03-05
いきなり話に割り込んできた老人に、マインはうろんげな目を向け、アイはそっと席を立つと自然な動作で眠りこけているリドルの方へと歩み寄る。
何かが起きたとしてもすぐに対処できるとアイが頷くのを見てから、マインは口を開いた。
「何か用か?」
「唐突にお声がけしたことをお詫びいたします。私、ダリルと申す者でして、商人を生業としております」
折り目正しく一礼して見せるダリルと名乗った老人に、マインは興味なさそうに椅子から立ち上がることもなく応じる。
「それはご丁寧にどうも。で、何か用なのか?」
その老人がマイン達の所へと近づいてきていたことにはマインもアイも気が付いていた。
しかし、何の用で声をかけてきたのか、というところまで分かるわけがない。
マインもアイも商人に知り合いなどいるわけもなく、相手がどんな意図を持って唐突に声をかけてきたのかについては、本人に聞くしかなかったのだ。
「王都という言葉を耳に致しましたもので。もしや王都に用事のある冒険者の方なのではないかと思いまして」
「それで?」
そうだとも違うとも答えずにマインが言うと、ダリルはすぐに説明を始める。
それによれば、ダリルは王都で店を構えて商いをしている商人で、領都へは商品の運搬と大きな商談の取りまとめを行うために来ていたのだっという。
商品を下ろし、商談をまとめ、さて王都へ帰ろうかと思ったところで今回の大暴走に出くわしてしまったらしい。
「それは……不幸だったな」
他に何とも言い難い。
とは言え、似たような不幸に見舞われているであろう誰かというのは、目の前の老人に限ったことではなく、マインとしてはそれ以上の感想を抱くこともなかった。
だからこそ、早いところ自分達に声をかけてきた要件というものを老人の口から聞きたいと思うマインは、大人しく老人がその先を続けるのを待つ。
「実のところ、私は王都の色々と仕事を残してきておりまして、あまりのんびりとしているわけにもいかないのですよ」
「それはご愁傷様だが、どうすることもできないだろ?」
「実はそうでもない、と言ったら信じていただけますかな?」
老人はここで言葉を切ってマインの反応を待った。
一方のマインは、老人が言った言葉の意味を吟味する。
王都に店を構えているというのであれば、王都に仕事が残っているというのもよくある話であり、そちらを長く空けていたのでは商売に支障をきたすということもあるのだろう。
ただ、王都へ行く道の道中にある関所が封鎖されている以上はいくらこのダリルと言う商人が仕事があるので王都まで帰らせろと主張してみたところで、関所を通ることなどできるわけがない。
もしできてしまえば、他の王都へと行きたがっている者達も関所を通さなくてはならなくなるからだ。
それを許してしまえば、領都トゥゼットを離れようとする民が際限なく領地から出て行ってしまうことになる。
しかし、とマインはダリルの顔を見る。
その程度のことが分からないようでは、商人などという生業をやり続けていくことなどできるわけがない。
そして、格好からしてマインが魔術師であるということは見れば分かる程度のことであるので、当然この程度の推測はマインがするであろうということも理解しているはずだ。
その上で、声をかけて来たということは何らかの抜け道のようなものが存在しているのではないか、とマインは考えた。
それが合法なのか非合法的なものなのかは聞いてみなければ分からないが、そのくらいのことがなくてはわざわざこの場においてマイン達に声をかけてきたことの説明がつかない。
「それは興味深い話だが、ここでできるような話なのか?」
いずれにしても興味があるということは相手に伝えなければならないだろうとマインは特に隠し立てするようなこともなく、素直な感想を述べた。
さらにそのそうでもない手段とやらが合法的なものなのか非合法的なものなのかについても軽く探りを入れてみる。
冒険者ギルドの待合室に、わざわざマイン達の会話に耳を傾けていられるほど余裕のある冒険者の姿はないのだが、だからと言って誰も聞いていないと言うことの保証には全くならないのだ。
この誰が聞いているのか分からないような状況ででも話すことができるというならば、その手段とやらは限りなく合法的なものであろうし、ここで話をするのは難があるので場所を変えようかと言い出せば、高確率で違法な手段を用いる気だとなんとなく分かる。
「そうですね。別段構いません」
場所を変えようなどと言われたのならば速攻で断ろうと考えていたマインだったのだが、ダリルはあっさりとこの場で話を続けることを選んだ。
少しばかり拍子抜けした感じで、それほど警戒するような話ではないのかもしれないと考えるマインに、ダリルは言った。
「もっとも、いきなり王都まで行けるというわけでもないのですが」
マインは周辺の地図を思い出す。
領都トゥゼットのある領地から、王都まで最短距離で街道を使ったとしても、抜けなけれあいけない領地は三つほどある。
そこを一気に通り抜けられれば話は楽なのだが、それは難しい。
封鎖されている今の領地から隣の領地へと抜けるのが最難関だとして、さらに二つの領地を抜けなければならないからだ。
一介の商人がこの状況下で、そんな話に一気にケリをつけられるほどの権力や能力があるかと問われれば、それはいくらなんでも無理だろうとマインは思った。
「ただ、とりあえず隣の領地へと抜けるルートの使用許可だけは取れまして」
なんだかその言い方は抜け道というよりは裏道を使って隣の領地へと行くような感じに聞こえて、きな臭いものを感じるマインだったが、ダリルはそんなマインの気持ちに気付くことなく続ける。
「街道が使えない以上、そのルートを使うしかないのですが。いかんせん物騒なものでして、もしお願いできるのであれば護衛任務など受けて頂けないものかと」
街道は定期的に魔物や盗賊とったものの駆除作業が行われており、ある程度の治安が維持されてはいるのだが、そこを外れた道などに関しては全くと言っていい程に国が管理している場所はない。
つまりすこぶる治安が悪い。
そこを通り抜けるために護衛の戦力が必要で、移動を望んでいる冒険者に声をかけたのだとすれば話としては通らなくもない。
しかし、街道ではないルートと言われるとそれは本当に通っていいルートなのだろうかという疑問がどうしても生じてしまう。
「依頼料も弾みますし、一度隣の領地に出てしまえば王都まで行くことも難しくなくなるのではないかと思いますが、如何なものでしょうか」
怪しい話ではあるものの、封鎖されてしまっている現状からとりあえず抜け出せるというのは魅力としてはそれなりに大きい。
目の前の老人がどの程度信用できるものかという問題が残るものの、見過ごすにしてはややもったいない話だなと思いつつ、マインはこちらを値踏みするかのような視線を向けてくる老人の目をじろりと睨み返したのであった。
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追いかけて読んでいたなろう作品の一つが、バッドエンドで終わりそうで
ちょっと鬱い……




