03-08
領都トゥゼットの西門に、日も暮れかけた十八の刻。
集まった者達は依頼主であるダリルと、そのダリルが雇っているらしい使用人を除くと武装している冒険者らしき者達が男女合わせて十八名。
この中にはマイン達三人もふくまれている。
マイン達以外の十五人は職も年齢も性別も、てんでばらばらで全く統一性がなく、正しく寄せ集めという言葉を現実の光景として表現しているような感じだ。
「結構いるね」
いつもの武装の上からすっぽりとフード付きの灰色のマントを被ったリドルが、集まっている面々を見てそんな感想を口にする。
動きにくいとリドルから不評のそのマントは、リドルの体調が万全ではないということから安全のためにとマインが渡した物であった。
色も地味であるし、装飾が施されているというわけでもない。
至って普通のマントにリドルには見えていたのだが、アイがそのマントをマインが取り出した時にぎょっとした顔をしたのがリドルの脳裏にこびりついていて離れない。
マントを渡してくれたマインにその正体について聞ければよかったのだが、何となく聞くのが怖くて聞けずじまいのまま居間に至っているリドルであった。
「皆様、お集まりのようですね」
そういうダリルは荷馬車の御者台に座り、荷馬車に繋がれている四頭の馬の手綱を握っている。
荷馬車の荷台は高さのある木製の箱になっていて、ダリルの使用人と思われる男が数人、周囲を取り囲んで物々しい雰囲気を周りに放っていた。
着ている服は平民の平服であるのだが、それぞれが腰や手に反り身の山刀を持って武装している。
「あれ、素人じゃないな。傭兵崩れか?」
大きな木製の箱である荷台は中身が見えず、わざわざ武装した使用人に囲ませて守っているところから、余程大切な物がはいっているのだろうなと思いながら見ていたリドルは、マインの言葉に小首を傾げた。
「冒険者じゃなくて傭兵?」
冒険者は依頼さえあれば何でもやるような生業だが、傭兵は金をもらって戦争に参加する、いわば専門職である。
つまり冒険者よりずっと荒事に慣れた人種であると言っていい。
さらに、戦争に参加しているということは、人を相手にした戦闘経験がかなり豊富だということだ。
ただの商人が雇い入れる者としてはやたらと物騒過ぎる。
「マイン、よく分かるね」
リドルの目からでは、使用人の素性など分かるわけがなかった。
一応武装しているので、何らかの心得があるのだろうとは思っていても、周囲にいる冒険者との違いが分からない。
「何か目安でもあったりするのかな?」
もしそんなものがあるのならば、後学のために聞いておこうと思うリドルに、マインは少し考えてから答えた。
「雰囲気かな」
「それ、参考にならない答えだよマイン」
「だろうな。似たようなやつを数見ていれば、そのうちなんとなく分かるようになるとは思うんだが」
マイン自身、何となく勘のような所で判断しているので、説明してくれと言われても詳しい説明ができない。
場数を踏むしかないよなと思いながらのマインの説明を聞いていたリドルは、これで伝わったのだろうかとやや不安そうなマインをまじまじと見ながら尋ねた。
「マインってそんな沢山、傭兵との付き合いがあったの?」
それはと答えかけて、マインはギリギリのところで口を閉じる。
マインの言う勘には、マインがこれまでに送って来た数百年という時間が根底にあるものなのだが、リドルの認識ではマインは二十一歳の若さでしかなく、しかもその人生の大半を辺境の農村で暮らしていたことになっているのだ。
馬鹿正直にマインが答えてしまったのでは情報に差異が生じ、どういうことなのだと疑いをもたれてしまう。
どう答えればこの場に適した答えになるのかと、表情は平静のままかなり必死にマインが考えを巡らせていると、マインより先にアイが口を開いた。
「マスターは生い立ちからして言われるほど、傭兵の方との付き合いはなかったのでは、と考えます」
「それじゃおかしくない?」
「はい、ですがご主人様と比べれば、多く見て来たと言ってもおかしくはないかと。その上で傭兵の方というのは一種特別な雰囲気をお持ちです」
「ふむ?」
「自分達やいつも見ていた農村の人達。そういった方々との違いをマスターは感じられたのではないかと」
その説明は少し苦しい所があるのではないかとマインが思ってしまうような答えではあっても、アイのように堂々とすまし顔で言い切ってしまえば、何故か妙な説得力がそこに生まれる。
後はリドルが納得してくれるかどうかだけであったが、リドルはアイの説明になるほどと手を打つ。
「じゃあ私も、あの人達の雰囲気をしっかりと覚えておけば、マインみたく見ただけで分かるようになれるのかもしれないね」
「そうかもしれませんね」
ふんわりと曖昧にぼかしたような口調でアイが笑顔と共にそう応じたところで、ダリルの乗る荷馬車がゆっくりと動き出した。
それを囲むようにして使用人達が歩き出し、さらにそれを大きく囲んだ形で冒険者達も歩き出す。
「雇い主が何かしゃべっていたような気がするが、聞いてなかったな」
他の面々についていくように歩き出しながら、マインは荷馬車の車輪辺りを何気なく観察する。
雇い主が荷馬車に乗っているというのに、それ以外の者が全員徒歩というのが少々気になっていたマインだったのだが、その答えが荷馬車にあった。
「遅いし……とても重いなあれ」
四頭立ての荷馬車は、車輪や車軸周りが軽く悲鳴を上げていた。
荷台が相当重いのか、車輪は地面にかなり食い込んでおり、進む速度は遅々としていて徒歩でも十分追従できてしまう。
その遅さに驚く冒険者達と、黙々と歩く使用人達との反応の違いから、冒険者側に荷物についての説明を受けた者はおらず、使用人達はある程度の情報を持っているのだろうとマインは考える。
「何事もなければ見過ごしてもいいんだが。これだけ警戒している代物の運搬だ……どうなることやらな」
二十人以上の武装した者達に守らせている物が無価値でつまらない物だとは思いたくないマインである。
気になりはするものの、名の事もなく隣領へ抜けられるのならば特に調べる必要もないかと、マインは一旦意識を荷台から外して、きちんと仕事をするべく周囲を警戒し始めたのであった
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