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ぎゅーとかチューとかしたいんだ〜SIDEレイモンド〜


 新婚旅行は俺の思い描いていたような甘い新婚旅行にはならなかったが、なんとか無事終えることができた。


 本当は、聖女様と王族のプロポーズ伝説にあやかって、俺もロザリアにプロポーズをするつもりだった。

 何せ、俺とロザリアは、俺が望んだとはいえ形としては政略結婚だからな。

 婚約も紙切れ一枚、結婚も予定通りの日に紙切れ一枚にサインをし、神の前で愛を誓ったのみだ。

 それも決められた言葉だしな。

 しかも俺ときたら、ロザリアが綺麗すぎて結婚式もろくにあいつと話をしていない。

 プロポーズとか、好きだの一言すら、俺は言ったことがない。

 だから、あの場所で仕切り直したかったんだ。


 同じ王族なのに、聖女様にプロポーズする猶予が与えられた王族が羨ましい。

 いや、俺がぐずぐずしていたから悪いんだろうけどさ。

 プロポーズを受けてもらえた王族は、さぞ幸せだったろうな。


『──俺も、そんな気持ち味わってみたかった。同じ王族なのにな……』


 そう呟いたあたりで、ロザリアの雰囲気が明らかに変わった。

 一瞬見えた絶望の色に戸惑っているうちに、ロザリアはゼルと帰ってしまうし。

 俺はまた、何かを間違えたんだろうか。

 考えてもわからないまま、翌日にはスチュリアス公爵家を後にした。


 帰りに寄った塔の上では、思ったような言葉はなかなか伝えられなかったが、なんとか花は受け取ってもらえた。

 ロザリアが好きな【ロザリアの花】。


 本当は好きだとか愛しているとか言いたかったんだが……あいつの顔を見てたら無理だった。

 まぁ、それはまた次の機会に言うとしよう。

 夫婦になった俺たちには、まだまだ時間はたくさんあるんだ。

 焦る必要はない。

 

 ……にしても……。

 さっきのロザリアは何だ。

 可愛すぎか。

 ぬるんとした圧強めの顔のロザリアもまた良い……!!


「なぁランガル」

「はい?」

「俺の妻が可愛すぎるんだが、どうすればいい?」

「はぁ? そんなん、ぎゅーってしてチューってしたら──」


 ガタガタガタンッ!!


「ちょ、殿下!? 大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ、大丈夫だ。問題ない。俺には少し刺激が強すぎただけで……」


 ロザリアにぎゅーとかチューとかするのを想像して椅子から滑り落ちる俺を残念なもの見るような顔で見るランガル。

 こいつは俺の護衛騎士で、いつも飄々としているが意外に真面目で口の固いやつだ。

 故に、俺は何度も恋愛相談に乗ってもらっている。


「ま、まさかまだギューもチューもしてない……とか言いませんよね?」

「うぐっ」

 

 返す言葉がない。

 じっとりとした視線が痛い。

 だがその沈黙を肯定ととったランガルは、ますます目元をじとっと細めた。

「殿下、それだけ顔が整ってて女の扱いも知らんて……今まで何してたんですか?」

「何もしてないわ!! ロザリア以外なんか興味がない!!」


 俺の顔は女性にウケが良い。

 だからか、ロザリアという婚約者がいるにも関わらず言い寄ってくる身の程知らずも多い。

 が、可愛い婚約者がいるのに他の女に応えるわけにはいかない。

 というか、俺が嫌だ。

 ロザリア以外に触れられること自体、ものすごく嫌だ。

 だからいつも適当に話相手をしつつあしらってきた。


「好きだとかも伝えてないんすよね?」

「うぐぐっ……」

 言えたらここまでこじれてない。

「はぁ〜……殿下、そろそろ妃殿下に愛想尽かされますよ」

「な、なぜだ!?」

 ロザリアに愛想尽かされたら俺はどうやって生きていけば良いんだ。


「新婚旅行とは名ばかりの聖女聖地巡礼ツアー、酷かったっすからねぇ……。いや〜……引いたわ〜……」

 やめろそんな目で見るな。

 裏表がなく歯に衣きせぬ物言いが気やすくていいが、時々俺の心を抉りにかかるの本当にやめてほしい。


「もうまず行き場所のチョイスからアレっすからねぇ……。しかも土産に聖女のタオルやピローケース勧めるって……。自分の男が他の女の顔がプリントされた枕で寝るとか、何の拷問っすか」

「うっ……ろ、ロザリアが可愛すぎて、聖女様関連の会話しかできんのだ!!」

 あぁ、言ってしまった。


「────は?」


 くそ、こいつ護衛騎士のくせに俺を小馬鹿にして……。


「俺だって本当は、新婚らしくイチャイチャしたり、ロザリアをベッタベタに甘やかしたりしたいさ……。でも、いざとなったら聖女様の話題しか出て来んのだぁぁっ!!」


 頭を抱えて執務机に突っ伏す。

 あれだ。

 多分俺は呪われてるんだ。

 愛するものに愛を囁こうとすると、聖女様の話題しか出せなくなる呪いだ。

 そうだ、きっとそうに違いない。

 突っ伏した先に積み重なったピンクの本が目に映る。

 これでラブラブ新婚夫婦を学んでおけと言っていたな。

 どれ、少し読んでみるか。


 俺は1番上の一冊を手に取ると、パラパラと適当にページを(めく)る。


「…………!?!?!?」

 あまりの衝撃に思わず机の上にバサリと本を伏せてしまった。


「なん……だと……!?」

「どうしたんすか?」

「こ、これをロザリアにすると言うのか!?」

 ハードル高すぎるだろう!?

 世の新婚夫婦とはこんな……こんなことをしているというのか!?

 雷に打たれたような衝撃とはまさにこのことだ。


「ん? どれどれ? ……って……いや、こんなん普通でしょう。今時普通の恋人同士でもしますよ、バックハグなんて」

「な……な、な……!?」


 こんな大胆なことを……恋人関係中にすると言うのか!?

 俺なんて婚約中も結婚してからもエスコートの時の手ぐらいしか握ったことがないぞ!!

 結婚式も口づけすらしていないし……。

 あぁ……、口付けぐらいしておけばよかった。

 ていうかめちゃくちゃしたかった。


「俺に……できるのだろうか……。こんな高度な技……」

 不安だ。

 でもやらねば。

 ロザリアの兄は──正直苦手だ。

 良い思い出が無い。


 奴ら、ロザリアがいる場では普通に接してくるが、ロザリアがいない場では俺に対してものすごい辛辣(しんらつ)だ。


 特に2番目の兄、俺の一つ上のラインハルトはヤバい。

 あいつはロザリアが居ようが居まいが関係なく辛辣だ。

 しかも何故か俺を親の(かたき)(ごと)くイジメ倒してくるからな……。

 まぁ……ロザリアのこと溺愛してたもんな、あいつ。

 結婚式にもくることなく、ロザリアの花束のみが送られてきた。

 ラインハルトが安心して俺にロザリアを任せられるように、俺も頑張らないとな。


「殿下、できるかどうかじゃない。やるんすよ。もう何なら演じましょ!! この本の男性をね!!」


 演じる……?

 はっ……!!

 そうか……!!


「それだ!! それならロザリア相手でも口説くことができる!! よし!! そうと決まれば、読むぞぉぉぉぉ!!」


 俺はそれから夜までの間、無心になって恋愛小説を読み漁ったのだった。



レイモンドのヘタレ感……笑

次回からヘタレイモンドの攻めが続きます!!

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