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魔術師ギルドと言うものは、基本的には静かでとても暇な場所だ。
何故ならば、ほとんど人が来ない。
魔術師同士の互助組織ではあるものの、その魔術師自身があまり他者との交流を持ちたがらない偏屈が多いせいもある。
冒険者ギルドのように誰かが何らかの依頼を持ち込むということもない。
魔術師ギルドは魔術師のための組織であるので魔術師しか所属しておらず、魔術師にできることしかできないからだ。
しかも専門職で、魔術師になるためにはそれ相応のコストと時間もかかっており、コストがかなり高い。
汎用性がなく割高であるというのであれば、誰もが魔術師ギルドよりも冒険者ギルドを選択するのは当然のことであった。
だが、魔術師ギルドの収入源は会員からの年会費や、会員が研究成果を登録する際の手数料、それと寄付金が主だったもので資金面はかなり潤沢であり、なにも困ることは特にないというのが現状である。
そんなわけで魔術師ギルドはやはり暇を持て余していたのだが、その日は少々雰囲気が異なっていた。
朝っぱらから来客があったのである。
「魔石の買取と、設備の使用許可を取りたい」
魔術師ギルドの受付に到着するなりそう切り出したのはマインであった。
客も、ギルドメンバーもほとんど来ない環境で、すっかり油断しきっていた受付嬢だったのだが、そこはやはりプロなのか、数瞬程の空白を挟んでから接客用の笑顔と声音をすぐ準備。
「ご利用ありがとうございます。まずは魔石の買取からですね」
応対しながら受付嬢はカンター越しに来客を観察する。
今回の来客は魔術師らしき男性が一人に戦士か剣士と思われる女性が一人。
そして何故かその後ろにはメイドが一人いる。
どういう組み合わせなのやらと不思議には思うものの、受付嬢は詮索はしない。
受付嬢自身も実は魔術師であり、しかもハーフエルフの出自でそれなりの年数を重ねて来ている。
そして好奇心も強い方ではあったのだが、同時に素性の知れない魔術師相手に下手な好奇心を抱くとそれは命の危機に直結しかねないということを熟知していたからだ。
会話の中からそれとなく、好奇心を慰める程度の情報を引き出すことができれば、多少の暇潰しにはなるだろう。
そんなことを考えつつ受付嬢はカウンターの下から魔石の質を計るための測定器を取り出す。
「魔術師ギルドにわざわざ持ち込まれるということは、かなりいい物が出たので?」
魔石を遠くから、或いは遠くへ持ち込むメリットは特にない。
需要がどこへ行ってもかなり高いので、どこで売っても似たような値段が付くからだ。
あまりにも物が良すぎて高値がつき、辺境近くの街などでは書いとるための資金が用意できずに仕方なく領都や王都へと持ち込まれることはたまにあるが、そこまでいい出物ならば事前に何らかの情報が出回っていたとしてもおかしくない。
つまり、持ち込まれた今回の魔石は領都トゥゼットの迷宮から出た物で、冒険者ギルドに持ち込むにはちょっと惜しいかなと思われた程度の物と受付嬢は考えた。
「出たというか……まぁ物を見てくれ」
そう言ってマインがローブの中から魔石を摘まみだしたのを見て、受付嬢は気分が萎えるのを感じた。
その程度の大きさの魔石ではあまりにも小さい。
魔石の質はともかくとして大きさというものは、産出した魔物によって大体決まっている。
マインが出そうとしているそれは、大きさからしてどう見ても迷宮の浅い階層で産出された物であった。
これならばわざわざ魔術師ギルドに持ち込まなくとも、どこでも同じ値段で買い取るだろうにと思いつつも仕事だからと自分に言い聞かせて、マインがカウンターの上へと転がした魔石を目にした受付嬢は即座にその顔を強張らせ、魔石とマインの顔とを交互に見比べる。
「なんですこれ?」
思わずそう聞いてしまう程に、受付嬢は衝撃を受けていた。
大きさは本当に大したことがない。
おそらくはゴブリン辺りから採れる魔石であり、普段ならば銅貨数枚程度で取引されるような代物であった。
しかし、その色合いと内包されているだろうと思われる魔力の量がとんでもない。
青い色は澄み切ってそれでいて深く、見ているだけで意識が持って行かれそうなそんな錯覚に陥るような青。
触れれば脈打つような感覚と、指先に走る痺れにも似た刺激。
この大きさでこんな色と質をした魔石を受付嬢はこれまでに見たことがない。
一体何がこんな魔石を出したのかと思いながら、慎重に魔石を摘まみ上げて測定器へと乗せた受付嬢は、そこから出た結果にあんぐりと口を開けたまま固まってしまう。
「そんな驚く数値が出たか?」
受付嬢の様子を見て、マインがカウンターの外から測定器を見る。
リドルも興味深そうに一緒に測定器を見たのだが、何か数字が出ていることは見て取れてもそれが何を意味した数字なのかはさっぱり分からない。
「マイン、これ何?」
「魔石が内包している魔力の量を数値化したものだな。単位はアーデルハイトでこの魔石には計測上で八百アーデルハイトの魔力が入っているらしい」
「すごいのそれ?」
「さてなぁ? 第三位階の魔術が消費するのが百から二百くらいのはずだから、一人前の魔術師と同じくらいといったとこか」
「ふーん」
「ふーん、じゃないですよ!」
受付嬢がいきなり大声を出し、驚いたリドルがマインにしがみつく。
「急に大声を出すなよ。怖いじゃないか」
「それは申し訳なく……ですがっ、一人前の魔術師一人分の魔力をこの大きさで持ち歩けてしまうんですよ!? すごいに決まっているでしょう!」
受付嬢はかなり興奮してそう言うのだが、マインには今一つぴんとこない。
マインからしてみれば魔石の内包していた魔力はほんのわずかな量に過ぎなかった。
そもそも八百アーデルハイト程度の魔力量では、第四位階の魔術をぎりぎり一度行使できるかどうかで、第五位階となるとまるで足りない。
「すごい魔石だという評価は分かった。それでいくらになる?」
ゴブリン五十匹分の魔石をまとめたにしては、内包している魔力量が妙に多いなとマインは考える。
おそらくは精錬時に自分の魔力が少し上乗せされたのだろうと考えてから、買取価格を尋ねるマインに受付嬢は少し迷ってから答えた。
「えぇっと……金貨五十枚なら即決します」
「それでよろしく」
受付嬢が提示した金額はマインの予想の五倍も高い。
当然提示された金額にマインが不満を抱くわけもなく、即答したマインの言葉に受付嬢はぱっと顔を輝かせたのであった。
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