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6>>傲慢な男は分からない






 消沈して侯爵家の別邸に帰って来たシンシアを、ベッドに腰掛けて座っていたロメロとそんなロメロの世話をしていた侯爵夫人が迎えた。

 ロメロはシンシアの血の気の失せた顔を見て我慢出来ずに問いかけた。


「……あ、アメリアは何と?」


「っ…………」


 シンシアは何処に出掛けるとはロメロに伝えてはいなかった。しかしロメロはシンシアの態度などを見て察していた。何処に行ったのかも、(かんば)しくない答えを貰ってきただろう事も察していたが、黙っている事はできなかった。


 そんなロメロの視線に耐えきれずにシンシアは全てを話した。


 そしてシンシアの話を聞いたロメロは皮肉げに笑った……


「ハッ、……何が“夢”だ。私が必ず自分を頼ると知っていてわざと遠くへと行ったのだろう。

 私への当て付けだ。

 私が困ると分かっていてやっているに決まっている。

 そんな情の無い女だとは思わなかったっ!」


 憎々しげにそんな事を言ったロメロにシンシアはショックを受けた。何か言おうとしたが何も言葉にできずに一度開いた唇をギュッと閉じた。

 ロメロはそんなシンシアを見て口元を歪める。その顔は、()()()()()悪くないよ、とでも言いたげだった。


 そんなロメロの前に立ち、夫人が口を開いた。


「お前は何故そうも自分本位で傲慢な考えしか出来ないのですか……」


 その夫人の心底冷めきった声色にロメロは驚いて自分の母親を見返す。

 見上げた母の目は恐ろしく暗い色をしていた。


「母様……」


 どうしたんですか? と言いたげなロメロの声に、夫人は到底自分の息子に向ける視線では無い、凍てつく様な目でロメロを見ていた。

 そして、低く強張った声でロメロに問う。


「アメリアは自分の人生を歩き出したのです。

 そこにロメロ(お前)は関係ある筈がありません。

 まだ彼女の中に自分が居るなんておこがましい妄想は止めなさい。


 彼女の手を払い捨てたのはお前自身なのです。お前が今のこの状況を作ったのです。それなのにアメリアを責めるなど逆恨みもいい加減にしなさい。


 お前は……お前は反省する事も出来ないのですか?

 お前の浅はかな選択の所為で皆が悲しんでいるのが分からないのですか?


 どうして……どうしてそんな風に育ってしまったのですか…………」


 最後には涙が抑えられなくなった夫人は泣き崩れ、そんな母をロメロは唖然として見つめた。

 

 弱った自分に手を差し伸べないどころかそんな自分から逃げて遠くへ行ってしまったアメリアが悪いのに、実の母親は何故か自分を責めている。

 自分は()()()()()()()()しまっただけだ。

 ()()()()()()弱った自分を助ける力があるにも関わらず助けようともしないアメリアが酷いに決まってるじゃないか?


 ロメロには母がなんで“弱った自分を(いたわ)らずに”そんな事を言うのか分からなかった。

 

 しかしそんなロメロに母だけでなくシンシアも泣きながら駆け寄り、座っているロメロの膝にすがりつく様に床に膝を突いてロメロに触れた。


「わたくしが……っ、わたくしがいけなかったのです……っ!


 ロメロ様に一目惚れして、婚約者が居られるのにいつか自分にも可能性がある筈だと夢を見て、そして学園でロメロ様とお近付きになれて……あぁ、あの婚約者に勝ったんだって思ってしまってっ!


 本当なら絶対に駄目だったのにロメロ様に近付いて、ロメロ様から優しい笑みを貰える事が嬉しくて……っ、……新しい婚約者になれるんだって浮かれて、何も考えずにロメロ様の側に居てっっ!! お義父様とお義母様の言葉なんて1つも聞かなくてっ!! 

 こんな風になってから後悔して……っ!!

 

 ごめんなさいっ!! ごめんなさいお義母様っ!!


 ごめんなさいロメロ様っ!!


 わたくしが横恋慕しなければ今頃アメリア様がお側にっ!!!」


 シンシアは縋っていたロメロの膝から離れて床に手を突き義母に向かって頭を下げた。


 自分が居なければ、ロメロはアメリアを(うと)んじてはいても婚約を解消しようとは言い出さなかっただろう。

 婚約を解消しなければアメリアは“婚約者として後に妻として”ロメロにその力を使い続けてくれた筈だった。


 ──自分がロメロ様に近付かなければっ!!──


 シンシアは泣いた。

 床に小さく(うずくま)り、震えて泣くシンシアを侯爵夫人はただ涙の止まらない目で見ていた。

 “貴女の所為ではないわ”

 なんて、嘘でも言えそうになかった。

 シンシアを責めるのは違うとは分かっていても、“婚約者の居る令息に近付いて恋仲になった”シンシアに全く非がないとは思えなかった。


 ロメロは、目の前で泣く母と妻を、ただ呆然と見る事しか出来なかった。







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