新婚旅行は聖地巡礼!?
皆様たくさんの応援ありがとうございます!!
ついにこの日が来てしまった。
あれから向こうも何を言ってくることもなく、私たちは新婚旅行の日を迎えてしまった。
馬車の中から景色を覗くと、そこには緑豊かな大草原が一面に広がっている。
大草原の中の一本道。
寒い季節には雪が緑を覆い尽くし、真っ白な道と化す。
そして今よりも少し涼しく暖かい季節には、小さな黄色い花々が顔を出す。
その季節に来てもその季節ごとに違う顔を見せてくれるこの一本道を通るのも、もう何度目になるのかしら。
どうせなら、一人でここを通りたかったわ。
馬車、別々にして貰えばよかった……。
だって──。
「見てみろロザリア!! この大草原は──」
「聖女様が倒れていたところを発見された場所──でしょ?」
こいつがうるさいからだ。
聖女伝説が多いこの地へ、聖女を崇拝しているレイモンドと来ることほど苦痛なことはない。
だって聖女のうんちくを延々と聞かされるのよ?
興奮気味に。
何が悲しくて好きな人の好きな人のことを延々と聞かされなきゃならないのよ!?
最初の行き先は、まずはゼルの実家であるスチュリアス公爵家。
数日間お世話になるのだから、まずはご挨拶と、荷物を降ろさせてもらわなければならない。
そのあとは建設中の新しい総合治療院の視察をして、一日は終了。
まぁ、ほぼ仕事みたいなものね。
問題は明日以降よ。
律儀に作ってきたレイモンドお手製の新婚旅行のしおりによれば──。
明日のスケジュール
①ラス湖の辺りでピクニック
②神殿で祈りを捧げる
③街で買い物をする(【アクセルの服屋】付近)
④タルタの丘で夕日を見る
はい、まず最初のラス湖。
ここは聖女が水浴びをした際に水が全て聖水に変わり、聖女が亡くなるまでの間、聖水の湖であり続けたという伝説がある場所ね。
幼い頃、レイモンドに「ロザリア!! お前も入ってみろ!! もしかしたら聖水に変わるかもしれないぞ!!」と言われて、一緒に水浴びに付き合わされたのよね。
そして心底残念そうに「やっぱり聖水にはならんか。まぁ仕方ないか……。お前じゃぁな……」と言われたのは、私の【聖女系遺恨日記】にしっかりと記録されている。
次、神殿で祈り。
祈り、ね?
うん、大事よ。
でもここ、この国で唯一聖女像が飾られていて、そこで祈ることになるのよ?
何で恋敵に祈らなきゃいけないのかしら?
次、三つ目。
街で買い物。
うん、良いわね。
お土産って大事よね。
旅の思い出にもなるし。
でも騙されない。
閑静な通りの【アクセルの服屋】付近にあるのは、聖女グッズ専門店だ。
その昔この地に降り立った聖女の似顔絵やら、聖女が愛用していたアクセサリーの模造品やらが売られているわ。
まぁ、観光客向けのショップよね。
ここでの出来事も私の日記にはしっかりと記録してあるわ。
あの時レイモンドは私に小さな貝のネックレスをプレゼントしてくれた。
それが初めてレイモンドからもらったアクセサリーで、私はとても嬉しかった。
だから、その気持ちを素直に「ありがとう」って伝えたら、レイモンドはふいっと顔を背けたのよ。
そして奴は言った。
「お、お前がつけても、やっぱり聖女様みたいな清楚さと愛らしさは演出できないな!!」
打ちのめされた私はそっとネックレスを鍵付きの引き出しの奥深くにしまったわ。
それ以来一度も手に取っていない。
そして明日の最後の予定。
タルタの丘で夕日を見る、ね。
タルタの丘は、一年中真っ白い花が咲き乱れた、ロマンチックな丘だ。
恋人たちにはとても人気のスポット。
だがしかし!!
ここは聖女に王族がプロポーズした場所でもある。
レイモンドのイチオシの場所よ。
多分ここでも聖女に想いを馳せるんでしょうよ。
──とまぁ、こんな感じね。
……何なのこのしおり。
最初から最後まで全部聖女祭りじゃないの!!
もはや地獄だわ……。
「ロザリア、着いたぞ。スチュリアス公爵家だ」
レイモンドの声で我に返った私は、窓の外を覗き込む。
久しぶりの公爵家の門。
門を潜ると、たくさんの使用人とともに穏やかな笑顔の公爵、公爵夫人が出迎えてくれた。
エントランス前に馬車を停車させて、レイモンドのエスコートで地に降り立つ。
ここも変わらないわね。
「公爵夫妻、出迎えありがとう」
にこやかにレイモンドが声をかける。
「王太子殿下、王太子妃殿下、ようこそ、我がスチュリアス領へ。歓迎いたしますぞ。ゼル、ご苦労だったな」
「おじさま、おばさま。三日間、お世話になりますね」
私もレイモンドに続いてにっこりとお二人に挨拶して、ゼルは無言で自分の父母へ一礼をした。
「ロザリア様、お元気そうで何より。これからいかがなさいますか? 部屋にてお休みになられますか?」
「あぁ、せっかくだがこれから例の総合治療院の視察に行く予定だ。夕食までには帰る。荷物だけ頼めるか?」
「かしこまりました。では、いってらっしゃいませ」
挨拶だけ終わらせた後、私たちは再び馬車へと乗り込むと、荷物を乗せた馬車のみを置いて、総合治療院へとむかった。