2-16
その後、マイン達一党の名前はターコイズにマインが決めた。
決まったのではなくマインがリーダー権限を強引に行使する形で決めたのである。
これは、アイやリドルが妙に不穏当だったり、ちょっと名乗るには恥ずかしいような単語ばかりを選び、そのたびにマインが却下するというやりとりを何度か繰り返した後、このままでは何かしらの妙な名前に決まってしまうか、或いは身内同士でのケンカに発展してしまうのではないか、と危ぶんだからだ。
「マイン、ターコイズって何?」
「不透明の青い石だな。いちおう宝石に分類され、旅人のお守りだとされている」
「旅人のお守りかぁ。なんかいいよね」
「俺はあんまり好きじゃない」
リドルは名前の由来を聞いて、いい名前だと思ったようなのだが、マインの反応は少し予想外だったらしく驚く。
「なんで? 冒険者っぽくない?」
「旅人のお守りだろ? 俺は旅の安全より安全な定住の方が好きだ」
「マスター、私から見てマスターがそれを言いやがりますかと突っ込まざるを得ません」
アイが至極真面目に言う。
アイからしてみればマインとは、ふらりと姿を消しては十年くらい、勝手に行方不明になるような人物だ。
そんなマインが安住の地の方が好きだというのだから、アイが理不尽さを覚えたとしても無理はない。
「マスター、私は平静さを失おうとしております」
「そこまで怒るか」
ぐいぐいと詰め寄ってくるアイをリドルが羽交い絞めにし、マインが正面からアイアンクローで止める。
「俺は安住の地が好きだが、安住も長く続くと暇になるだろ? 暇は大嫌いだ」
「なんと贅沢で身勝手な」
「それは否定しない」
不満そうにしながらも詰め寄るのを止めたアイの顔面からマインが手を離すと、背中のリドルも離れていく。
「ご主人様。かなり力持ちですね」
「そうかな?」
「はい。メイドとして鍛え上げられた私を羽交い絞めで止められるなんて大したものです」
メイドにそんな大層な筋力など必要ないだろうにと茶化しつつ、書き上げた申請用紙をリドルが書いた登録用紙とを持って、予め指定されていた冒険者ギルドの窓口へと提出に向かったマインなのだが、その表情には出さなかったものの内心では酷く驚いていた。
メイドという職業には確かにマインが茶化したようにとんでもないレベルの筋力という物は、特に必要とはされていない。
しかしアイは、その正体はホムンクルスであり、マインの手によって能力を設定、創造された存在なのだ。
その性能は創ったマイン自身がよく知っており、どのくらいの筋力をもっているのかということも把握している。
「アイって、その辺の冒険者達よりずっと力が強いはずなんだがなぁ」
そこはマインがかなり苦労して設定、構築したところだったのだ。
力を増やすには単純に筋肉を多くつけてやればいいのだが、それをやると体の線は崩れ、体格は大きくムキムキのマッチョなメイドというものになってしまう。
それは一つの機能美なのかもしれないが、マインとしては性能に加えて造形美というものも維持しておきたかったのだ。
つまりは女性としての体の線の美しさやプロポーションを保ちつつ、その辺の男よりもずっと協力であるということを追いかけた結果がアイなのだ。
そのアイを、体の線を崩さず、プロポーションも保ったまま、リドルは力で上回ったというのである。
「この短期間でリドルは自分の力の使い方を覚えつつあるのか?」
リドルは何かしらの力を持っている。
魔術師の間では無意識下の術式と呼ばれるもので、これを持つ者は稀だ。
リドルの場合、元々持っている能力をかなり高い倍率で増幅するタイプの術式らしいのだが、現状ではマインもその詳細についてはよく分かっていない。
適当なタイミングで術式に就いて調べる器具のある所。
たとえば魔術師ギルドのような場所へ行って、きちんと調べる必要があった。
今はまだ、リドルの体への負担という形での影響は出ていないが、強化系の術式は強化中はかなり強力だが、その分だけ体への負担も強い。
調子に乗って使いまくられ、取り返しのつかないダメージを体に負ってからでは遅いのだ。
そんなことを考えながら提出用の窓口に並んでいたマインは、自分の番が来ると二枚の容姿を窓口に提出。
これを受け取ったギルドの男性職員は書かれている内容におかしなことや不備がないかどうかを確認し始める。
「ん?」
ギルド職員が声を上げ、書類を持ち上げてまじまじと見つめだす。
何か妙なことでも見つかったのだろうかと考えたマインはすぐに、アイのことではないかと思い当たる。
ギルド職員は何度も書類を確認し、見間違いや書き間違いの類ではないことを見てから、マインの顔をじっと見た。
やましいことなどないマインなのだが、ギルド職員の視線の中に正気を疑うyおうな雰囲気を感じて思わず下を向いてしまう。
やはりふざけていたのかと、マインの反応を見て取ったギルド職員は受け取った書類をマインの方へ押し戻そうとしてふと、少し離れた場所からじっとこちらの様子を見ている銀髪ボブカットでメイド服姿の女性がいるのに気付いて手を止めた。
考えることしばし。
やがて何かしらの考えがまとまったのか、押し戻しかけていた書類を手元へと引き寄せると、何かさらさらとかきつけてから判子を押し、書類を背後の棚へと入れてからマインの前へ革紐のついた金属のプレートを二枚置いた。
「個人用、一党用共に黄銅級のプレートだ。失くすなと言っても失くす奴は失くすから失くすなとは言わない。再発行は銀貨五枚からだ」
マインとアイは冒険者ギルドとは別のギルドから身分を保証されている身であるので、個人用プレートはリドルのためのものだ。
一党用はいちおうリーダーとして登録されている自分が身に着けておくべきだろうと、マインは首から革紐付きのプレートを下げた。
「ギルドの規約はこれを読め。それと個人と一党用の登録料、全部で金貨十枚。年会費が個人と一党で合計金貨五枚。合わせて金貨十五枚だ」
ギルド職員が差し出してきた冊子を受け取りつつ、痛い出費だなと思うマインなのだが、これを支払わないといった選択肢はなく、マインは嘆息を漏らしながらカウンターの上へと金貨を並べ始めたのであった。
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