4>>訪れた幸せな時間と……
アメリアとの婚約が無くなり、晴れて堂々とシンシアと愛し合える様になったロメロは浮かれていた。
直ぐにシンシアと婚約したかったが、婚約解消から直ぐに次の婚約をするのは外聞が悪いと半年の期間を置く事になった。だがそんな事は、学園で3年間愛を育んでいたロメロとシンシアには関係無かった。
もう障害は無いのだ。
ただ時間が経つのを待つだけでいい。そうすれば愛する人と婚約し、結婚出来る。
シンシアは卒業後直ぐに侯爵家に嫁入りできる様に侯爵家を頻繁に訪れギルディエル侯爵夫人と仲良くしようとしていたが、当の夫人はアメリアとの婚約解消から暗い顔をしたままで、シンシア抜きで息子のロメロと一緒に居たがった。
未だに子離れ出来ない姑となる夫人にシンシアは若干うんざりしていたが、それでも家族となり義母となるのだからと愛想笑いで頑張った。
ロメロはアメリアから離れる事が出来て、肩から荷物を下ろした様な解放感を味わっていた。
ネックレスを外しても体に変化は無い。
やはりアメリアの虚言だったのだと怒りを感じたりもした。
だがその怒りもシンシアが癒やしてくれる。心から愛する女性と居られる事がこんなにも癒やされるのかとロメロは幸せを噛み締めていた。
アメリアとの婚約解消から半年が過ぎ、何故か侯爵家との婚約を渋っていたシンシアの父のダゼド伯爵当主からの許しをやっともぎ取った二人は、晴れて婚約した。
“婚約式”を挙げる事をどうしても侯爵が認めてくれなかったので二人の婚約を皆に知らせる事は出来なかったが、どうせ直ぐに婚姻するのだから“婚姻式”を盛大にすればいいと二人は勝手に納得していた。
学園も卒業したロメロとシンシアは、更に親たちを説得して婚約から数ヶ月で婚姻を成立させた。
侯爵家の別邸に二人で住む事になった二人は、次は子供だね、と抱き合って笑った。
そんな幸せ絶頂の中、ロメロは次第に体調不良を口にし始めた。
最初は寝起きのダルさだった。寝ても疲れが取れなくてずっと疲れている気がした。
そしてその内、常に体がダルくなり、なんだか食欲も湧かなくなった。
手の力が弱くなった気がして、何も無い所で躓いた。
呂律が悪くなった頃には流石にロメロは回復魔法や医術機関を頼った。
だがどれも一瞬マシになる程度で回復まではしなかった。
ある時、回復魔法士に言われた。
「前は回復魔法で治った?
ならその回復魔法士に頼んでは? こういうのは相性ってのがあったりするんですよね。相性が悪かったらホント、擦り傷でも治らなかったり、逆に相性が良ければ擦り傷治したのに疲労回復もされたりしたりするんですよ。
きっとその回復魔法士と貴方の相性がすこぶる良かったんでしょうね。逆に貴方はその人以外とは相性が悪いのかも……
私もここまでやってこんなに手応えがないのは初めてですよ……
前に頼んだ回復魔法士の人は死んでしまったんですか? そうじゃないなら頭を下げてでもその人に頼んだ方が良い。
回復魔法や医術があっても死ぬ人は死ぬんです。油断しちゃ駄目ですよ」
そう言われてロメロは奥歯を噛む事しか出来なかった。
今更アメリアにどの面下げて頼めと言うのだ……
そんな恥知らずな事をできるはずもなかった。
しかしそんな意地をはったところで体の不調は治らず。
ロメロはどんどん弱っていき、気力で誤魔化す事すら出来ない程に追い詰められた。
そうなってしまえばもう子作りなどと言っている場合ではない。
シンシアは来たばかりの嫁ぎ先で肩身の狭い思いをしていた。
侯爵家の者は使用人含めて全員がアメリアの事を知っている。
ロメロ本人が嫌がっての婚約解消とはいえ、ロメロがアメリアと婚約中にシンシアがロメロと恋仲になった事が学園の同級生などから外に漏れ、皆が知る事となった。
侯爵家の使用人たちも当家の坊っちゃんが悪いとは理解しつつも、“婚約者がいる令息と深い仲になったシンシア”をよく思う事は出来なかった。
ある者は『シンシアがロメロを唆したのでは?』と猜疑心を持っていた。
『シンシアがロメロを誘惑しなければロメロはアメリアと婚約解消する事はなく、アメリアは婚約者としてロメロをその力で癒やし続け、ロメロは健康で居続けられたのではないか?』
そんな空気が使用人の中にゆっくりと蔓延して行き……徐々にシンシアの居心地は悪くなっていた。
「なんで……?
なんでこんな事になったの……?
ねぇロメロ? やっと結婚出来たのに、わたくしまだウェディングドレスも着てないんだよ?」
「す、……すまなぃ、シンシア……」
そう言うとゲホゲホと咳き込み出したロメロの背中をシンシアは撫でる。
本当なら今頃盛大な婚姻式を挙げている筈だった。
婚約解消からの婚約に、婚姻までの期間の短さを指摘されて、外聞が悪いからと婚姻式自体はそれ相応の期間を経てからと義父である侯爵に言われた。シンシアは自分の父に婚姻式を早めてもらおうと伯爵家から急かしてくれとお願いしたが、何故か父も良い顔はしてくれず、式の準備すらしていない状態でロメロが体調不良になった。
──……こんなの……義父様たちが言っていた通りじゃない…………っ!!──
シンシアは頭にこびり付いて離れないアメリアの顔を思い出していた。
“ロメロをアメリアの力で助けていた”
──あぁ、そんな……っ!!──
シンシアは居ても立っても居られずに侯爵家の別邸を飛び出して馬車に乗り込んだ。
目指すは隣の領地。
アメリアの居るグライド子爵家にっ!!