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恋したその日

皆様応援ありがとうございますっ!!


 ラス湖の辺りでピクニックをし、昼食を木陰でいただいた私たちは、街の中心にある古びた教会へと足を運んだ。


 傷みが激しく歴史を感じる大きな木の扉に、美しい色とりどりのガラスが嵌め込まれた窓。

 公爵領の教会でありながら、とてもこぢんまりとしている。

 スチュリアス公爵家は聖女が現れ保護したことで公爵位を賜った家だ。

 その前は伯爵家だったらしい。

 その伯爵領だった時からの小さな教会をそのまま使っているのは、(ひとえ)に聖女への敬意によるものなのでしょうね。

 スチュリアス公爵家は信心深く忠義に熱いお家だから。


「王太子殿下、王太子妃殿下、お待ちしておりました。ごゆっくり、お祈りくださいませ」

「あぁ、ありがとう」


 神父様と短く言葉を交わした私たちは、教会奥、女性の像の前へと足を進めた。


 ──聖女ミレイ像。


 真っ直ぐに切り揃えられた前髪に、クリっとした明るい雰囲気を醸し出す大きな目。

 他の教会にあるような、穏やかに微笑むどこか人間離れした美しさを持つ女神像とは違って、愛らしい大輪の花のような笑顔を浮かべている。

 どれも私とは違うものばかり。


 それを嬉しそうに見上げるレイモンドの顔。

 ……さぁ、こんなことさっさと終わらせて出ちゃいましょう!!

 『こんなこと』といってはバチが当たってしまいそうだけれど。


 私は跪き、目を瞑って手を組み、聖女ミレイ像に向かって祈りを捧げる。


“どうか、私からレイモンドをこれ以上とっていかないで──!!”


 そんな思いをついぽろりと心に漏らす。

 聖女が現れようと現れまいと、私たちは変わることはないんだろうけれど……。

 できることなら、ずっと妻として、彼のそばにいたいと思ってしまう。

 仮初でもいい。

 仕事のパートナーでもいいから。

 名目上だけでも妻として、彼のそばにいたい。


 祈りという名の懇願を終えて目を開けると、レイモンドはすでに祈り終えて私を見ていた。


「……終わったか?」

「えぇ」

「あー……何を、祈ってたんだ? とても真剣に祈っていたようだが」

 私、そんなに真剣な顔をしていたのかしら?

 いやそれよりも見られていたっていうことがすごく恥ずかしいんですけど!!


「あ、あなたこそ何を?」

「俺は……」

 少しだけ言い淀んでからレイモンドは、「聖女様の地に来ることができた幸せをお伝えしていた」と聖女像を見上げて言った。


 うん。

 ……聞いた私が馬鹿だったわ。




 祈りを終えた私たちは、すぐ近くのアクセルの通りに買い物に来た。


「ここも変わらんな」

「そうね。ゼルも一緒にいると、あの頃に戻ったみたいね」


 私たちはよく3人でここらを散歩したから。

 まだレイモンドと婚約する前、坂道が多いこのアクセルの通りで私が転けたことがあった。

 ゼルがすぐに助け起こしてくれて、レイモンドがおんぶしてくれたのよね。

 いつもぶっきらぼうな言い方ばかりで優しくないレイモンドが、自分から「ロザリアは俺が背負う」って言ってくれて……。


 王子なのに。

 そんなこと、護衛に任せればいいのに。

 なのに彼は、馬車まで私をずっとおんぶしてくれた。

 時々「大丈夫か?」「痛くないか?」って気遣いながら。

 暖かい背中の熱を感じながら、馬車までずっと私は恥ずかしくてレイモンドの背中に顔を埋めてたのよね。


 あの時だ。

 私が、この人のことが好きだ、って思ったのは。

 あれがなければ、レイモンドを目で追い始めることもなかったし、追わなければ彼のいろんな顔を知ることもなかった。

 アレがなければ、もっと好きになんて、ならなかったのに。

 なんであの時、私を背負ったのよ。


 レイモンドのバカ。


 周辺の店を見て、陛下と王妃様にお土産のお酒と可愛い小物入れを買った後、やっぱり訪れたのは聖女ショップ。

 ここでまた聖女グッズなんか私に買ってみなさい。

 一発張り手をお見舞いしてやるんだから!!


「おぉ!! 聖女様の似顔絵付きのバスタオルが新発売されている!! これバスルームに──」

「置きません」

「こっちは聖女様の顔のピローケースがあるぞ!! これ寝室の枕に──」

「かぶせませんから絶対に!!」


 なんなのこれ拷問!?


 なんで恋敵の顔のタオルで身体を拭き、恋敵の顔の枕で寝なくちゃいけないのよ!?

 ていうかそんなもの使ってるレイモンドとか見たくないわ!!


 はぁ……なんだか疲れた。


「よし!! じゃぁこの聖女まんじゅうにするか!! 部下たちの土産だ」

 どうやら何にするか決まったらしい。

 あれ? 自分には買わないのね。

 そのことに少しだけホッとする。


「おっ、そろそろタルタの丘に行こうか。夕日の時間だ」

「えぇ、そうね」


 そして私たちは馬車に乗り込み、最後の目的地タルタの丘へと向かった。


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