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「本当に俺より上手な奴なんて、見つけるのが大変なレベルだと思うんだがなぁ」


 そのまま信じられても困るのだが、信じてもらえないとそれはそれで何か悔しい気がすると、複雑な思いを抱えつつマインは引き続き操作盤の操作を続ける。

 椅子と部屋の天井や床に刻まれた術式が少しずつ解析の魔術を構成していき、赤や青の光がリドルの体を照らし始めた。


「なんだかムズムズする」


 目を閉じたままのリドルがそう言い、マインは作業の手を止めることなくそれに応じた。


「多少はな。リドルの中にある術式を引っ張り出して調べるんだ。多少の違和感はどうしたところで出てしまう」


「ガマンする」


「そうだな。いい子だ。なるべく流れに任せて抵抗を考えなければ楽だぞ」


 マインの言葉にリドルは頷く。

 リドルにとっては初めての経験で、違和感を覚えているようであるならば、できるだけ短時間で用を済ませてやることがリドルへの負担を軽くすることに繋がるだろうと、マインは操作盤作業の速度を上げた。


「どうです、マスター?」


「まだ分からん」


 操作盤の一部に次から次へと文字や数字が飛ぶような勢いで流れている。

 とてもではないが目で追えるような速度ではないそれを、マインとアイはさも見えているかのようにじっと見つめた。


「実際私は見えているわけなんですが、マスターはどうなのです?」


 アイはホムンクルスであり、その得意とするところは管理や統率といった膨大な情報を処理することだ。

 そのために必要な能力として、人外レベルの速読というものがある。

 山のような書類があったとしても、そこに書かれている情報を流れるように読み取れてしまうその能力をもって、アイは操作盤が吐き出す情報をつぶさに読み取っていたのだが、いちおう人族の分類であるマインにそこまでの速読能力が備わっているとは思えなかった。


「なんとなく、だな」


 作業を続けながらマインは、きちんとは読み取れていないことをあっさりと認めた。


「いいんですかそれ?」


「慣れだな」


「慣れですか?」


「詳細な結果は作業が終わればきちんと出てくるわけだし」


 そんな受け答えをしながらでもマインの作業の手は止まることも躊躇うような素振りを見せることもない。

 まるで予め正解が分かっているかのように、リドルが持つ術式の構成を少しずつ解析していっている。

 流れている情報に目が追いついているアイは、その内容とマインの手つきに舌を巻いた。

 これが慣れで行われている作業だと、やっている本人から申告されたところでそうなのですかとは受け入れがたい。


「こういうのを数こなすと、なんとなく分かってくるもんなんだよ」


 マインがそう言った時、流れる情報の一部にエラーが走った。

 解析用の術式が何かしらの原因で解析に失敗し、正常に動作することなく異常終了してしまったのだ。

 そのことを知らせるたった数行の文字列が流れた瞬間、マインは元々走っていた術式を別のタイプのものに交換。

 即座に同じ個所の再解析を実行する。

 解析用のタスクは並列的に数百近い処理が走っており、アイが見たエラーはその中のたった一つに過ぎない。


「見えてますよね?」


 操作盤が吐き出す情報が見えていないのであれば、今の速度での対処は絶対におかしいと思うアイに、マインは視線を操作盤の上へと向けたまま、適当な調子で答えた。


「だから慣れだって」


「鳴れで今のに気付きますか!?」


「気付くだろ。変な情報を吐いたし」


「読めてないのに何故変だと分かるのですか!?」


「それこそ慣れだよ。長くやっているとなんとなく分かるようになる」


 絶対嘘だと思いたいアイなのだが、嘘であることを確信することができない。

 ただ、ここで言う長くやっていればと言うのは一体何年くらいの期間を指すのだろうかと考えると、そういうこともあるのかもしれないと思ってしまいそうになる。

 その場合、その期間は何十年とか百数十年とかなんだろうなと思うものの、リドルが聞いている手前、そこには触れないアイであった。

 そうこうしている間にも解析作業は進み、そろそろ何かわかってもいいのではないかとアイが考え始めた時、それまで淀みなく動いていたマインの手がぴたりと止まる。

 作業が終了したのかと思ったアイは操作盤が出力し始めた情報を目にして思わず呻き声を漏らしてしまった。


「なんですかこれ?」


 それは一言で言い表すならば、でたらめとしか言いようのないものであった。

 意味を成しているとは思えない文字と数字の羅列が延々と吐き出されている。

 何かこれはこれで意味があるのかもしれないと、速読の能力と自分のホムンクルスとしての情報処理能力とを駆使して、アイは目の前の情報を理解しようと試みたのだがやはりさっぱり分からない。

 これは無意味なのか、それとも自分の理解の及ばない何かなのか、どちらなのかと悩むアイの目の前で、それまで適当に見える文字と数字とを吐き出していた操作盤の表示が消えた。

 何事かと顔に緊張を走らせたアイだったのだが、すぐにマインが操作盤の作業を打ち切ったせいだと気付く。


「マスター?」


「いやまいったね」


 あまりまいっているようには聞こえない声でマインはそう言うと、リドルに椅子から下りていいと告げ、アイにはリドルが装備を整えるのを手伝うように頼む。


「あの、マスター? 説明はなしなのでしょうか?」


 文句めいたことを言いつつ、リドルが鎧を身に着けるのを手伝い始めたアイ。

 リドルも何か問いたそうにマインの方を見ており、それに気付いたマインはひょいと肩を竦めた。


「解析に失敗した。ここの設備じゃちょっと力不足らしい」


「それ程のものですか」


 トゥゼットの魔術師ギルドに設けられている設備の質が悪いわけではない、とマインはひとりごちる。

 普通ならば十分すぎる能力があるはずなので、今回それが役に立たなかったというのはリドルの持つ術式がそれ以上に強大で複雑だったせいだ。


「ここよりもっと大きくて強力な設備じゃないと完全な解析は無理らしい」


「ここ以上……」


 マイン達がいるのは領都であり、領都もかなり大きな都市だ。

 そこで足りないとなれば、もっと大きな都市にある魔術師ギルドへ行く必要があった。


「王都くらいしかないだろうなぁ」


 領都より確実にいい設備がありそうなのはそこくらいだろうと、マインは小さく呟いたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話が進むにつれて、だんだん面白くなってくるので 返す返すも最初の数十章の退屈さが勿体ないです。 そこで逃げてしまった読者さんも多いのではないでしょうか。 始めの方を「掴みはオーケー」に…
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