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第二波のモンスターハウスによる攻撃は第一波によるものと変わらないくらいに激しいものではあったのだが、それにさらされたはずのマインは訝しげな表情を見せながら全くの無傷だ。
身にまとっているローブの端に焦げ目の一つも作ることなく、破れやほつれを生じさせることもないままに、淡々と自分の方へ武器や魔術の狙いをつけているアンデッド達の様子を観察し、マインは左手で頬をかきながら、右てをアンデッド達に向けて伸ばす。
「<ルーン・バレット>」
差し伸ばした手から無数の白い光弾が放たれ、アンデッド達がひしめく広間を貫いていく。
骨が砕け、ローブが穴だらけとなり、広間にひしめき合っていたアンデッド達が次々に倒れていき、床には数多くの魔石が転がる。
「妙な湧き具合だな。未帰還の一党が多く出たのはこれのせいか?」
マインが軽く手を振ると、床に転がっていた魔石が瞬時に消えてなくなる。
アイがナイフを回収するときと同じ技を見せたマインは、これで十五層の調査が始められるだろうとほっと息を吐きかけて、その息をすぐに飲み込まざるを得ない光景を目にすることになった。
「三度目、だと?」
自分の目が見ているものが信じられないと思うマイン。
その視線の先には広間の入り口から、またわらわらと広間の中へ弓矢を持った人骨や、ローブ姿の人骨などが進入してくる光景があった。
つまりは、三度目のモンスターハウスとしてまたスケルトンアーチャーやレイスの混合部隊が入って来たのである。
「一体、何なんだこれは?」
マインの困惑の度合いが強まる。
第一波と第二波のモンスターハウスは決して数の少ないものではなかった。
もちろんマインは一体ずつ、アンデッドの数を数えたりはしていないのだが、それでも二回分を合わせれば数十体以上のアンデッドをこの場で葬ったはずなのだ。
だというのに、マインが見ている広間には規模として第一波や第二波に全く劣ることのない第三波が襲来しようとしているのである。
明らかにこれは異常であった。
そう判断すると同時にマインは、多数の未帰還者達が出た理由について何となく察する。
全てはおそらく、この異常な魔物の湧き具合によるものだと。
マインが退けたモンスターハウスによる第一波と第二波の攻撃。
マインは自分の装備と魔術とをもってこれを無傷で切り抜け、逆に魔物達を全滅させたわけなのだが、黒鉄級の一党が同じような攻撃を受ければ、とてもではないが無傷で切り抜けられるとは思えない。
多少の被害を出しつつも、どうにかこれを撃退できれば相当に優秀な一党で、普通なら一党が半壊。
一つ間違えれば全滅していたとしても、誰も驚かないような状況であった。
しかし、迷宮がそんな異常な程の数の魔物を生み出すことなど通常ではありえない。
迷宮の魔物は別段、無から生まれてくるというわけではないのだ。
その体は迷宮が内包している力を消費することによって生み出され、当然魔物が生まれれば生まれた分だけ、迷宮はその力を消費する。
つまり、あまり大量の魔物を生み出し過ぎれば、迷宮はその力を失うのだ。
生体型の迷宮にとって、力を失うということは迷宮にとっての死に繋がりかねない話で、生体型の迷宮はそうならないように常に魔物の発生と冒険者等から吸収することのできる力とのバランスをとっている。
マインが直面している現象は、本来とられているべきそのバランスが、何らかの理由で崩れているとしか思えないものであった。
「これは……大暴走が起きかかっているのか?」
呟くマインが横薙ぎに腕を振ると、広間全体を覆うような炎が攻撃態勢に入ろうとしていたアンデッド達がいる空間を埋め尽くした。
魔力を込められた炎は実体、霊体の区別なく炎の中に飲まれたことごとくを焼き尽くして焼失させる。
三度、アンデッド達が消えた広間には大量の魔石が散らばったのだが、マインはそれらを回収する前に一つだけある広間への入り口を指さした。
「<フォース・シールド>!」
魔力によって形成された壁が広間への入り口と、その入り口のある壁とを覆っていく。
このままではきりがないとばかりにその魔術を使ったマインだったのだが、その判断が正しかったということをすぐに知ることになる。
「第四波だと!?」
建てたばかりの力場の壁に大量のスケルトン達が押し付けられるかのように殺到し、これを打ち破ろうと体を押し付けたり、腕で叩いたりし始めたのだ。
<フォース・フィールド>は第五位階のそこそこに高等な魔術で、物理的なものも魔術的なものも一緒くたに防ぐことができるのだが、相当頑丈なはずの力場の壁が大量のアンデッド達がこれを破ろうとし始めたことで、あっさりと悲鳴を上げ始め、マインの表情が硬くなる。
倒すつもりであるならば、第四波のモンスターハウスとはいえどもこれを全滅させることなどマインにとっては難しいことではない。
しかし、常識外れの第四波が目の前に迫ってきている状況で、果たしてこれが最後の波だと誰が言い切れるだろうか。
さらにマインが危惧していること。
それはこの十五層で起きている現象が、十四層より上の階層で起きていないと言い切ることができないということだった。
もしものことを考えて、マインはリドル達を上の階層へ置いてきているが、十四層でも同じようなモンスターハウスが発生しているのであれば、リドル達の身にも危険が差し迫っている状況だと言える。
そして全階層で同じようなことが起きているのだとすれば、それはもう迷宮から魔物があふれ出す大暴走が起きているのだということだ。
「すぐに外へ出る必要があるな」
大暴走が起きるのであれば、領都を守っている軍や冒険者ギルドに一刻も早く報告を入れ、防衛体制を取ってもらわなくてはどれだけの被害が出るか分かったものではない。
ならばすぐにでもリドル達と合流して迷宮を脱出しなくてはとマインは、踵を返すと昇りの階段を一気に駆け上がるのであった。
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