……なんか虚しくなってきた。

 あの日の俺の馬鹿野郎。

 なんで我慢したんだ。


「まぁ、回数の問題もあるっすからねぇ。あと殿下の身体が持つかどうかとか」

 バコンッ──!!

「ってぇ〜〜〜〜〜っ!!」

「枯れてないわ!!」

 俺を年寄り扱いするな。

 この護衛騎士、本気で解雇してやろうか……。


「はぁ……ランガル、話が進まない。少し黙っていろ」

 呆れたようにランガルを諌め鋭い視線を突き刺すゼル。

 よしゼル。

 やっぱりお前しかいない。

 戻ってきてくれ。


「殿下、何はともあれ、お気をつけを。食べ物、飲み物、人間、あらゆるものにご注意ください。媚薬など仕込まれ、女性をあてがわれでもしたら大変なことになりますので」


 たとえ仕込まれたとしても他の女には興味はない!!

 が、注意はしておいた方が良さそうだな。


「あぁ、わかった。わざわざすまないな」

「いえ。妃殿下のためですので」


 うっ。

 そうだこいつ、俺と同じでロザリア命だったわ。


「では、要件はそれだけですので、私は妃殿下の護衛に戻ります」

「あぁ、ロザリアをよろしく頼む」


 ゼルは流れるように綺麗な動作で一礼をしてから、俺の部屋の扉を開けた。

 こういう丁寧さを俺はランガルに求む!!


 だが部屋から出る前に、ゼルは一度だけ俺を見て一言こう言った。


「あの方を悲しませでもしたら、わかっていますね? レイモンド」


「っ!!」


 鋭い視線が今度は俺に突き刺さる。

「失礼いたしました」

 そう言ってゼルは、また静かに部屋の扉を閉め、ロザリアの元へと帰っていった。



『レイモンド』

 あいつに名前で呼ばれたのは子どもの頃以来だ。

 あれは……本気で釘をさしてるな。


 悲しませでもしたら……か。


 いや、絶対に悲しませはしない。


 ロザリアは、俺が幸せにする!!



動き始める2人の物語……!!

ゼルがとても人気なようで景華、嬉しい(^-^)

がんばれレイモンド。

負けるなレイモンド。

ヘタレだレイモンド。

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