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03-07

 一党の行動を決めるのに、メンバーの意見を聞かないというのは後々何かと問題になるだろう行為だとマインは思う。

 商人を名乗ったダリルの件。

 眠っていて直には話を聞いていなかったリドルが目を覚ますのを待ったマインとアイは、リドルが意識を取り戻した後、その話をしてから意見を求めてみた。

 結果、リドルはダリルの依頼を受けることに賛成し、一党としての意向が固まる。


「本当に大丈夫か?」


 ダリルからの仕事を受けること自体はマインからしてみればどうでもいいことだったのだが、心配なのはリドルの体調である。


「少しだるい感じはするけれど、動けないって程じゃないから大丈夫」


 リドルの体の不調は、迷宮への攻撃を仕掛けたことによる体内魔力の異常消費のせいだろうとマインは見ていた。

 故に消耗分の魔力を回復することができれば、体調は快方に向かうはずである。

 そう考えてマインはリドルに少しずつ、魔力回復用のポーションを飲ませていたのだが、リドルはいまだに不調を訴えていた。

 これはリドルが消耗した魔力が多すぎて持ち合わせのポーションくらいではきちんと回復しきれないせいだろうとマインは考えている。


「俺の魔力を渡せれば、一発で回復するとは思うんだがなぁ」


 自分の魔力を他者へと譲渡する<マナ・トランスファー>という魔術は存在している。

 しかし、マインの魔力は他人に譲渡するには強力過ぎて、普通の人などに流し込んでしまうと流し込まれた側の体が耐え切れず、様々な支障をきたしかねない。


「本当に大丈夫だから。ちょっとフラついたりするけど、それだけだから」


 心配をかけまいと大丈夫なアピールをしてみせるリドルにいくらかの不安を覚えるマインとアイだったが、日に日に荒れて手狭になっていく冒険者ギルドの待合室で時間を消費するくらいならば、外に出ていた方が気も晴れるのではないかと考えて、ダリルとの連絡を取る。


「依頼内容は隣領までの護衛ということでいいんだよな?」


「左様でございます」


 改めて顔を合わせたダリルにマインは確認する。


「報酬はおひとり金貨十枚。経費は別と致します。護衛対象は私と荷物のみ、ということでいかがでしょうか」


「荷物ってのは何なんだ?」


「商品でございますが、詳細については申し上げられません。ご勘弁下さい」


「訳の分からないものを守れと言われても困るぞ?」


「商品は荷馬車の中に収めてございます。ですので私とその荷馬車とを守って頂ければ」


 とても雑な感じのする依頼であったが、その辺りも実際はマインにとっては比較的どうでもいいことである。

 それに荷物について言いたくないと言うのであれば、それはそれで対処の方法があった。


「それならそれでいい。ただ荷物の詳細は俺達には伝えていないと一筆書いてくれ」


 知っていて運ぶのと知らずに運ばされていたのとでは、荷物に何らかの問題が存在している場合にマイン達の立場が大きく変わってくる。


「それと排除対象はあくまでも魔物や盗賊の類だけだ。それも明記してもらうか」


「それは……」


「どうした? 何が入っている荷物なのかは知らないが、。違法な荷物を運んでいるわけじゃないんだろ?」


「もちろんですが」


「それなら何も問題はないだろう? 正規兵やら官憲やらを相手にするわけじゃないのだし」


 これを否定してしまえば、ダリルは何か法に触れるような品物を運んでいますと白状するようなもので、ダリルとしてはそんなことはしていないとしか言いようがない。

 もちろん、一筆書かないとマインの申し出を断ったとしても、それはそれで何かしら後ろめたいことか拙いことがあると認めたも同然だ。

 ダリルができそうな抵抗と言えば、マイン達を雇わないという選択をするくらいのものなのだが、ここまで話が進んだ状態でマイン達を雇わないと言えば、やはり拙いことがありますと認めたようなものである。

 結局ダリルはどこか渋々とではあったが、マインに求められるままに文章を書くことになった。


「そちらの人数は三人でよろしいので?」


「あぁ、その通りだ」


「必要な物の調達は自力でお願いしても? 経費は後での精算となりますが」


「それくらいはいいだろう。こんな状況で集めるのは一苦労だろうしな」


 マインの答えには少しばかり嘘が混じっていた。

 マインとアイが持つ<インベントリ>の魔術付与品の中には、相当な量の食料品や野営の道具などが詰め込まれており、補充の必要はない。

 それでもわざと大変だと伝えたのは、精算時に割高な品物を購入せざるを得なかったと主張して金額を水増しする気なのである。

 実際、領都トゥゼットの物価は日に日に上がり続けており、マインが余程えげつない上乗せを行わない限りはそれがバレる可能性は非常に低いと思われた。


「それで出発は?」


 今回の仕事は冒険者ギルドを通していない。

 つまり個人と個人との間の契約となり、マインはダリルが条件を書き加えてよこした契約書を眺めつつ尋ねる。


「明日の夕刻には出ようかと」


「急だな」


「雇い入れた人員は、あなた方が最後でしたので」


 このかなり怪しげな依頼に乗った冒険者というものが、自分達の他にもいると聞かされてマインは苦笑する。

 冒険者ギルドが仕事を斡旋してくれない状況で、余程仕事に困っていた者がいたのか、あるいは懐事情に余裕のない者が沢山いたのか。

 それともマイン達と同じように、領都トゥゼットから隣の領地へと行きたがっている者がかなりいたのか。

 それぞれの事情は分からないものの、何事もなく平穏無事に隣領まで抜けることができればいいなとマインは思う。


「集合場所は領都西門。明日の十八刻に出発します」


 とある魔術付与品によって一日は二十五分割されており、その一区切り毎にそれを知らせる鐘が鳴ることが、大きな都市などでは多い。

 十八刻とは夕方と夜の境界のような時間帯であり、こんな時間をわざわざ出発時刻に選ぶというのはかなり妙な話だ。


「私が小心者でして。来ないは人数が多いせいで明るいうちにぞろぞろと出発したのでは目立ってしまって仕方ありませんからな」


 疑問が顔に出ていたのか、マインが問う前にダリルがそんな説明をする。

 突っ込みを入れる程おかしな言いぐさと言うわけでもなく、マインは一応なるほどとそれに頷いて見せたのであった。

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