2-18
「さてそれじゃ、いよいよ冒険者としての初仕事だね」
意気込むリドルの様子に、マインは考える。
それはこのままリドルを冒険者としての仕事に行かせていいものなのだろうか、という疑問であった。
基本的に一党というものは、五人で組むのが通常である。
もちろん、五人でなければならないというルールが定められているわけではないので、マインが三人しかいない現状で一党の結成届を出しても受理されたわけなのだが、実際に動くとなればこの人数で大丈夫なのだろうか、と思ってしまう。
「いちおう確認する。リドルは前衛になるんだよな?」
「当然だね」
疑う余地など一片もないといった感じでリドルが答える。
騎士王物語という小説に憧れて村を出て来た以上、リドルの目標はその小説の主人公であり、その小説の主人公は剣士から騎士になったという経歴をたどるので、それに準じた形にしたいと思うのは自然なことであった。
「俺は魔術師だから後衛でいいと思うんだが」
「マスターが後衛ですか」
どこか納得いかないような顔でアイが言うが、マインはそれを視線で黙らせる。
実力だけで語るのであれば、リドルの前衛としての能力はマインのそれより格段に劣る。
確かにマインは魔術師なのだが、剣士としての腕前も普通に一人前として認められる程度には修めているからだ。
しかし、それを言ってしまったら何故そんなことができるのかということを説明しなければならず、そうなるとマインの正体について言及せざるを得なくなる。
人の一生はそれほど長くない。
魔術師としての技術と剣士としての技術を同時に一人前レベルにまで修めるには、あまりにも時間が足りなすぎるのだ。
もっとも、ただ修めるだけならば年齢を気にせずひたすら学べば、人生が終わるまでにはどちらも一人前になれるかもしれないが、マインは設定上では二十一歳の若者でしかなく、時間的に無理がありすぎる。
「俺はともかく……メイドというのはどっちなんだ?」
アイの能力に関して話をするのであれば、マインとしては文句をつけることはできない。
何せアイはマインが自ら調整して作ったホムンクルスなのだ。
その能力に疑問を抱くということは、自分の能力に疑問を抱いているのと同じ意味になるのだが、どこまでそれをリドルの前に開陳するべきなのかについては、アイ自身の判断に委ねるしかない。
「私はどちらかと言いますと中庸? 野伏か盗賊のような感じだと思って頂ければ間違いないかと思います」
なるほどそれは上手い選択だとマインは感心する。
中途半端な言い方をしておけば、どっちかに偏ったような行動をとってしまったとしても、中庸だからどちらもそれなりにできますし、と言い訳が立つ。
もちろん、見る者が見ればそんなレベルではないということを見抜かれてしまうかもしれないが、この一党内に限って言えばマインとアイは同じ穴の狢であるし、リドルは一般的な冒険者というものを知らないので、アイの行動が一般的な物なのだと勘違いしてくれる可能性が高い。
「そうなると、前衛一人中庸一人後衛一人? バランスはいいような気がするね」
「バランスだけならな。人数はまるで足りていない。できれば神官を一人入れておきたいところだ」
回復や防御に特化した傾向のある法術が使える者が一人いるだけで、戦闘に関する危険度というものはぐっと下がる。
マインとしては一党を五人で組むことを考えるのであれば、現状に加えて神官一人と前衛一人を加えておきたいところであった。
しかし、人というものはそう簡単に見つかるものではない。
追加の人員が見つかるまで、仕事は控えるというのも選択肢ではあるのだが、マイン達にはそうのんびりとしたことを言っていられない事情があった。
「人探ししてる時間、ある?」
リドルに指摘されるまでもなく、マイン達の資金事情はそれほどよくない。
元々文無しなところに金貨数十枚程度の臨時収入があったばかりではあるのだが、ちょっと立派な宿を取った事と、冒険者ギルドへの登録料を支払ったことによって、その資金は目減りしており、とても余裕がある状態とは言えないのだ。
宿のグレードを下げればいくらか持ちはするものの、マインとしてはあまりリドルやアイを安宿に泊めたいとは思わない。
安宿には安いだけの理由というものがあるのだ。
それは部屋の汚さであったり、食事の不味さであったり、治安の悪さといった点に如実に表れてくる。
できれば一人一泊金貨一枚程度の宿に泊まりたいとマインは考えているが、そうなると手持ちの現金ではいくらもしない内に尽きてしまう。
「時間はないな……稼ぐしかないか」
アイに命じて資金を融通させることは可能だが、そうなってくるとリドルにどこからどういう理由で出た資金なのかを説明しなければならなくなる。
そんな面倒を行うくらいなら、大人しく冒険者として今晩の宿代くらいはさっさと稼いでしまった方が、何かと問題が少ないだろうとマインは判断した。
幸いなことに、マイン達の一党は装備に関してはほとんど考える必要がない。
マイン自身は必要な物は最低限身に着けているし、そうでないものもローブに付与されている別空間に荷物を収納する魔術<インベントリ>によって見た目よりもずっと大量の物資を運んでいる。
アイはメイド服の中というわけではなく、こちらもメイド服に付与された<インベントリ>機能によって大量の物資を運んでいるので補給の必要がない。
どこからともなく出てくる大量のナイフなどはその現れだ。
リドルはその機能を持った物品を持っていないので、自分で運べる分の物資しか持っていないが、装備に関してはマインの研究室から持ち出したほぼ最高品質の物を身に着けているので、いまさら買いに行く必要がなかった。
「それならお仕事だね! ゴブリンでも退治しに行く?」
「初心者向けの依頼ではあるんだろうが、わざわざ遠出する必要はないだろう?」
それにゴブリンは村を出る前に大量に退治してきたのだから、しばらくは近づかなくてもいいだろうにとマインが言うと、リドルはそれもそうかと頷く。
「それなら何をするの? 薬草採取?」
「領都の近くに採取できるような場所があるのか? そんな出歩かなくては遂行できないような依頼を引き受けなくとも、もっと手軽ですぐ近くに稼げる場所があるだろ」
「えぇっと……迷宮?」
リドルの言葉にマインは頷く。
領都トゥゼットのすぐ近くには迷宮がある。
領都を護る防壁のすぐ外にあるそれは、日夜一攫千金を夢見て潜る冒険者達がいる場所で、危険と引き換えにそれなりの収入を約束してくれる場所でもあるのだ。
そこならばわざわざ時間をかけて移動することもなく、金目の物を引き上げることさえできれば、今日の宿代くらいは楽に出るのではないか、とマインは提案するのであった
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