03-06
ダリルと名乗った老人からの申し出を、マインはとりあえず保留にする。
美味しい話に飛びついて、泣きを見るような連中というものはあちこちに存在していて、マインとしてはその仲間入りをする気はない。
ある程度の検討や相談は絶対に必要だろうと考えていたし、自力で何とかする方法が本当に残されていないのかということについても再考する必要があった。
「そうですか。定員になり次第締め切りますので、決断はどうぞお早めに」
「あぁ、その時は遠慮なく締め切ってくれていい」
あまり物欲しそうにして足元を見られてもつまらない話で、マインが素っ気なくそう言うとダリルは丁寧に頭を下げてから、自分に連絡を取りたい時は自分自身が代理の者が冒険者ギルドに詰めているので、少々大きな声で名前を呼んでもらいさえすれば、どちらかが接触してくるはずだと言い残し、ダリルはマイン達から離れていった。
「よろしかったのですか?」
主語が抜けたやや曖昧な聞き方をしてくるアイに対し、なんと答えていいやら分からずにマインは沈黙で応じる。
ダリルの言う話は確かに現状のマイン達からしてみれば、かなり魅力的な話だったと言える。
その反面、かなり都合が良すぎる話でもあり、さらにおそらくは何らかの形で法に触れる話でもあった。
「できれば裏を取りたいところだが」
「無理というか、難しいでしょうね」
アイに即答されて、まぁそうだろうなとマインも思う。
通常時ならば冒険者ギルドから情報をもらったり、少しコストはかかるものの王都に人を走らせて本当にダリルという商人がいるのかや、何を商っているのかということを調べ津ことができたはずだ。
しかし、現状では冒険者ギルドは通常の依頼を扱うことができない位に混乱しており、王都に人を走らせようにもその走らせるためのルートが封鎖されてしまっているような有様なのだ。
とてもダリルという人物に関する情報が手に入るような状態ではない。
「俺達自身の手で王都まで行く手は何かないか?」
「フロートキャッスルが使えれば、問題は全て解決するのですが」
フロートキャッスルはマインが持っている拠点の一つで、とんでもないコストを支払って無人島に城を建て、島ごと空へと浮かべてしまった空中要塞だ。
自力での飛行が可能で、アイが言うように使えさえすれば、移動に関する問題はほぼ全てなくなると考えていい。
というより、このフロートキャッスル自体に備えられている各種設備は、領都の魔術師ギルドの設備より、マインの見立てではずっと上等な物が揃えられており、おそらく王都へと行く必要がなくなってしまう。
ただ残念なこと、数年前から行方不明の音信不通となっており、アイも連絡をつけることができなくなっていた。
小さいとは言え島一つ分の質量が空を飛んでいれば、目撃情報などが出て来てもおかしくはないのだが、フロートキャッスルには様々な認識阻害の為の術式が組み込まれていて、ちょっとやそっとでは地上から発見されなくなっている。
少し手を抜いて、たまに見つかる程度の擬装にしておけばよかったなと思うマインなのだが、全ては後の祭りだ。
「うちの協会を動員すれば……関所の強行突破は可能です。ですが、大事になりますね」
アイの言う協会というのは、アイ達がマインが不在の間に作り上げたメイド派遣協会なる組織のことである。
各国に支部が存在し、貴族や王族に対して十分に訓練されたメイドやバトラーといった人材を提供しており、その組織力や各国への影響力は、マインも今のところはほとんど把握できていない代物だ。
「インダストロール王国内で、即時対応可能な戦闘メイドは一個小隊分、およそ三十名になります」
「関所を突破するには少し少なくないか?」
インダストロール王国の総兵力など調べてもいないので知らないマインだが、関所には普通大体百名前後の兵士が常駐しているものだった。
そこを三分の一程度の兵数で攻めてみたところで、関所を落とすことなどできるとはあまり思えない。
そう考えたマインだったが、アイの答えに目を白黒させることになる。
「人的被害を一割ほど認めて頂けるのでしたら、突破は可能です」
三十人に一割は三人だ。
三人の損失と引き換えに、百人からなる兵士が守る関所を突破して見せるとアイは言うのである。
にわかにはとても信じられない話なのだが、アイがそう言うからには間違いなさそうだとも思われた。
「ただ、インダストロール王国内における活動は、できなくなるでしょう」
当たり前である。
いかに強大とは言え民間の組織が国の正規軍相手に戦端を開けば、結果がどうであれその国内での活動など、以降は認めてもらえなくなるだろう。
「却下だな。そんな大事にしなくとも、数名の隠密行動で関所を抜けるのはできないか?」
「無理です」
返答は即座に返って来た。
「戦闘メイドは火力と防御力に長けたユニットです。ですが隠密行動には向きません」
「それ、本当にメイドなのか?」
「名乗った者勝ちかと」
「それでいいのか?」
「特にクレームがどこからかついたということも聞きませんので問題ないかと」
にこにこと笑いながらアイにそう言われてしまっては、マインとしてはそうなんですかくらいしか返す言葉がない。
「そもそも関所を力業で破るだけなら、マスターおひとりで十分でしょうに」
確かにその通りであり、マインはぐっと言葉を詰まらせた。
つまりマインが遠くから何らかの強力な攻撃系の魔術を叩き込めば、関所とそこにいる兵士達諸共を吹き飛ばしてしまうことなど造作もないのである。
しかしそれをやってしまえば、何事が起きたのかと大事になること間違いない。
時と場合にはよるものの、国と事を構える羽目になることは可能な限り避けねばならないと思っているマインである。
「こうなると、いよいよあのダリルとかいう商人の話に乗らざるを得ない気がしてきたな」
「あれはあれで、何かしらの後ろめたさがある気がして仕方ないのですが」
この状況下で、多少法に触れつつでも無理に王都へと戻ろうとするというのは、残してきた業務が心配だからというだけではないように思われた。
後は本当の理由がどれだけやばいものなのかが問題であるが、それが分かるのは現時点ではダリル本人だけである。
何もない、ただの勘ぐりすぎだったというのが話の流れとしては最高なのだが、そうは上手くいかないのだろうなとマインは肩を竦めたのであった。
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追いかけてた小説がやっぱりバッドエンドだったので、哀しい。
そして読む小説が一つ減ってしまった……




