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03-15

 <インベントリ>機能とはそもそもが大量の荷物を入れて運ぶために考案された魔術である。

 荷物を入れておくという機能しか持っていないものの、使い方によっては様々に悪用方法が考えられ、そう言った使い方をさせないようにといくつかの制限が設けられていた。

 一定基準以上の生き物を中へ入れることができない、というのはその一つだ。

 魔術によって構成される空間内で、生命がどうやら生きていくことができないということは開発初期に分かっていた。

 当初はこれを改良し、どうにかして生き物も収納できるようにしようという動きもあったのだが、これを可能にしてしまうと誘拐といった犯罪行為に使われかねないとの訴えが一部からあり、そこから研究がストップし、マインも<インベントリ>に関しては収納容量の増加と起動させる道具の小型化に着手したくらいで、それ以上のことはしていない。

 それはともかく。

 この場から荷馬車を奪って逃走し、仕切り直しを狙った一手は荷馬車が<インベントリ>機能を弾いたということから、荷馬車の中身はそれなりの大きさの生き物であるということが分かった。


「ダリル。何を積んでる? ご禁制の希少種か? それとも取引禁止の毒性動物か?」


 魔術師という生業をやっていると、たまに耳にしたり目にしたりすることがあるのがマインが言ったものだ。

 希少種というのは世界において生存している個体数が極めて少なく、保護が必要であると魔術師ギルドによって認可された生物で、これを捕獲したり販売したりすると魔術師ギルドから粛清対象として認定され、刺客が差し向けられたりする。

 一説にはこれ専用の暗殺部隊が魔術師ギルド内に存在しているとすら言われているくらいだ。

 ただそういった生物は様々な効能や利点があり、命が危なくなるくらいに禁じられていても商売にしようとする輩が後を絶たない。

 魔術師ギルドの頭痛の種の一つである。

 取引禁止の毒性動物というのは、非常に強い毒性を持つ動物のことだ。

 こちらは下手に扱えば何千人という規模での被害者を出しかねないほどに危険だからという理由で売買が禁じられた生物である。

 もっともこちらに関しては取扱資格さえ持っていれば取り扱いや一部の者への販売が認められているので、ダリルがこの資格を持っていれば問題にならない。

 ただこれまでの流れからしてその可能性は低いだろうとマインは思っている。

 それとは別にマインは一つきになっていることがあった。

 それは荷馬車の重さだ。

 わだちに車輪が深く沈み込むくらいの重さというのは、荷馬車に限界近くまでの重量物が積み込まれているものと考えられる。

 取引が禁止されていたり、希少種として認められたりしているものが荷馬車を沈ませる程積み込まれているとはにわかには信じられない話だが、その辺りは調べてみなければ分からない話であった。


「というわけで、改めさせてもらうぞ」


「な、何の権利があって……」


 うろたえながらも抗議してくるダリルに対し、マインがせせら笑う。


「俺は魔術師ギルド所属の魔術師だ。ギルドが禁じている代物が不法に扱われているような現場を見た場合、これを調査しギルドに報告する義務がある」


「横暴だ!」


「何とでも言え。不服ならギルドに訴え出ろ。ただ魔術師ギルドが禁じている代物っていうのは大概どこの国の法に照らしても禁じられてるものだけどな」


 魔術師ギルドとはそれくらいの力を持った組織だ、ということだ。

 仮にダリルがマインのことを国に訴え出てみても、マインを罪人として裁くのはこの状況ではほぼ無理なのである。


「異論のある冒険者はいるか?」


 マインからの問いかけに、冒険者達は揃って首を横に振った。

 冒険者達は冒険者ギルドという組織にいちおう守られてはいるものの、それは魔術師ギルドを敵に回しても無事でいられるということではない。

 魔術師ギルドという存在を前面に押し出してくるマインに対して、好んで敵対しようと考える冒険者はいるわけがなかった。

 これで十五名からの冒険者は無力化できたと思ったマインなのだが、形勢不利とみたダリルが悪あがきを始める。


「こちらについた奴には一人、金貨五十枚払う!」


「そう来るか」


 魔術が魔術師にとっての力なのだとすれば、金は商人にとっての力である。

 その力でもってダリルは状況を覆しにかかったのだ。

 金貨五十枚はそれなりに大金である。

 しかも一人頭となれば、めったに出会うことのない高額報酬だ。

 マイン達がエルフの側についても、今度はダリルの使用人達を正式に味方の戦力として数えることができるので、数的不利も特にないとなればダリルの側につく価値は十分にあった。

 それにしてもとマインは次々にダリルの側につくことを宣言する冒険者達を見ながら考える。

 この勢いだと全員がダリルの側につきそうな冒険者達なのだが、この全員に先程ダリルが言った額の報酬を支払おうとすると、金貨七百五十枚という結構な金額だ。

 これを支払ったとしても、荷馬車の荷を運ぶことができれば、十分に利益が出るとダリルが見込んでいるというならば、荷馬車の中身は相当な値打ちものということになる。

 荷馬車一台分の荷物で、そんな儲けが出るような品物とは一体何なのだろうかと荷馬車の中身を推測し始めるマインに、アイが緊張感のない声で尋ねた。


「マスター、やってしまってもよろしいのですか?」


 アイの視線はダリル達や、そちら側につくことを決めた冒険者達へとむけられていたが、それは凍り付くような冷たいもので、そんな視線を向けられた冒険者達の中にははっきりと顔色を青く変える者も少なからずいた。


「そうだな。その前にリドル」


「何?」


「多少危ないかもしれないから、エルフ達の方に避難していてくれ」


「おいおい。こっちか?」


 マインの指示にエルフ男性が呆れた声を上げる。

 何せ彼らの持つ弓はまだマイン達に狙いをつけたままなのだ。

 しかしそんなことなどまるで気にした様子もなく、マインはリドルをエルフ達のいる方へとそっと押しやる。


「心配するな。ここよりはそっちの方がいくらか安全だし、エルフ達が妙な真似をしそうになったら森ごと焼くから」


 本当に大丈夫なのだろうかと心配するリドルへ、マインがにこやかにそう告げるとエルフ男性の表情が呆れから無表情へと変わっていき、ぎこちない動作でもってリドルを手招きし始めたのであった。

現在、毎日更新継続中。

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