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11>>自覚の無い迷惑行為






 ミックは珍しくギルディエル侯爵家の本邸にてギルディエル侯爵当主と会っていた。


「最近のロメロは随分と元気になったのだな」


 ギルディエル侯爵のそんな()()にミックは困った様に笑う。


「アメリア様の話をしたら気力が戻った様で。

 起きている時は手紙を書いているか手紙の返事を待っているか、別れた恋人を待ちわびるかの様にアメリア様の事を心待ちにされておりますよ」


 困った様にそう言ったミックにギルディエル侯爵も呆れた様に笑い返した。


「自分で切り捨てた元婚約者を心待ちにするか。

 あいつの記憶の中ではもう彼女に何を言ったのかも覚えていないのかもしれないな」


「……(すが)れるものには(すが)りたくなるのはもう人の本能なのかもしれませんね」


 困った様に言ったミックの言葉に侯爵は呆れた様に溜め息を吐いた。


「その“(すが)る相手”が、自分が傷付けた()()()()なのだから滑稽だ。

 あいつはそれが分かってやっているのか?」


 ギルディエル侯爵の疑問にミックも呆れて肩を落す。


「いや〜、ロメロ様にはそんな考え無いでしょう。

 未だにアメリア様と自分には“繋がり”があると思っておいでですから」


 ミックの言葉にギルディエル侯爵は馬鹿らしそうに鼻で笑った。


「ハッ、不貞をして更に暴言を吐いて切り捨てた元婚約者とどんな繋がりがまだあると言うのだろうな」


 その言葉にミックも困った様に笑う。

 もう呆れて笑うしかないのだ。


「ところで、ロメロ様が震える手で一生懸命書かれたアメリア様宛のお手紙は、ホントに出されてたりするのですか?」


 ミックは軽い気持ちで聞いた。

 答えは勿論。


「出す訳がないだろう。

 どんな恥を外に晒せと言うんだ。


 『ギルディエル侯爵家は追い払った下位貴族の元婚約者に後から悔いて追い(すが)って帰って来てとお願いしている』


 と、他国の教会関係者に知らせるなど、侯爵家の沽券どころか存続にさえ関わるわ。恥知らずにも程がある」


「ですよね〜……」


 ミックは眉尻を下げて笑う。

 一人息子の行動に呆れを通り越して怒りを滲ませるギルディエル侯爵にミックは少しだけ同情した。

 

 ロメロは侯爵家の一人息子だ。嫡男だ。

 本来ならば何を差し置いてもその命を助け、侯爵家の為にその血を残したいと思っただろう。嫡男の血はそれほどに価値がある。

 だから侯爵夫妻はロメロが小さい頃に国中を駆け回ってお金に糸目を付けずに回復魔法士や医術関係に頼ったのだ。全てが無意味だったがそこにアメリアという光が現れた。恥も外聞もなく下位貴族に頭を下げて婚約者になってもらった。そしてそれを()()()()()()()()()()()


 夫妻のミスは、息子可愛さに、二度とツラい目に遭わない様にと『一度も回復魔法を止めなかった事』だ。


 一度でも自分の体の事を自覚する事が出来ていれば、ロメロはアメリアの大切さを理解し手放そうとは思わなかっただろう。

 その点だけは親の落ち度かもしれない。


 しかし、それはロメロ本人が確認できた事だ。

 『アメリアが何をしてくれた?』と疑問に思った時に自らアメリアと話し合って疑問を解決すれば良かったのだ。

 ロメロは自らそれをしなかった。

 そして婚約者がいるのに他の女性と懇意にして不貞行為に走ったのもロメロの意思だ。

 駄目だとあれほど言われていたのにロメロは聞かなかった。


 何度言い聞かせても聞かない者を信用する事はできるのか?

 人の話を聞かない者を人の上に立たせても問題ないのか?

 自分が知らない事に対して暴言を吐く者は本当に悪くはないのか?


 ロメロへの信頼度がマイナスになっても仕方がないだろうと関係者は思うだろう。

 ギルディエル侯爵は家督を必ず嫡男に継がせなければならないなどと思ってはいない。だから既に養子を取った。だがロメロは嫡男というプライドがあるのか未だに自分が侯爵家を継げると思っている。

 体さえ『元に戻れば』、と。

 今がその『元に戻った状態』だというのに。


 ミックは自分が関わってしまった人間関係に内心苦笑する。そして不敬だから表には出さないが、子育ては大変だなぁとギルディエル侯爵に同情するのだった。

 唯一の子を切り捨てるしかなかった父親の心情を……


「君は知ってるかね。

 ロメロの手紙の内容を」


 ギルディエル侯爵の呆れた様な言い方にミックは軽く首を横に振る。


「いえ、流石に知りません」


「我が息子ながら凄いぞ。

 自分が追い出した元婚約者によくこんな手紙が書けるものだと逆に感心するよ。


 自分が今どれだけツライか大変か。アメリアが居ない所為でこんな目にあっている。何故直ぐに帰って来ない。貴族の娘なら貴族の娘として上位の貴族の言葉は聞くものだ。長年親しくしていた婚約者を見捨てるのか。姉と慕っていたのに裏切りだ。謝るから謝罪させてくれ。謝る者を許さないつもりか。回復魔法士になったのなら回復を望む者を助けるべきだ。見捨てるなんて聖職者のすることなのか。助けられる者を助けないなんて人の心はないのか。


 後そうだな、『石を送れ』とも書いていたな」


「石ですか?」


「そうだ。長年ネックレスを通してアメリアの力を受け取っていた事を思い出したのだろう。次はアンクレットが良いと書いていたな」


 そう言ってギルディエル侯爵は皮肉げに笑った。

 ミックは直ぐに見当がついた。


「もしかして……アンクレットだと隠せるから、とかですかね?」


 ミックの答えにギルディエル侯爵は肩を揺らして答える。


「だろうな。とことん自分勝手な考え方だ。アメリア嬢が二度と同じにできないと言った言葉はどうやら本当に覚えていない様だな」


「なんとまぁ…………」


 それは凄いですね……という言葉しかミックは出なかった。


 ロメロはそんな内容の手紙をアメリアが読んで慌てて自分の元に駆けつけてくれると思っているのだ。直ぐに戻れない場合は力を込めたアンクレットを送ってきて遠距離から自分だけの為にアメリアが力を使ってくれると思っているのだ。


 その考えがどこからくるのかミックには見当も付かなくて、頭の中が未知の空間へと迷い込んだ様な気持ちになった。

 そんな、虚無の迷路に迷い込んだかの様な顔をしたミックに、ギルディエル侯爵はミックの気持ちを理解したかの様に少しだけ悲しそうに笑った。






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