2-20
リドルの剣技は拙い。
剣筋に技術を凝らすこともなく、攻撃は横薙ぎか縦斬りのいずれかだ。
それでも一撃の威力はなぜか高く、ゴブリン程度の魔物では受けることも避けることも許されないままにただ蹴散らされていく。
「ねぇマイン」
また一匹のゴブリンが砕け散り、光の粒となってどこかへ消えていく。
後に残るのは青く透明な小さな魔石。
そして見るからに品質が悪そうな小剣が一振り。
「ゴブリンの小剣ですね。当たりです」
「一本いくらくらいになるのこれ?」
「クズ鉄ですから、銅貨数枚ですね」
アイはそう答えつつ小剣をメイド服のポケットへと滑り落とし、魔石はひょいとばかりにマインへと放り投げる。
「普通は捨ててく物だがな」
かさばるばかりで大した値段も就かない代物は、迷宮の床に放置していくと勝手に迷宮が回収してくれる。
ただマイン達にはマインとアイという<インベントリ>機能を持つ服を着ているメンバーがいるので、運搬能力は尋常なものではなく、金目の物ならば根こそぎ持って行ってしまえという行動方針になっている。
「戦利品って今どこのくらい?」
「小剣だけですと十本くらいかと」
アイがリドルにそう答えて、そちらはどうでしょうかとマインに水を向ける。
「魔石は三十くらいかな」
「結構集まったね」
数はかなりのものなのだが、リドルは大した疲労を覚えていない。
何故ならばほとんど一撃で戦闘が終わってしまうからだ。
迷宮が生む魔物は宙に浮いた黒いもやのようなものから生じるのだが、マイン達はそのもやの近くに陣取り、魔物がポップすると同時に一撃で仕留めてしまっている。
最小限の労力で狩り続けているので、体力的にはかなりの余裕を残しており、倒した端から死体は迷宮が吸収して消えていくので、気が滅入るということもない。
稼ぎだけを考えるのであれば非常に楽ではあるのだが、楽であるが故に単調な作業で飽きが来る。
「マイン、他の人達もこんなことしてるの?」
質問と同時にまた一匹のゴブリンの頭が爆ぜた。
ゴブリンの断末魔と、小さな魔石が床に落ちる音が響く。
「まさか。少しばかりズルをしている」
アイが魔石を拾ってマインへとパス。
それを受け取ったマインの一言に、リドルは納得したような顔を見せた。
「やっぱ何かズルしているよね。ポップ場所が固定だし。ポップ速度が妙に早い気がするし」
言いながら横薙ぎにしたリドルの剣がポップしたばかりのゴブリンの首を横一文字に切り裂いてまた断末魔の悲鳴が上がる。
首を切られたゴブリンは、その体が地面へ倒れるより先に光の粒となって消えた。
もし迷宮内の魔物が生まれる場所が完全に固定されているのであれば、その周囲で待ち伏せをしていればかなり確実に、そして苦労することなく魔物が狩れてしまう。
それは自然なことだとは思えず、異常なことなのであるとするならば、誰かが何らかのいかさまをしているはずで、それが誰の仕業なのかを考えると、この場においてはマイン以外にいないだろうとリドルは考えていた。
「確かに少しばかりの細工をして、ポップ場所を固定したのは俺だが……速度には触れていないぞ?」
「そうなの? それじゃこれが普通?」
リドルに尋ねられてマインは考える。
言われてみると確かに、一定時間当たりのポップ回数が少しばかり多いように感じられた。
迷宮が魔物を生み出すのに使っている力は魔力や生命力で、その流れを少々いじることによりポップ場所を固定化する方法を実行しているのは確かにマインだ。
しかし、魔物を生み出す速度を上げる方法というものは、実はない。
魔物を迷宮に沢山生ませれば、当然その数分だけ迷宮は多くの力を使うことになり、吸収する力と消費する力とのバランスが崩れ、やがては迷宮が滅びてしまう。
迷宮を滅ぼす覚悟で金を稼ぐというのも手の一つではあるのだが、迷宮は冒険者達の重要な稼ぎ場であり、それを個人の身勝手で潰してしまうことは、マインにはできなかった。
それ故にマインも、強制的に魔物を大量に迷宮から生み出させる技術というものはこれまでに研究してきていない。
また、そんな難しいことをしなくとも迷宮は時たまとんでもない速度で魔物を生み出すことがある。
大暴走と呼ばれるこの現象は、何らかの理由で迷宮が過剰に力を供給されたり、溜め込み過ぎてしまった時に、迷宮の外まで溢れかえるくらいの魔物を生み出してしまうのだ。
これが発生すると近隣の村や町は壊滅的な被害を受けることになり、時として国そのものが傾くこともある。
そうならないために監視や間引きというものを冒険者達が担当しているという話もあった。
そこまで考えて、マインは妙な引っかかりを覚えて首を捻る。
何かしらよくないことをしてしまった感じがあるのだが、詳細にそれが何であるのかということが思いつかない。
「マスター……ポップ位置を固定なんて真似、普通はできませんよ」
またポップしたゴブリンにリドルが切りかかるタイミングで、アイがマインへそっと耳打ちした。
「え? 迷宮内の魔力経路の操作とポップ位置との相関関係って迷宮学の論文。あれが出たのは相当前だろ?」
迷宮学とは主に生体型迷宮に関する学問のことで、産出される魔石の重要性から魔術師の間ではかなり盛んに研究がなされているものだ。
その研究は迷宮の発生メカニズムから成長過程、発生する魔物の傾向やその発生システムなどである。
マインが言及した論文は、かなり昔に発表された代物で、発表者はマインではなかったのだがその内容にマインは興味があり、論文を取り寄せて読み込んだ結果、できるようになったのがこのポップ位置固定という技術であった。
論文自体が古い物であったので、てっきりそれくらいのことは出来るくらいに研究が進んでいるものとばかり思っていたマインなのだが、そこまで進んではいなかったらしい。
「原理として可能。ただし、必要とされる魔力操作能力が尋常ではないということで、実現はほぼ不可能という結論になりました」
「それは……リドルには裏技的なものだから、公言しないようにと言い含めておくか」
何となくやらかしてしまった感じがしたのは、きっとこのことだったのだろう。
広く大きくバレて、大騒ぎになる前に気付けたことは幸いであったと、マインはほっとしながらもリドルにはよく言い聞かせて、間違っても情報の漏洩が起きたりしないようにしなくてはと強く思うのであった。
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