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1-9

 ゴブリンは魔物の一種である。

 姿は人に似ているが、緑色の肌と頭に一から数本くらいまでの角を生やし、背丈は成体であっても人の成人と比べると半分くらいの高さまでしか成長しない。

 知能は低く、力も人の子供と同程度しかなく、個体としての脅威度は魔物の中では最低ランクといっていい存在だ。

 ただ、非常にしぶとい種族である。

 生命力が非常に高く、地上のどんな環境下でも生息することが可能であるとされ、種としての頑丈さはそれこそ竜のそれを凌ぐとすら言われている程だ。

 生産的行動をほとんど行わず、基本的に必要な物はその辺から採取するかどこかから略奪してくるかによって賄っており、村や町の近くに出没したりすると洒落にならないくらいの被害をもたらすことがある。

 特筆すべき点は二つで、まず一つ目は種として女性が存在していない。

 つまりゴブリンの繁殖行動は他種族の女性との間でしか成立しないのだが、相手が人型であれば人種、亜人、獣人の区別なく子を作ることができてしまう。

 そして生まれてくる子は混血にはならず、必ずゴブリンが生まれる。

 二つ目は大規模な群を作るという点。

 個体としてのゴブリンは大した魔物ではなく、訓練を受けていない農民であったとしても特に苦労することもなく倒せてしまう位の魔物なのだが、これが群れを成した場合にはその脅威度は一気に跳ね上がる。

 いかに子供程度の力しか持っていないとは言っても、そんな魔物が数十匹も雪崩を打って襲い掛かって来たのなら、小さな村などあっという間に彼らの餌になり果ててしまう。

 そしてゴブリンは劣悪な環境でも生きていける生命力と、強力な繁殖能力を持って爆発的な勢いで増えるのだ。

 魔物を狩って生計をたてる、所謂冒険者と呼ばれている者達の間では、ゴブリンを一匹見かけたらその地域には数匹以上。

 数匹見かけたのであれば既に数十匹のゴブリンがいることを覚悟しろと言われるくらいで、発見次第即座に駆除し、巣があったら丁寧に見落とすことなく念入りに潰せと言われている魔物である。

 ただ、そこまでやってもまるで駆除できない魔物がゴブリンというものであり、真偽のほどは定かではないが時間さえたっぷりとかけられるのであれば、指先程度の肉片からでもゴブリンは再生ができるのではないか、とすら言われていた。

 マインが被害者の村人を見て、ゴブリンの仕業なのではないかと考えたのは、村人の体につけられた傷があまりにも多かったせいだ。

 知能が低く、力もそれ程強くないゴブリンでは人の急所を突いて手際よく相手を倒すといったことができない。

 加えて元々の性格が残忍であえるために、どうしてもゴブリンに襲われた犠牲者は弄ばれたかのように体中を滅多打ちにされることが多いのだ。


「これは決まりかの」


 集会場の別の部屋には村長と、何人かの村人が詰めていた。

 そこへ連れてこられたマインに、案内をしてきた村人からの報告を受けた村長は溜息交じりに話す。


「皆もそうではないかと言ってはおったんじゃが……お前がそう言うのであれば確実なのじゃろうな」


「俺の話より、現場にいた人を信用するべきじゃないのか?」


 マインは現場を見ていない。

 状況からおそらくそうであろうと考えられることを話しているだけで、その場に居合わせた村人がいるのだから、そちらからの情報の方が正確であろうと考える。


「しかしのぉ。こやつら本当にゴブリンだったのかと問うと、一斉に言葉を濁しよるでのぉ」


 老人である村長にぎろりと睨みつけられて、村人達はきまり悪そうに顔を背けたり、俯いたりしてしまう。

 村長はそんな村人達の反応に不満そうに鼻息を吹いたのだが、マインには村人達の気持ちも理解できていた。

 ただでさえ荒事とはあまり縁のないと言っていい村人が、無惨に殺された村人やその妻や娘が攫われるといったような光景に出くわして、冷静に犯人の姿を見て状況を把握することができるのかと考えれば、非常に厳しいだろうなと思うからだ。

 パニックを起こすこともなく、村長の所へ情報を持ってきただけでも頑張った方なのではないかと思う。


「緑色の肌で小鬼なら、ゴブリンで間違いないだろう」


 女性を攫う緑色の肌をした魔物、という条件だけならばゴブリンの他にオークという人型の魔物が存在している。

 ただこちらの背丈は成人男性よりずっと高く、体つきも太り気味というくらいに大柄であるのでおよそゴブリンと見間違うことはまずない。

 ちなみにこのオークもまた種として雄しか存在していない類の魔物であり、他の種の女性を攫って来ないと種の維持ができないという歪な存在である。


「どうするんだ村長? 時間的な余裕はあまりないぞ」


 マインの言葉に村長は渋い顔をする。

 とは言ってもマインもいたずらに村長を脅しているわけではない。

 ゴブリンという魔物は本当に、凄まじい速度でもって繁殖する魔物なのだ。

 ゴブリンは母体にもよるが、大体一度で七、八匹くらいの子がまとめて生まれる。

 そして生まれてから三、四日で成体と変わらない状態にまで育つ。

 母体から生まれるまでも期間も二日程度と非常に短いのだが、寿命もかなり短く、長くとも十数年くらいで寿命を迎える。

 今回、既に二人の女性が攫われており、放っておけば二日おきに十数匹のゴブリンが生まれてくる計算で、一月もすれば百を軽く超えるゴブリンの大群が形成されてしまう。


「りょ、領主様に相談を……」


「村から領都まで三日はかかる。そこから討伐軍を組織してもらってここまで行軍してもらったとして……村がもつと思うか?」


 軍が派遣されればゴブリンが百や二百いたところで、軍の規模にもよるがこれを殲滅することは不可能ではないだろう。

 ただその軍が組織され、村の場所までやってくる間に村に何が起きるかは分かったものではない。


「冒険者に依頼するというのは」


「依頼料が払えるのか?」


 ゴブリン退治の依頼自体はそれほど難しくはないとされる部類のクエストだ。

 しかし、確実にゴブリンを殲滅しようと考えるのであればそれなりの腕をもった冒険者に依頼を受けてもらわなければならない。

 当然、必要な依頼料はそれだけ高額なものになるのだが、それだけの金額を村が用意することができるのかという問題がある。


「どうすればいい……」


 金が用意できなければ冒険者を雇うこともできない。

 依頼料をケチって、駆け出しの冒険者などに任せてしまった場合。

 上手く依頼を実行してくれればいいが、失敗した場合に何が起きるか分かった物ではない。


「どうすればいいのだ」


 村の置かれた状況を考えて頭を抱えだす村長や村人達。

 そこへかける言葉も見つからず、ただその光景を見ていたマインはふと、人の視線や気配のようなものを感じて部屋の窓から外へと顔を出す。

 そこからきょろきょろと周囲を見回したマインは何も見つけることができず、気のせいだったかと頭を引っ込めようとしたところで、窓の下にしゃがみ込んだ姿勢で壁に耳を当ててじっとしている村の子供らと目が合ったのだった。

書き続けるためには燃料が必要です。

一件の感想は書き手のMPを10回復すると言われています(要出典)


というわけで。

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