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「残念だったね」
魔術師ギルドでの調査結果について、歩きながら話すことでもないだろうとマインは魔術師ギルドを出た後、リドルとアイを連れて冒険者ギルドまで着ていた。
冒険者ギルドには各種手続きを行うカウンターのあるエリアの他に、仕事をするための雑貨が購入できる店のエリアや依頼人と会ったり仲間内で話し合いをしたりするためのエリアと、食事や酒が楽しめる食堂のエリアがある。
似たような設備は魔術師ギルドにもあるのだたが、そこで話をせずにわざわざ冒険者ギルドまで移動してきたのには訳があった。
「魔術師にリドルのことを気付かれるとおそらく面倒なことになるんだよな」
詳しいことは分からないままだとしても、領都の魔術師ギルドの設備では調べきれなかった何かをリドルが持っている。
それを他の魔術師達に知られた場合、かなり危ないことになりかねないとマインは考えていた。
実際、魔術師ギルドの受付嬢がマインが設備の仕様終了を告げに行った時、それとなく遠回りにではあったのだがマインやリドルの情報を得ようとしたのである。
マインはともかく、リドルの方はぽろりと情報を漏らしそうになっており、慌てて逃げて来たという一面もあった。
「リドル、今回分かったことを教える」
冒険者ギルドの食堂エリア。
そこのテーブルを一つ占拠して、朝食兼昼食と言える食事を頼んでから、マインはリドルにそう言った。
情報を完全に秘密にするのであれば、誰も入ってくることのない個室などで話をするべきなのだろうが、冒険者ギルドに来るような者の中に魔術師のような好奇心と命とを天秤に乗せて悩むような者はいないだろうとマインは考えている。
「とりあえず、リドルの持つ術式は強化系。しかも単一や複合ではなく……たぶん、全般強化という不思議な奴だ」
魔術師ギルドの設備は不完全ながらにある程度の解析結果をマインに提供してくれていた。
そこからマインの推測も交えての説明になったのだが、リドルはうんうんと頷きつつそれを聞きながらも、その顔にははっきりとはてなマークが浮かんでおり、どうやら理解はしていないようだとマインは溜息を吐く。
「単一強化というのは、例えば筋力なら筋力だけを強化する。複合強化というのは二つ以上の要素を強化する術式のことだ。ここまではいいか?」
「なるほど。それでその全般強化というのは何なの?」
マインが行った説明の中に、リドルが持っているという全般強化についてのものがないことにリドルは首を傾げる。
「全般強化というのはな。対象者の全般を強化するんだ」
マインにそう告げられても、リドルの顔に浮かんでいるはてなマークは消えない。
その代わりの様にアイがその顔を驚きの色に染めた。
「マスター、全般ってその全てってことですか?」
マインの説明から何かしらを得たらしいアイの質問にマインは頷く。
その返答を得てアイは、リドルを何か得体の知れない存在がそこに出現したかのような目で見た。
「私だけ事態が理解できてないと見た」
「ちゃんと説明するが、これは推論の交じった確証のない説明だということを念頭に置いてくれ。何せ解析には失敗している」
一人だけ蚊帳の外に置かれたような形になったリドルが頬を膨らませ、それを宥めるような口調でマインが切り出す。
「全般強化というのはとにかく全般だ。おそらくリドルの全能力に加えて、その装備品に至るまでが強化されると見ている」
「それってすごくない?」
説明に理解が追いついたらしいリドルがそう言うと、マインとアイが揃って何度か頷いて見せる。
「能力はもちろん。身に着けている装備や道具など。おそらくほぼ全てに強化がほどこされるという術式、のように思えるんだ」
自分自身を強化するタイプの術式ならば、マインの飽きるほどに見て来た。
単一や複合の強化術式は珍しいものでもなく、魔術として扱うこともできる。
しかし、マインが推測を交えて考えたリドルの持つ術式は装備している武器や防具、使用する道具といった物までまとめて強化してしまう、と言うのだ。
それがどれだけ強力な術式であるのかは想像するのに難しくないし、そもそもマインはそんな術式を持つ者や術式自体をこれまで見たことがなかった。
「一度同じ術式を見ていればもっと確実な所が言えるんだが……今のところは強化系の術式から類推するしかないんだよな」
「なるほど?」
「それで、俺から言えることは一つ。完全に解析ができるようになるまでなるべくリドルの術式は使わない方がいい」
「使わない方がいいって……使い方もよく分からないんだけど」
「そうなんだよな……」
詳細が分からないということは、その使い方も分からないということだ。
それはマインも分かるのだが、それでも警告しておかなければならないことがあった。
「リドルの術式は、メリットとデメリットがよく分からないんだ」
「デメリット……」
「この場合、メリットが分かっている部分だけでもかなり大きいのでそれなりのデメリットがあると思った方がいい。それが分からないうちに術式を多用するというのはあまりに危ない」
無限に享受できるメリットなどこの世には存在しない。
メリットを発動させるためには何らかのデメリットがあるものと考えるのが自然なのだが、何と引き換えに大きなメリットを発生させているのかが分からないというのは非常に危険な状態であると言える。
しかし危ないといいつつ、リドルの術式は何を引き金にして発動しているのかすら分かっていないのだ。
使うなと警告しても、はいそうですかとはならない。
「そんなわけで、できるだけ早く詳細に関して調べる必要があると考える」
「調べられるの?」
リドルからしてみれば領都とは自分がいた村とは比べ物にならないくらいの規模の大きさで、しかも色々と進んだ場所に見えている。
そんな領都で調べて駄目だったものを、どこへ行って調べれば詳細が分かるというのか想像することができない。
「アイ、ちょっと」
悩む感じのリドルを一旦放置しておいて、マインはアイを手招きする。
何か内緒の話があるのだろうと座っていた席を立ってマインの傍らで身を屈めたアイへ、マインは尋ねた。
「フロートキャッスルは呼べるか?」
「え? い、いやぁあれはちょっと……その……」
目に見えてたじろぐアイの態度に、これは何かあったんだなとマインは視線を険しくする。
「何があった? 報告しろ」
「申し訳ありませんマスター。現在フロートキャッスルとは通信途絶中で、こちらから連絡を送る方法がありません」
本当に申し訳なさそうに身を縮めつつそんな報告をしてくるアイに、二十年も放っておけばそういうことも起きたりするものかと、マインは深々と溜息をつきつつ天井を仰ぎ見たのであった。
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