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「よし決めた。異変解決に協力する」
リドルがそう結論を出したのは、アイがそろそろ迷宮を脱出できますよと伝えて来た直後のことであった。
好きなようにすればいいと告げていたマインはリドルの決定に何の反応も示さなかったのだが、アイは少しだけげんなりとしたような表情を見せ、構わないのかと問いたげな視線でマインを見る。
これに対してマインが構わないとばかりにうなずきを返すと、アイは首を竦めつつ目を伏せた。
「無理につきあえとは言わないが?」
「つきあわずに目を離したら、またどこかに消えてしまわれるおつもりなのでは?」
そう言われてマインは軽く鼻白んだのだが、否定も肯定もせずただ小さく咳払いをするにとどまった。
実のところ、面倒なのでパスしますとアイが離脱すれば、行方をくらますことも考えていたマインである。
今はある程度好きなようにやらせてもらってはいるのだが、いつアイがマインに元の場所へと戻るように言い出すのか、分からないのだ。
伝説的とまで言われる魔術師の座というものは、マインにとっては退屈で、いずれ戻らなければならない日が来るのだとしても、まだ戻りたくないと思う気持ちがかなり強い。
その辺りを察してなのかその件についてはそれ以上言及せず、アイはリドルに尋ねた。
「解決に協力されるのはよろしいのですが、ご主人様はこの大暴走に止め方をご存じなのでしょうか?」
そう尋ねられたリドルは少し考えてから。助けを求めるようにマインを見る。
解決手段を知らないというのに、解決に協力しようとするとはまた随分と思い切ったことをするものだなと思いつつ、マインは言った。
「最も簡単なのは、迷宮が吐き出す魔物をひたすら終わるまで倒すことだな」
迷宮は大暴走中、ひたすら魔物を生産し続けてこれを吐き出し続けるのだが、魔物を生み出すたびに迷宮が内包している力を消費してしまう。
つまり大暴走が続くと、迷宮はその力を失い続けるのだ。
そしてその力が一定値を割り込むと、迷宮の大暴走は止まる。
迷宮も自らが存在を維持できなくなるまでは、力を吐き出したりはしないのだ。
「ちなみに難しい解決方法っていうのもあるの?」
「ある。ダンジョンハートに接続して、直接魔力を迷宮外に排出させる方法だ」
マインがまず考えたのがこちらの方法であった。
何せこの方法であれば、人的にせよ物的にせよ被害がほとんど出ないのだ。
大暴走自体が迷宮付近の不安定化と力の過剰供給によって発生するものであるならば、そのいずれかかいずれもを解消してやれば、大暴走は自然と止まる。
もっともこの方法は、ダンジョンハートの位置が分からなければ実行することができない。
トゥゼットの迷宮の様に、五十層まであることは分かっているもののその先に何層あるのか分からないというような迷宮には使えない手なのである。
「他は?」
「迷宮が消失すれば、大暴走もなくなるぞ」
迷宮が魔物を大量に制s何市、迷宮内にとどめておけなくなる現象。
それが大暴走だ。
この現象において、魔物を生み出す能力を持つ迷宮自体が消えてなくなれば、当然ながら大暴走は止まる。
もっともこの方法は、迷宮という金の生る木のような存在を潰してしまうような行為であり、仮に迷宮一つを潰せる手段を持っていたとしても普通は実行されない案だ。
「魔石が採れるというだけで人は集まる。税だのなんだのを考えればどれだけの利益が出るか想像もつかない。そんなものを潰す奴はいないだろうな」
「むぅ。他は?」
「大暴走自体は一応、時間経過で止まるぞ? 生み出された魔物の始末はどうしたって必要になるんだが」
「近くに住んでる人はどうするの?」
「諦めるか非難してもらうかしかないだろうな」
近くに住んでいる人達というものが村程度の規模であったのならば、全員避難して難を逃れるという手も可能であったかもしれない。
しかし、領都程の規模ではそれは無理な話だ。
とても現実的ではない。
「手はそれくらい?」
「そんなものだな」
「実際実行できそうなの、魔物を駆除し続ける奴しかないじゃない」
「事が収束するまで領都を離れて知らない顔をするという手もございますよ、ご主人様」
「却下! 解決に協力したって言えないでしょ」
ぼそりと不干渉案をまぜて来たアイだったのだが、一言で却下されてすごすごと引き下がる。
その間にもあぁでもないこうでもないと考えを巡らせていたリドルなのだが、やがてげっそりとした顔でこう言った。
「私の頭じゃ領都か冒険者ギルドが組織するだろう迎撃部隊に入れてもらうくらいしか思いつかない」
「それで十分じゃないか?」
単騎や単一の一党ではとても対処できない事態だということはリドルにも分かる。
しかし、安易に組織に入ってしまっては、目立つことのない一兵卒くらいのことしかできなくなりかねない。
いずれは英雄になりたい、という願望を持つリドルとしては、こういった緊急事態の際にこそ目立った活躍をし、名声を得たいという望みがあった。
それこそが生まれ育った村を離れて旅を始めた最終目的でもある。
しかしそれは仲間であるマインやアイを犠牲にしたり、自身の安全を担保にしてまで得たいと思うようなものではなく、リドルはしばし悩んだ後にあっさりと望みの方を見限った。
「大人しく、どこかの部隊に入れてもらおう」
「俺もそれがいいとは思うが、そう上手くことが運ぶものやら」
「どういうこと?」
「入れてくれる部隊が、果たしてあるのかなってことだ」
リドルはマインの言葉を、自分達の見た目が大して実力のない初級冒険者にしか見えない一党であるために、断られるのではないかと危惧していると理解する。
しかし、実はマインが危惧している所はそこではなく、もっと別な問題であり、リドルはそれに気付くことができなかったのであった。
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