夜に潜む怪物
夜に潜む怪物を知っているだろうか。
太陽が出ている間は身を隠し、太陽が沈んでからも、誰かと一緒にいれば現れることのない、シャイなやつだ。名前はない。声や姿も、多分ない。でも夜になれば心の中から顔を出す。昼間は見えなかった漠然とした不安を背負って、私の元へとやってくる。
窓の外で『キキィー!』という音がした。同時に鈍い衝撃音も。おそらく車が猫かイタチでも轢いたのだろう。あいつらは陰から急に飛び出してくるからな、仕方ない。といいつつも、少し気分を害される。そうなるともうダメだ。
扉が開いた、気がした。
部屋の扉ではなく、私の心臓についている鍵のない扉だ。やつが、来る。
もう何も手につかない。私の頭は将来への不安で掻き乱される。今日怠けたことを後悔し、明日の自分はそうなるまいと決意する。きっと明日も、またおんなじことをするのだろうけど。
冷蔵庫を開き、缶のコーラを手に取る。冷たい。梶井基次郎の『檸檬』みたいだ、と思う。この缶のコーラの冷たさが、私の不安を解消してくれることを願う。
プシッ、という音とともに、それは無謀な願いだったと知る。
ああ、夜は長いなぁ。