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03-14

「話とは何だ?」


「そちらがこちらの荷を狙う理由はなんだ? エルフが盗賊の真似事を始めたわけじゃあるまい?」


 マインにそう言われてエルフ男性が嫌そうに表情を歪める。

 盗賊呼ばわりされたことが癇に障ったのだろうかとマインは考えるが、状況的にエルフ達がやっていることは盗賊の行為とさして変わりがない。

 そこを突かれて少々痛かったのかなと思ったマインは、いまだにエルフ達が隠れている頭上から、今度は隠そうともしない殺気が降りかかってきたのを感じて少し驚く。


「貴様はあれを荷だと言うか」


 目の前のエルフ男性の声にも怒気がこもったところからして、何かしらの選択ミスをしたのだろうなと察したマインは下手な弁解をするよりも事実をそのまま告げるべきだろうと口を開く。


「すまんね。何せ雇い主が荷馬車の中身を教えてくれなかったんだ」


「それで自分は無関係だと言い逃れるつもりか?」


「さて? しかし雇い主と荷馬車だけを要求したということは、連帯責任で皆殺しにしたいというわけでもないのだろう?」


 もしエルフ側が関係者全員を全滅させることを希望するようなのであれば、リドルの体をひっつかんでこの場から即刻脱走するつもりのマインである。

 戦って勝つ自信はあるものの、自分やアイはともかくリドルを巻き込んでしまっては、大けがされても不思議ではない。


「むやみに殺生がしたいわけではない」


 物騒なことにならなければいいがと思っていたマインは、エルフ男性の返答にひとまずはほっと胸を撫でおろした。

 だが続けてエルフ男性が放った一言に、マインの表情は硬くなる。


「ただ荷馬車と御者台にいた男は別だ。この二つは絶対にこちらへ引き渡してもらう」


「随分とまたご執心だな? あの荷馬車には余程いい物が入っているのか?」


 マインがそう尋ねると、エルフ男性はマインへと向けていた矢を強めに引き絞った。


「余計なことは知らなくていい」


「やれやれ、こっちもだんまりか。これじゃどちらに味方してやればいいのかさっぱり判断できないぞ」


「不要だ。大人しく立ち去れ」


 取り付く島もないとはこのことだなと思いつつマインは肩を竦め、自分を狙っている矢など全く目に入らないかのようにくるりと振り返る。

 無防備な背中を目の前にさらされて、それでも矢を放つ気になれないエルフ男性を尻目にマインはリドルを手招きした。


「どうしたの?」


 ダリル達からの警戒やエルフ達が向けてくる敵意の中、多少おっかなびっくりといった感じではあったものの小走りに駆け寄って来たリドルが尋ねる。


「俺ではどうも彼らの警戒を解くことができそうにないので、代わりにリドルに話をしてもらおうかなと」


「私じゃ話にすらならなくない?」


 マインは魔術士であり、外見上もまた魔術師に見えるような格好をしている。

 魔術師とは実力による差はあれど、魔術という強い力を行使することができる存在で、だからこそ他者からは一目置かれることが多い。

 それに対してリドルは戦士という分類になるのだろうが、こちらはピンキリであり、特に技量を持ち合わせていなかったとしても名乗るだけであれば誰でも名乗ることができてしまう名であるので、見くびられるというところまでは行かずとも、特に気にされることもない。

 エルフと話をするのに、自分では力不足ではないかとリドルがいうのも無理のないことであった。

 ただマインも全く勝算なしにリドルへ話を振ったわけではない。


「あのエルフ。見た感じからして百歳は超えていると思う」


「ますます私じゃ相手にされなくない?」


「そんなことはない。よく考えて見ろ。エルフとはおじいちゃんだ」


「えぇっと?」


「おじいちゃんとは総じて、孫娘に弱い」


 確かにその傾向はある。

 そう思いはするものの、はたしてそれをエルフに当てはめて考えてもいいものだろうかとそう思いながらリドルがエルフ男性の方を見れば、リドルの方を見返しているエルフ男性の目に困惑の色が見えた。


「マイン。私、エルフじゃないから孫娘とか言われても苦しいよ?」


「じゃあ近所の……」


「近所でもないってば」


「おい人族。真面目にやれ」


 マインとリドルとのやりとりに、何かふざけたものでも感じ取ったのか憮然とした表情のエルフ男性に突っ込まれてリドルは申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げたのだが、マインは計画通りだとばかりに胸の前で腕を組み、ふんぞり返る。


「貴様、それはどういう意味だ」


「計画通りということだな」


 エルフ男性の質問にやや大げさにもったいぶりつつマインは答える。


「この子と俺とで無駄な会話をしていれば、注意は俺達にのみ注がれ、他にはあまり回らなくなる」


「なに?」


「俺達は三人組なんだ」


 マインにそう言われ、ならばその三人目とやらはどこにいるのかと視線を巡らせたエルフ男性は、こちらの様子を見守っている冒険者達と、ダリルを守る形で警戒し続けている使用人達と、そして荷馬車のすぐ傍らに立っているエプロンドレス姿の銀髪の女性の姿を見つけた。

 いったいいつの間にそんな所へ移動したとエルフの男性は思いながら、弓の狙いをマインから銀髪の女性へと変更。

 妙な真似をするなという警告をするより速く、銀髪の女性が荷馬車に手を触れた。


「マスター、種明かしはもっともったいぶって時間をかけて頂かなくては」


 バラすのが速すぎますと文句を言うのはメイド服姿のアイだ。

 そのアイが荷馬車へと手をかけ、エルフ達の攻撃目標が自分へと映るのを感じつつ、素早く<インベントリ>機能を行使。


「ふむ?」


 周囲にいた者達には何が起きたのか分からなかったのだが、マインとアイだけが状況と、そこから導き出される答えを悟る。

 この場において、問題が集約している代物が荷馬車の中身だ。

 ならば一旦これを持ち逃げしてしまえば、ダリル達を放っておいてでもエルフ達は自分らを追いかけてくることだろう。

 後は適当にエルフを捕まえて、事の次第を聞き出せば雇い主はいちおう守れるし、荷物の詳細も分かる。

 そう考えてのアイの行動だったのだが、荷馬車はアイの<インベントリ>機能を弾き、収納されなかったのだ。


「ダリル? お前、荷馬車の中に生き物を積んでるな?」


 マインからの問いかけに、ダリルの顔が見る見るうちに青ざめていったのであった。

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