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その後リドルは拾った魔石の数が五十になるまで延々とゴブリンを倒し続ける。
小剣の数もきりよく二十本となったので、マインが切り上げることを提案し、これに反対意見が出なかった。
「これでいくらくらいになるのかな?」
迷宮から外へと出ると、時間はもう夕刻近くになっており、どこかで時を告げる鐘の音が十六回鳴るのが聞こえた。
本日の成果を嬉しそうに尋ねるリドルに、マインは少し考えてから答えた。
「本数が多いが……所詮クズ鉄だからな。小剣は全部で金貨一枚になれば上々だと思うぞ」
「少ないねー」
リドルががっかりした声を出す。
数刻を費やし、勢いで昼食を抜いてまで狩った成果としてはあまりにも少ない金額であり、リドルが失望するのも分からないでもないマインは、ローブの中から小さな青い石を取り出した。
「悲観することはないぞ。小剣だけならそんなものだが、本命はこっちだ」
「似たり寄ったりでしょ?」
ゴブリンの小剣よりは数多く出てはいるが、ゴブリンが出す魔石の買取価格は小剣と同じくらいでしかないとリドルは予めアイから聞かされていた。
つまりは小剣の売値の倍ももらえれば上出来で、それだと全部で金貨三枚くらいにしかならない。
宿代を支払ったらなくなってしまう程度の金額では気分も上がらず、領都へ入るための列にとぼとぼと歩いて行こうとしたリドルは、マインが見せた物を目にして自分の目を疑った。
マインが右の親指と人差し指とで摘まむようにして見せた石は、大きさこそゴブリン産の魔石とほとんど変わらないくらいであったが、鮮やかな青と純度の高い透明感とがゴブリンの物とはまるで別物であることを声高に主張していたのだ。
その輝きは石が内側から自ら光を発しているかのようで、宝石のように磨かれ、形を整えられていないというのに、リドルは高価な宝石を見せられたかのようにしばし目を奪われてしまった。
「マイン、それは?」
少なくともゴブリンから生み出された物ではない。
本日は嫌という程にゴブリンを倒してきたリドルの目は、ゴブリンの魔石がどんな物であったのかをはっきりと覚えている。
だが、マインの返答はリドルがありえないと思う代物であった。
「この迷宮のゴブリン産の魔石だが?」
「嘘だよね?」
リドルが本日ずっと見続けて来た物はマインの手の中にある物とは似ても似つかない物だったのだ。
「嘘はつかない。もっともこれ一つしかできなかったがな。それでもこれ一つで最低でも金貨十枚にはなるだろう」
「これ一個で!?」
「もうちょっと行きそうな気もしますが」
マインの評価にリドルは驚き、アイは訂正が必要ではないかと言った。
「どうやって入手したの?」
「だから元はリドルが倒したゴブリンの魔石だぞこれ」
リドルは自分がゴブリンをひたすら倒している間に、マインが何か別のゴブリン的なものを倒してその魔石を入手したのではないかと考えた。
しかしそれはマインに否定される。
「これはリドルが倒したゴブリンの魔石五十個を材料にして作ったものだ」
「作ったの!?」
「声が大きい」
人の注意を引きたいわけではないマインがそう言うと、リドルは自分の口を手で押えた。
「魔石というのは魔力の結晶だ。どういう原理でできているのかを知っていて、それの再現ができるのであれば、クズ魔石を精錬してちょっとマシな魔石にすることもできる」
「マスター……それ、現状では一般的ではない知識と技術です」
少し自慢げに話したマインの耳元へ、周囲に聞こえないように注意しながらアイが可能な限り潜めた小声でぼそぼそと囁く。
それを聞かされたマインはわずかに頬の辺りを引きつらせた後、何事かあったのかと見守るリドルに押し殺した声で告げた。
「これも魔術師の裏技なので。公言しないように頼む」
「分かった」
素直にうなずいたリドルにほっと胸を撫でおろしつつ、マインは意外と魔術師の技術水準が二十年くらい前から上がっていないことに内心驚いていた。
「魔術師、さぼってんのかね?」
「違うと思いますし、あなたが言いますかと突っ込みたい気持ちがいっぱいですがまぁいいです」
独り言めいたマインの一言に、何か含みのあるような言い方をしたアイなのだが、マインが目を向けると何も言わずにそっと目を伏せる。
言いたいことがあるならば言えばいいものをと思うマインなのだが追及はせず、指でつまんでいた魔石をローブの中へと戻す。
「リドル、こいつは魔術師ギルドに売りに行く」
魔石の需要は高く、買取をやっている所であるならば大概どこでも引き取ってくれる。
リドルとしては冒険者ギルドに売って貢献を稼ぎ、階級を上げる足しにしたいところだったのだが、マインには魔石を魔術師ギルドに持ち込みたい訳があった。
「懐具合は厳しいんだが、もう一泊くらいはいい所に泊まれる。魔石の売却を後にしてでも魔術師ギルドに用があるんだ」
魔石を一番高く買い取ってくれそうなのも魔術師ギルドであるしとマインが付け加えると、リドルも何となく納得はしたものの、今度はそこまでして魔術師ギルドに行きたがる理由に興味を抱く。
「それはな。この魔石を魔術師ギルドに持ち込んだ流れで、ギルドの設備を借りてリドルの持っている術式について調べたい」
リドルは自分の持っている力を使いこなしつつある。
そうでなければポップしたばかりとはいえゴブリンを数十匹も一撃の下の倒し続けるようなことができるとは思えない。
「順調にこなれつつあるとは思うんだが、正体不明の力を使い続けるというのはどうにも何となく怖い」
「それはまぁ……そうかもしれない」
強くなったと浮かれてばかりもいられない。
現状に問題がないとは言え、この先もずっと問題なく使えるものなのかどうかまでは分からないのだ。
とにかくどのような力であるのか。
それさえ分かればまだ対処の方法も考えようがあるというものである。
「そういう訳だから協力してくれ」
「うん、分かった」
真剣な表情でマインが行った申し出に、リドルは神妙な面持ちで頷いたのであった。
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