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私、前世で何か悪いことでもしたんでしょうか?


「ここが新しく建て替え中の総合治療院だ」

「まぁ……大きい……!!」

 施設はもうほぼ出来上がっている状態で、真っ白い大きな外観が存在を主張している。


「そう言えば、病院の名前はもう決まっているの?」

 私が何の気無しにたずねると、レイモンドは目をキランと光らせてから自信満々にその名を口にした。


「【聖ミレイ総合治療院】だ!!」


 あー……。

 ミレイ。

 初代聖女の名前にしたわけね。

 聞かなきゃよかった。


 流石に内部はまだ作り途中なので施設内は入れないけれど、40代後半ほどの男性施設長が私たちを迎えてくれた。


「責任者のガーナです。ようこそお越しくださいました。王太子殿下、王太子妃殿下」

 彼自身も医師であり、専門は脳外科だと聞いている。


 様々な分野の医師を1箇所に集めた総合治療院は、初代聖女の考えたアイデアで、前までは3種類の分野を合わせた総合治療院だったそう。

 だけど建物の老朽化に伴い、取り扱い分野を広くした上で建て直してほしいという要望がレイモンドの元へ届いてから、速攻で大規模建て替えに発展したのよね。


「医師は集まったか?」

「えぇ、あらかた。聖女様が創られた総合治療院は医師としても憧れの場ですし、皆すぐに了承してくれました」


 この地に現れた初代聖女は、街に1つしか治療院がないことや、分野によっては他の街まで行かなければ治療が受けられないという現状を知って、自分の世界にあった総合的な治療院を作るように各方面に掛け合ったらしい。


 その聖女の世界では、様々な分野の医師を1箇所の施設に配置して、その中ですべての治療が事足りるようになるという。

 これができてから、いろんな分野の病院を探し転々としなければならない人が大幅に減った。

 って……、今までどうも思っていなかったけれど、初代聖女ミレイってきっと前世の私と同じ日本人よね。

 総合治療院は前世での総合病院を元に作られたんだわ、きっと。

 そして物語で召喚された聖女アリサも日本人。

 何なのこの日本人聖女率。

 なのに何で私は悪役令嬢側なのよ。

 私、前世で何か悪いことでもしたのかしら?


 今回の改装で3種類の分野から大幅に分野を広めた大治療院になる。

 国民にとって夢のような施設だ。

 当然、そこで働けると言うことは名誉なことになるし、断る人間などよっぽどでないといないでしょうね。


「ただ、精神科医のみ、まだ見つからないのです」

「精神科医?」

「えぇ。今受け持っている患者の担当や環境が変わることに慎重なものが多く、今の案件から離れることはできないと……」


 確かに精神科はとても繊細な分野ですものね。

 患者のことを思えば渋るのも仕方がないわ。


「精神科なぁ……誰か知り合いはいたかな?」


 心当たりはある。

 それはもう近くに。

 ──私の2番目の兄だ

 精神科の勉強のため、1人他国に行ったきり、そのまま帰ってこない研究オタク。


 私には2人の兄がいる。


 長男のミハイル兄様と、次男のラインハルト兄様。

 2人とも私をとても大切にしてくれる優しいお兄様たち。

 だけどライン兄様は私たちの結婚式にも現れることなく、ただ一言【幸せに】というメッセージが書かれたカードとともに、私の大好きなロザリアの花束が送られてきたのみだったから、しばらく会えていない。


 公爵家は長男であるミハイル兄様が継ぐから、ライン兄様は奔放に生きているみたい。

 お父様もお母様も「居所がわかってさえいれば問題ない」と放任しているし。


 確か、今は病院で個人の担当にはついていなくて、精神科アドバイザーとして精神科医の相談に乗ってアドバイスをしているって聞いてるけど……。

 声をかけてみる価値はある、かしらね。


 そう思った私はおずおずと右手をあげる。

「あの……私の兄、ラインハルトが精神科医の資格を持っていますの。担当は持っていないのですけれど、精神科医のアドバイザーをしております。兄に少し連絡をとってみましょう」


 連絡がつくかどうかは怪しいけれど、やってみないことには始まらない。

 それに、私もライン兄様と久しぶりに会いたいし。


「あぁ、ラインハルトか。だが結婚式にも来ていなかっただろう? 連絡は取れるのか?」

「えぇ。父母は居所を知っているみたいだから、新婚旅行から帰り次第、手紙を出して頼んでみるわ」

「そうか。ならこの案件はロザリア、頼む」

「わかったわ」


 仕事のことならスムーズに会話が進むのに、なんで普段は喧嘩になってしまうのかしら?

 ずっと仕事だったらいいのに。

 なんて思いながら、一日目の視察はなんとか終わりを迎えた。



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